第12話
その日、いつもと同じ朝だと思っていた僕を待ち受けていたのは、いつもと少し違うそわそわした雰囲気のクラスメイトたちだった。
いったいなにごとだろう、と思いながらも、それを訊ねる友だちはこの教室にはいないので、僕は大人しく席に着く。
せっせと教材を机のなかに移動させていると、とんとん、と指で机を叩かれて顔を上げる。
短髪男子の顔が飛び込んできた。
僕の前の席の男子、奈良涼太だ。
「なぁ、錦野。今日さ、転校生が来るって知ってた?」
「えっ、転校生?」
奈良に話しかけられたことにも驚いたが、それよりも、転校生というワードに驚いた。
「こんな時期に?」
「らしいよ。しかも女子だって」
「……ふぅん」
寝耳に水の話だった。
「どんな子なんだろうな」
「……さぁ」
適当な相槌で返すと、奈良が呆れた視線を向けてきた。
「お前、もう少しひとに興味持てよ」
「べつに、僕には関係ないし……」
「……お前ってさぁ、中学でもそうだったの?」
一瞬、脳内が巻き戻しされて過去のトラウマが蘇った。責められたような気分になり、わずかに怯む。
違う、きっと奈良はただ疑問に思って訊ねただけ。責められてるわけじゃない。引き攣りそうになる口角をなんとか抑えて、奈良を見上げる。
「なにが?」
「……いや、べつに」
奈良も空気を察したのか、それ以上話しかけてくることなく、前を向いた。僕も、なにも気にしていないふりをして鞄から文庫本を取り出し、読書を始める。
読書を始めてもしばらく、僕の心臓はばくばくと激しく脈打っていた。
凪と仲直りをした僕だが、現在の高校では相変わらずおひとりさまをしている。
奈良のようにちょこちょこと話しかけてくる奴も数人はいるが、休み時間にひとことふたこと会話をするだけで、それ以上の仲にはならない。
もともと地元で孤立する前も、友だちは多いほうではなかった。
僕はたぶん、根本からひと付き合いには向いていないタイプなのだと思う。だから、転校生なんて僕にはこれっぽっちも関係のない話だ。




