27 捜索 オルガ視点
俺は王族の警備を担当する第一騎士団の団長と共にレイニード王太子殿下の執務室へ向かった。
殿下の執務室の前にはいつもより護衛騎士が立っている。フェール団長の指示だろう。
俺たちはノックした後、部屋に入る。
「レイニード王太子殿下、お時間よろしいですか?」
「ああ、どうしたんだ?」
「セレスティナ王女の件ですが」
フェール団長が王女という言葉を口にすると、途端に眉間に皺をよせて大きなため息を吐いた。
「で、セレスティナがどうした?」
つい先ほどあった話をレイニード王太子殿下に説明をする。
殿下はこれまでにもセレスティナ王女がしでかしたことをもみ消してきた。だが、今回は大勢いる場で起こった出来事だ。
もみ消しはかなり難しいだろう。王命を使い、緘口令でも敷くつもりだろうか。
彼はセレスティナ王女の話を聞いて眉間に寄せた眉を揉んでいる。
「ベルジエ侯爵家を敵に回せば王都はひと月も経たないうちに壊滅だ。母上はそれでもセレスティナを庇うのなら母共々修道院行きにしなければならない。いつも余計な仕事を増やしてくれる。で、毒はどこから?」
「まだ出所は掴んでおりません」
「セレスティナが居ない間にオルガ、お前はマケイン、カインディル、ステファンたちとセレスティナの部屋を探してこい。それと従者たちの聞き取りだ」
「畏まりました」
……厄介だな。
あの三人は王女の警備に当たっているが、彼女の取り巻きでもある。
証拠を隠滅する可能性もある。やはり王太子も王女を庇うのか。
なんとしても三人より早く毒を見つけなければならない。
俺は内心、覚悟を決めた。
レイニード王太子殿下の命を受けて俺たち四人はセレスティナ王女の居室へと入り、毒を調べていく。
マケインはベッド周辺を、カインディルは本棚や机の引き出し、俺とステファンはクローゼットを探し始めた。
「おい、オルガ。お前、セレスティナ王女の意向に逆らうつもりか?」
「は?どういうことだ?」
俺は毒のありかを必死に探しながらマケインの言葉を聞き返す。
「マケインの言う通りだ。セレスティナ様はお前を望んでいる。だからジネット嬢は死刑になる。邪魔をするなよ。私はマケインやステファンと同じで王女がいなければ無名の騎士なんだ。見目麗しき王女様の護衛という肩書きは必要なんでね」
「俺は望んでいないが?」
「けっ。王女に好かれているからっていい気になるな。証拠が見つかれば、王女は修道院送りが決定する。それだと俺らが困るんだよ」
ステファンは口を開くことはないが、頷き二人の話に同意している。
クローゼットの奥には、指輪などの装飾品が沢山仕舞われていた。よく見ると空の小瓶がいくつも装飾品の中に投げ入れられたように置かれている。
もしかして、これは使われた毒なのか?
いや、だが、こんなにいくつも空の小瓶があるのは毒じゃないんじゃないか?
俺は一つの小瓶を手に取り、手の内に隠しながら更に奥の方も調べていく。
金字で装飾された豪華な木箱の奥にこの場には似つかわしくない小さな木箱がある。怪しい。
俺は木箱を引っ張り出し、中身を確認すると半分だけ液体が残された小瓶が入っていた。
「おい! こっちに来てみろよ。セレスティナ王女様の日記が見つかったぜ! ……チッ。毒でジネット嬢を犯人に仕立て上げることも書かれているな」
「本当か!?」
マケインの言葉に他の二人が日記という言葉に興味を持ち、マケインの元へ歩いていく。
咄嗟に俺は中身の小瓶をすり替えて胸ポケットへと忍ばせた。
三人が日記を読みながら雑談しているところに俺は木箱を持っていくと、カインディルが木箱に気づいた。
「オルガ、その木箱は?」
「さあな? クローゼットの奥にあった」
「中身は何だ?」
「空の小瓶が入っているだけだ」
「毒か?」
「調べないとわからない」
マケインはチッと舌打ちする。
どうやら証拠らしき物を俺が持っていることにいら立っているようだ。
「オルガ、それを寄越せ」
「渡すわけがないだろう。このままレイニード王太子殿下の元へ向かう。その日記も渡すんだ」
「はっ!? 渡すわけがないだろ? これには何も書いていないんだからな」
「なら渡しても問題ないだろう」
すると何を思ったかマケインは懐に日記をしまった。
「オルガ、これはセレスティナ王女の大切な物だ。これは誰にも見せてはいけないから俺がしっかりと持っておく。お前、日記のことを話したら命は無いと思えよ。ああ、ジネット嬢はまだ取り調べが行われているんだっけか。お前の愛しの婚約者がどうなってもいいんだな」
マケインもカインディルもニタニタと嫌な笑みを浮かべている。
ジネット嬢を襲う気か。
奴らならやりかねない。
クソッ。
「脅す気か?」
「脅すなんてとんでもない。俺たちはただ提案しただけだ。その木箱を渡してくれればジネット嬢は無事だということだ」
「……分かった。彼女の安全が第一だ」
狭い客室で剣技に優れた騎士三人が彼女を襲ったらいくら彼女でも太刀打ちできないかもしれない。
拭えない不安に引き下がるしかないと考えた。
俺はふぅっと息を吐き、木箱を彼に投げ渡した。
「俺はどうなっても知らないからな?」
「ククッ。オルガ副官様、お前の判断は正しい。俺が証明してやるよ」
二人は下卑た笑いを浮かべ木箱を受け取り、中身を確認しているようだ。
ステファンは黙ったまま特に動くことはないようだ。




