第9話 黙示録の謎
紫苑は、日野真理が残したメモ「Ap12:10」を手に取り、その数字をじっと見つめていた。真剣な表情のまま、小さくつぶやく。
「12……12といえば、12使徒か……いや、それだけじゃない。イスラエルの12部族……」
白石が横で腕を組み、口元を緩めた。「お前、また始まったな。考え出すと止まらねぇんだよな」
紫苑は軽く笑いながらも、視線はメモから離さない。
「10……10といえば……十字架か? いや、律法の十戒もある……。でも黙示録の文脈なら……」
その様子を預言者が見て、静かに微笑んだ。
「紫苑、君は変わらないな。昔から、一つのことに集中すると周りが見えなくなるほどに没頭する」
白石がからかうように肩を叩く。
「そうそう、お前は昔からそうだった。部活の時も一度ハマると、すごいスピードで知識も技術も吸収してったよな。って、預言者、てめぇはいつから紫苑のストーカーだったんだ??つくづく気持ち悪い奴だな」
紫苑は苦笑いしつつも、メモに指を滑らせた。
「Ap12:10……これは、黙示録12章10節。『我々の兄弟たちの訴える者が倒れた』……って箇所だったよな。じゃあ、その次は?」
預言者が頷き、聖書を開く。
「12章11節……『彼らは、子羊の血と、自分たちのあかしの言葉とのゆえに、彼を打ち勝った。』」
紫苑の目が輝いた。
「子羊の血……十字架の犠牲。そして“あかしの言葉”……信仰の告白か。つまり、信じる者の宣言と行動が、この終末での勝利の手段になるってことか」
預言者はゆっくりと頷いた。
「解釈には諸説ある。これは一つの見方に過ぎないが、核心を突いている。真理はそれを知っていて、このメモを残したのだ。しかも、特殊な紙とペンを選び、水に濡れても火で炙っても消えない。どんな状況でも残るように。彼女は君がこの謎を解くと信じていた」
白石は感心したように笑った。「さすがは俺の妹だな。紫苑、お前が残された人々を導く存在になるって、あいつも分かってたんだな」
紫苑は拳を握り、静かに決意を固めた。
「真理の期待に応えなきゃな。……この謎、必ず解く」