7 魔獣の襲撃
「南西方向に十体のオーガが出現しました。身体が大きく、城壁を壊し侵入しようと試みているようです。城壁はオーガの力であれば一時間保つかどうか、です」
「付近の住民は避難したのか?」
「もちろんです。現在城壁の見張り小屋から火矢と投石でオーガが近づかないように攻撃中です」
「分かった。私とマリリンで十分ね」
私はそう言うと部屋の窓を開けて庭へと飛び出した。
「ジネット様、どうぞ」
庭の隅で待機していた従者の三人が大斧と防具を運んできた。
大斧を片手で持ち、戦闘の準備を整える。
レオ・バルベは渋い顔でその姿を見つめていた。
横で見ていたケイティは、「彼は本当にこの領地でやっていけるのだろうか、お嬢様を嫌いになるのではないか」と心配になったようだ。
私はポケットから竜笛を取り出し、勢いよく吹いた。すると厩舎からマリリエットグリーンが私のところまで飛んできた。
「マリリン、オーガが十体出現したみたい。南西方向よ」
グォォォ。
マリリエットグリーンは返事をするように一声鳴いたので私は彼女に飛び乗り、そのままオーガのいる南西の見張り台まで向かった。
「……あれね」
大きな石を持ったオーガが視界に飛び込んできた。身の丈三メートルほどのオーガを筆頭に城壁を壊そうとしている。
今回のオーガは群れを率いるだけの知能を備えてはいるようだ。
見張り台から魔法や投石でオーガを攻撃していた。
私はマリリンに頼んでオーガの背後に回り、大斧を持ったまま跳び、落下の威力を合わせるようにオーガを一刀両断する。
「まずは一体完了ね」
マリリエットグリーンは別のオーガの腕を口に咥え、振り回しながら急上昇し、勢いよく叩き落としている。
私はその横で斧を真横に振り、背中をぶった斬る。身体の大きなオーガは動きも遅く大斧で倒すのが楽でいい。
これが小型の魔獣であれば剣の方がいい。
残りのオーガもこちらを振り返ると、足元の石を拾って投げつけてきた。
私は攻撃を躱しつつ氷の槍を出し、投げた。
氷の槍がオーガの顔を掠め、オーガは持っていた石を落とした。
怒ったオーガはそのまま私を叩き潰そうと、屈んだ瞬間、私はオーガを飛び越え同時に斧で叩き斬る。
他のオーガは城壁からの攻撃とマリリエットグリーンの攻撃で倒せた。
「マリリンありがとう。助かったわ」
私はマリリエットグリーンにお礼を言って撫でると、彼女は一声唸り、肉片を宙に投げ、火を吐いて肉を焼いたあと咥え直した。
どうやら食料を確保して厩舎に持ち帰るみたいね。
血の付いた斧を拭いて綺麗にした後、マリリエットグリーンと共に中庭まで一緒に戻り、自室へ戻った。
いつ魔獣が襲ってくるかわからないし、どんな魔獣が現れるのかも予測できない。
それが私たちの日常なの。
レオ様にはその当たり前の生活を理解してもらいたい。
翌日、私は朝食を摂りに食堂へ行くと、レオ様の姿があった。
「レオ様、おはようございます」
「……ジネット嬢、おはよう」
我が領の朝食は貴族の華やかさはなく、軍隊の方式を採っている。つまり他の兵士たちと同じ食堂で同じ献立を食べるの。たまに私には多くフルーツや甘味が付いてくる時もある。
私達は朝食を取り、席に着いた。
「ジネット嬢、今日はどういったことをするのだろうか?」
「そうですね。午前中はみんなと一緒に訓練をします。午後からは領地の見回りをしましょうか」
彼はどこかホッとしたような顔つきをしている。まさか一日目から魔獣の群れの中に放り出すと思われていたのかしら。
いや、父だったらやりかねない。というか過去にそれをして何人かの婚約者候補はあっけなくこの地を去っていったわ。
ひと月の間に領地での暮らしや襲撃に慣れてもらえればいい。
そういえば今日の午前は武器を使った訓練だけれど、明日は魔法の訓練だ。
教官はとても厳しいから、彼が耐えれるか心配だわ。




