カセットテープ
父が亡くなった。遺品に1本のカセットテープがあった。
カセットテープのプレイヤーなど持っていなかったから、ほうっておいたのだけれど母が亡くなり、ふとそのカセットテープを思い出したのだ。
ネットオークションで、プレイヤーを落札しプレイヤーを手に入れた俺は、そのカセットテープをこれから聞いてみようと思う。
カセットテープのラベルには、「ケイタの記録」と書いてある。きっと、俺の子供の頃の音声記録なのだろう。
カチッと、再生ボタンを押す。古臭いアナログのボタン。
「オギャー、オギャー」
俺の誕生の日の録音らしい。父の喜ぶ声、母の声。祖父母の声が録音されている。
「ハッピーバースデーツーユー」
録音は続いている。これはお誕生日会だろう。友人が遅刻して「誰も来てくれない」と、泣いてしまった思い出がある。
運動会や、学芸会、成人式。思い出の詰まった録音テープだ。
結婚式のスピーチが、再生された…
ん? 俺はまだ結婚していない。
再生が終わった。
だが、カセットテープにはB面がある。
俺は、B面を再生する。俺は結婚し、子供を2人授かっている。だが、程なくして俺は交通事故で亡くなっている。プレイヤーから、坊さんのお教を唱える声が流れる。
テープの音声が途切れた後、暫くして、父の音声が再生された。
「ケイタ、聞いているか?、このテープはお前の元の人生だ。私は、このテープをダビングし新たにお前の人生を吹き込んだのだ」
俺の両親は高齢で、俺は養子だと聞いていたけれど…。俺は、2度目の生を生きていたのだ。
父の声が続いた。
「お前は、今幸せか?幸せでないなら、このテープを巻きもどし、また録音すれば良い。元の人生をやり直せるかもしれない」
俺は、テープの再生を止めた。
父と母の愛を無くしたくないから。
これ以上、このテープを聴きたくないから。




