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4 父への報告

 邸にいる侍女や従者たちはみな軍服を着て出迎えてくれている。これはいつでも戦闘に出られるようにしているためだ。


「「「おかえりなさいませ、ジネット様」」」

「ただいま」


 玄関に入ると、ドレス姿であることをものともせず大股で歩き出すが、誰も咎めることはない。


「ジネットお嬢様、すぐにお発ちになりますか?」

「そうね。着替えたらすぐに発つわ。ケイティ、準備はできている?」

「もちろんです、お嬢様。まさか、ドレス姿のお嬢様が一目ぼれされる日がくるなんて思ってもいませんでした」


「……それを言わないで」

「顔が赤くなっていて可愛いですよ、お嬢様」


 侍女のケイティはからかうように笑いながらも部屋に入り、すぐに私のドレスを脱がせていく。


 ケイティも侍女服を脱ぎ捨て、その下に着ていた軍服を整えている。他の侍女たちはケイティと私の服を片づけていく。


 二人とも帯剣して、そのまま中庭へ歩き出した。私の専属の侍女であるケイティは平民だが、そこら辺の騎士よりも腕が立つ。


 侍女としても優秀でいつも助かっているわ。


「お嬢様、領地で大斧を振るっているという情報はどこから漏れたのか調べますか?」

「いいわ。どうせお父様が王都で話したのでしょう。お父様は公爵様と仲が良いからね」


 中庭に出ると数人の従者と小型のドラゴンが二頭見えた。


「騎乗準備はいつでもできております」

「ありがとう。では領地に戻るわ。皆も休めるときはゆっくり休んでちょうだい」

「ありがとうございます」


 従者たちは一斉に距離を取り、礼をしている。


 姿勢を低くし、待機しているドラゴンを撫でてそのまま鞍に乗る。するとドラゴンはゆっくりと浮上していく。


 ケイティの乗るドラゴンも私の後を追うように空に舞い上がった。


 この飛び立つ感覚がドラゴンの騎乗で一番好きなのよね。

 レオ様はドラゴンに乗れるようになるかしら。


 私は領地に戻ってからのことも考えなければいけないけれど、先ほどの出来事を思い出すたびに、嬉しさと恥ずかしさが湧き上がり、感情を抑えるのに必死になる。


 気になることもあるけれど、レオ様は一目ぼれだと言ったわ。


 突然のプロポーズに驚いたけれど、嬉しかった。


 みんなが見ている前で。

 そういうことは本の中でしか起こらないものだと思っていたから。

 もしかして他の令嬢はよくあることなの?

 もし、彼が私と婚姻することが決まったら……。


 どうしよう!?

 旦那様って呼べばいいのかしら?


 夫婦で協力しあって魔獣を倒すのよね。

 嬉しい。

 もしかして夢が叶うのかもしれない。

 でも、強い私を見て嫌いになるかもしれない。


 だって、今まで学生の頃に何人かの子息が私に声をかけてきたけれど、誰もが領地での私の姿を見て消えていった。


 ……もし、今回も同様に私の姿に幻滅したらどうしよう。


 せっかく私を好きになってくれたんだもの。


 きっと大丈夫。

 彼を信じるしかない。


 私は一人コロコロと表情を変えながら領地へ戻っていった。


「「「ジネットお嬢様! おかえりなさい」」」


 領民は私の姿を捉えると手を振り、声をかけてくれる。


 いつものように私は中庭に降り立ち、邸へと戻っていく。ベルジエ領は東の辺境地で森に囲まれている。


 邸は王都の建物とは異なり、石造りの堅牢な建物で高い塀が巡らされ、魔獣の侵入をこれまで一度たりとも許したことはない。


「ジネットお嬢様、おかえりなさいませ。久々の王都はいかがでしたか?」

「ただいま。王都はあまり変わっていなかったわ。お父様は執務室にいるかしら?」

「ジョセフ様は現在執務中でございます」

「わかったわ」


 白髪に髭を蓄えた老紳士のような風貌をした執事のポートはにこやかに私の後をついて歩く。


 ノックをし、父の執務室へと入る。


「お父様、ジネット、ただいま戻りました」

「ジネットお帰り。久しぶりの王都はどうだったか?」


 赤髪で細身の父は書類を持つ手を止めて笑顔で聞いてきた。


 普段は戦鬼かと思わせる風貌で魔獣を討伐しているが、こうして改めてみると、父も中々に美丈夫なのね。


 レオ様の件があって初めて父の美醜に目が留まった。


「特に変わった様子はありませんでした。マリーズ様の婚約者候補の方も良さそうでしたし……」


 その後の話をしようとして一瞬躊躇った。父になんて言えばいいのだろう。


「ジネットどうした? 何か困ったことでもあったのか?」

「……いえ、少し問題が起こったといえば、起こりました」


 私がそう言うと、父の顔はいっぺんして魔獣を屠る時の恐ろしい顔になった。


「何が起こった?」

「いえ、あの、その……」

「どうした? ジネットが言い淀むほど大事件だったのか?」


 私は自分の親に告白されたと報告するのがとても気恥ずかしさを感じてなかなか言葉が出てこない。


「失礼いたします! 口を挟んでしまい、申し訳ありません!」


 ケイティは一歩前に進み礼をして父の指示を待った。


「ケイティ、どうしたんだ? ジネットに何があった」

「ジネットお嬢様が言い淀まれる理由は、マリーズ様のお茶会に参加された時の話だと思います。レオ・バルベ伯爵子息様が突然お茶会の場でジネットお嬢様にプロポーズしてきたのです」


「プ、プロポーズ、だ、と!?」


 父は怒るどころか眉を緩め嬉しそうに微笑む。


 ケイティは説明するとすぐに後ろへ下がった。


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