第11話
凪と仲直りした日から、一週間が過ぎた。
凪とのわだかまりが解消したからといって、僕の日常がなにか変わったかといえば、特段そんなことはない。
ただ、気分はずいぶん変わった。
たとえばずっと背負い続けてきた重い荷物を下ろしたときのような、そんな開放感を毎朝感じるようになった。
制服の袖に通す腕が引っかからなくなったとか、朝食のときのお箸が軽いとか、そんなちょっとしたことだけれど。
顔を洗い、制服に着替えて一階のリビングに降りると、蝶々さんは既にメイクを終えて、家を出るところだった。
「あ、しおちゃんおはよう」
「おはようございます。……もう行くんですか?」
「うん。ちょっと今いろいろ忙しくて。しおちゃん、最近お弁当作れなくてごめんね」
蝶々さんはなんだかこのところ忙しない。
「いえ。うちの購買、結構品揃え充実してるから、毎日お昼休みが楽しみなんですよ。今日はコロッケパンにしようと思って」
「それはそれで寂しいなぁ……」と、蝶々さんは苦笑する。
「もちろん、蝶々さんのお弁当も美味しいですよ。でも、忙しいときは無理しないでください」
正直なことを言えば購買の品ぞろえなんて気にしたことはないし、そもそもコロッケパンだってあるか分からない。けれど、そんなことはどうだっていい。
大切なのは、蝶々さんが気負わずに仕事に集中できるかどうかだ。僕が来る前のように。
蝶々さんは僕の唯一の理解者だから、迷惑だけはかけたくない。重荷にだけはなりたくない。
もしそんな本音を言えば、蝶々さんは怒るだろう。でも、僕はそういうやりかたでしか、ひととうまくかかわれない。それ以外の方法を知らない。
「ありがとう。明日はちゃんと作るから。今日はコロッケパンを楽しんで」
「はーい」
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
現在、彼女は結賀大学附属病院のラボという研究機関で研究員として働いているのだが、今年の四月から新たな勤務形態で働き始めたばかりだと聞いた。
僕が高校一年生であると同時に、蝶々さんも職場ではまだ一年生なのだ。いろいろと大変なのだろう。僕も甘えてばかりはいられない。
テーブルの上には、トーストとバター、それからサラダが用意されている。
普段蝶々さんが用意してくれる食事は和食が中心だが、忙しい日は洋食になる。
このことに気付いたのはつい最近だ。今までは、食事の内容なんて気にも止めなかった。というかたぶん、気にする余裕がなかった。
朝食を済ませて時計を見ると、時刻は既に八時前。そろそろ出なければ。
僕は急いで学校へ行く準備を進めた。




