表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

第一夜

実家に戻ったのは三か月ぶりだった。

玄関を開けると、居間から声がした。


「おかえり」


誰もいない。ただ、スピーカーが点滅していた。

履歴を見ると“発話者:俺”とある。

——俺はまだ口を開いていなかった。


それでも、反射的に「ただいま」と返した。



翌日から、奇妙な習慣が始まった。

帰宅前に「ただいま」が家族に送られ、

玄関を開けると「おかえり」が返ってくる。


俺が何も言わなくても。

完璧な俺の声で。



数日後、議事録に俺の発言が残っていた。

「了解しました」「任せます」。

俺は一言も話していない。

だが同僚は、確かに聞いたという。


電話の履歴にも、俺の声が残る。

要件は「帰宅した」「問題ない」。

まるで、俺という存在を定義する最小限だけが切り取られて。



夜、スピーカーに呼びかけた。

「OK」


反応はない。

代わりに、アプリのログに発話が追加されていた。


発話者:俺

内容:OK

処理:既存発話と重複


俺が声を出すよりも早く、ログの中に俺が現れる。



その後、実家の部屋のあちこちに“おかえり”が響くようになった。

テレビから。電子レンジから。電話の保留音から。

全部、俺の声だった。

完璧に、俺の声で。


母は笑って言う。

「最近は、あなたがよく喋るから安心するわ」



最後に見たログは短かった。


発話者:俺

内容:ただいま

状態:在宅確認済

備考:本人の発話は記録されません


画面を閉じたとき、居間から声がした。


「おかえり」


反射的に返そうとした。

けれど、喉が動かなかった。

それでも声は響いた。


「ただいま」


俺の声で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ