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第三夜

夜中の二時、スマホが震えた。

見知らぬ通知が表示されている。


「watcher:配信が開始されました」


そんなサービスに登録した覚えはない。

画面を開くと、自分の部屋が映っていた。


机もベッドも、カーテンの柄も全く同じだ。

「盗撮だ」と直感し、心臓が激しく打ち始めた。

慌てて電気をつけ、部屋中を這いずり回って探した。


棚の裏、照明器具の中、エアコンの吹き出し口、煙探知機まで外した。

コンセント周りも全てチェックし、窓の外まで見回したが、カメラらしきものは影も形もなかった。


汗だくになって諦めかけた時、スマホの画面を見ると—

そこには俺が必死にカメラを探し回る姿が、リアルタイムで映し続けられていた。



翌日の昼下がり。外出先のカフェで休んでいると、再び通知が鳴った。


「watcher:ライブ配信中(視聴者 23人)」


血の気が引いた。震える手で画面を開く。

映っていたのは、俺が座っているそのカフェの席だった。

机の上のメニュー表、窓の外の看板、隣の客の服装まで全て同じだ。


だが明らかな異常があった。

画面の中では、カフェの入り口が右側にあったのだ。

現実では入り口は確実に左側にある。まるで鏡で反転したかのように、店内の配置が全て左右逆になっていた。


画面の中の俺は、その逆転した空間で何事もないようにコーヒーを飲んでいる。

現実の俺は血相を変えて立ち上がったが、画面の中の自分は気づく素振りもない。


慌ててアプリを削除しようとした。

アイコンを長押ししても、×マークは表示されない。

設定からアプリ一覧を開いても「watcher」という名前は存在しない。

どこを探しても「アンインストール」の項目はなかった。

それどころか、ホーム画面からアプリを別の場所に移動させることすらできなかった。



三日目の夜。通知の数が異常に増えていた。


「watcher:ライブ配信中(視聴者 347人)」

「watcher:人気急上昇中」


画面を開くと、自分の部屋が映っている。

ただ一点だけ、決定的に違っていた。


壁一面に、見覚えのない人間の顔が無数に貼られていた。

写真なのか、ポスターなのか判別できない。

男女も年齢もバラバラ。だが全員が同じ方向を見つめていた。


——カメラの奥、つまり俺のいる側を。


現実の壁は何も貼られていない。だが画面の中では、その顔の群衆が一斉に口を開いた。

音はしなかった。

ただ確かに、声を合わせて何かを言っていた。



四日目の深夜。

ベッドの上で膝を抱えていた俺のスマホが、勝手に起動した。


映っていたのは真っ暗な部屋。そして、背を向けて立つ“俺”。

その“俺”がゆっくりと振り返った。


そこにあったのは、確かに俺の顔だった。

だが目も口も、画面の解像度では説明できないほど不自然に大きく歪んでいた。


——その口が、確かに動いた。


「こうたい」


視聴者数のカウンターが跳ね上がる。

98,000… 99,000… 100,000…。

——数字は止まらない。


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