28 報告 オルガ視点
「ほかに証拠は出てこなかったんだろう?ならさっさと報告へ行くぞ」
「はいはい」
こんなやつらと一緒にいるのは気分が悪くなる。
俺たちはすぐに王太子殿下の執務室に行き、殿下へと報告する。マケインは媚びを売るように俺を抑え報告している。
「……そうか」
レイニード王太子殿下は少し苛立っているように一瞬見えたが、気のせいだったかもしれない。笑顔で俺たちに話をする。
「わかった。お前たちの報告はしっかりと受け取った。下がっていい」
俺はセレスティナ王女の件で警護から外れたまま魔獣騎士団の詰め所で執務を行うことになった。
ジネット嬢は無事だろうか。
俺は婚約者で当事者ということもあり、その後のジネット嬢の情報は伝えられることはないようだ。
胸ポケットに仕舞った小瓶はどうすべきか。
だが、ジネット嬢に何かあればこれを侯爵家に渡すしかない。だが、今の状況は非常に悪い。
王太子もあちら側だろう。
きっと俺には監視が付いている。慎重に動かねば。
俺はじっと周りに注意しながら溜まっている執務をしていく。三日目にようやく陛下が視察から戻ってきた。急遽のことでやはり警備も慌ただしく動いている。
そしてついにその時がやってきた。
俺は陛下から当事者の一人としてその場に呼ばれた。
王宮の大会議室に呼ばれた俺は部屋に入ると、重い空気が伝わり、中に入るのを躊躇してしまう。
すでに両陛下とレイニード王太子殿下、第二王子殿下、セレスティナ王女がその場におり、セレスティナ王女だけが席を別にして座っていた。
そして少し離れた席にベルジエ侯爵と夫人、各騎士団団長、副官、魔法使い団長、副官、医務官長も座っている。宰相は国王陛下の横に座り、険しい顔をしている。
「オルガ! 待っていたわっ」
セレスティナ王女は俺に助けを求めるように声を掛けてきたが、俺は気に留めることなく、案内された椅子に座った。
ちょうどマケイン、カインディル、ステファンからのセレスティナ王女の部屋の毒物の捜索が行われたことの報告が終わったばかりのようだ。
「本当に、セレスティナの部屋からは何も出てこなかったのだな?」
「はい」
マケインたちは当然のようにそう返事をしている。
「よい、下がれ」
「第一騎士団オルガ・サラフィス副官前へ」
三人は礼を執った後、部屋から出ていき、俺は宰相の言葉で陛下たちの前に立った。
「オルガ・サラフィス。お前に聞こう。セレスティナを望むか?」
「いいえ」
「嘘よ! 私はオルガと愛し合っているんだからっ」
陛下の言葉に迷いなく答えると、横からセレスティナ王女が立ち上がった。
「セレスティナ、座れ!」
レイニード王太子殿下が王女に強く言うと、彼女は渋々従い席についた。
王妃陛下は扇子で口元を隠していて表情は読み取れない。
「セレスティナはそう言っているが?」
「私は一護衛にすぎません。それに私には愛する婚約者がおります」
「あんな女のどこがいいのよっ!!」
「セレスティナ、黙れ! 黙らぬなら部屋に戻す」
レイニード殿下が強く言っているが、聞く気はないらしい。すると国王陛下が口を開いた。
「セレスティナには隣国の王子との縁談を用意していたのだが、今回のお茶会での騒ぎで破談になった。
国内の貴族に嫁がせることになるが、如何せんみな婚約者がいるものばかりだ。
被害者であるセレスティナの希望を聞いてオルガ・サラフィスに伯爵位を与え、セレスティナと婚姻をさせようかと考えておる」
「お父様!! 本当!? 嬉しい! オルガも嬉しいわよね」
セレスティナ王女は立ち上がり、今にも俺に駆け寄ってきそうだ。王妃陛下は扇子を仰ぎ、笑顔が見えている。
俺は、今こそ動くべき瞬間だと確信した。
緊張して心臓がバクバクと早鐘を打つのがわかる。
手には汗をかき、今にも身体が震えだしそうだ。
「陛下、よろしいでしょうか」
俺の低く、硬い言葉に緩みかけていた空気が一気に張り詰め、場の緊張が高まるのを感じる。
「……なんだ?」
「ジネット・ベルジエ侯爵令嬢は既に解放されているでしょうか?」
「ああ、それは事情聴取をした当日には帰宅させている」
俺の問いに宰相が答える。
良かった。
俺は安堵する。
「失礼します」
一礼し、内ポケットから小瓶を取り出し、宰相の前に置いた。
「これは、なんだ?」
「これはセレスティナ王女の部屋から出てきた物です」
王妃陛下の扇子が止まり、手に力が入るのが見える。
「報告書は何も出てこなかったとあり、マケインたちもそう報告していたが?」
「それは彼らに脅されていたからです。ジネット嬢が王宮に事情聴取として留められていた。
証拠を報告すればジネット嬢を襲うと脅されておりました。セレスティナ王女殿下の部屋から出てきたのは木箱に入ったこの小瓶と、毒を使い、ジネット嬢を犯人に仕立て上げると書かれた日記が見つかりました」
「それは、誠か? なぜ彼らは報告しなかったのか?」
「彼らはセレスティナ王女に付くことを望んだからです」
宰相は魔法使い団長を呼び、その場で小瓶を調べるように話をしている。
魔法使い団長が小瓶に魔力を通すと、赤く光り、何かに反応しているようだ。
ざわりとどよめく会場に俺はまだ気を緩めることはできそうにない。
「魔法使い団長、その小瓶の中身はわかりそうか?」
「毒の反応がありました。毒の種類を特定するには日にちをいただかなければいけません」
「では後ほど報告するように」
そう言うと、魔法使い団長は軽く一礼し、小瓶を懐へと仕舞った。




