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第九話 覚醒する祈り

 艦橋に響く警報音。

 二つの太陽が昇る朝焼けの中、イージス艦「みらい」は再び戦闘態勢へと移行していた。


『艦長、南東海域より接近中の魔獣群を補足しました。数……三十七。全個体が従来魔獣比で大型。さらに、全個体に黒鉄結晶装着を確認』


「……全個体に結晶……!」


 モニターには、巨大な魚竜型、サメ型、蛇竜型魔獣たちが、まるで軍隊のように整然と進軍する姿が映し出されている。

 その全てが、赤黒い光を放つ結晶を頭部に備えていた。


(まるで……指揮統制された部隊……!)


 橘遼は拳を握り締めた。

 その隣で、レイリアが震える声で呟く。


「……この世界には……あんなに多くの魔獣が……」


 遼は静かに彼女を見つめ、微笑んだ。


「大丈夫だ。ここには『みらい』がある。そして、ユイと……君がいる」


◆AIユイの決断

 統合管制AIユイの映像が、モニター中央に現れる。


『艦長、迎撃作戦案を提示します。従来戦術では弾薬・エネルギー不足による戦闘継続不能リスクが高いため、魔力収束砲を主力とした殲滅作戦を推奨します』


「だが……収束砲は連射に限界がある。再収束に80秒……」


 遼は歯を食いしばった。

 三十七体もの魔獣を前に、通常兵装では到底持ち堪えられない。


 ユイの瞳が淡く光る。


『艦長……私の統合演算能力を一時停止し、全演算リソースを魔力収束砲システムに転用することで、再収束時間を半減可能です』


「何だと……!? そんなことをしたら……!」


『私の機能維持プログラムは完全停止し、再起動には最低72時間を要します。その間、私は管制AIとして機能できません』


 遼は目を見開き、モニターに映るユイを見つめた。

 彼女の瞳には、わずかな迷いもなかった。


『艦長……この艦は、あなたの決断を実現するために存在します。どうか、判断を』


◆レイリアの覚悟

 遼が言葉を失っていると、レイリアがユイに駆け寄った。


「ユイさん……そんな……!」


 ユイは静かにレイリアを見つめた。


『私はAIです。感情や痛覚はありません。ただ、艦長と、この艦の使命を最優先します』


「でも……!」


 レイリアの瞳から涙が溢れた。

 彼女は震える手で、ユイの映像に触れようとした。


「……私は……ずっと祈ることしかできなかった……!

 でも今なら……遼さんとユイさんと一緒なら……私にも、戦える……!」


 その言葉に、ユイの瞳がわずかに揺れた。


『レイリアさん……』


 遼はゆっくりと立ち上がり、二人を見渡した。


「ユイ、リソース転用を実行しろ。……だが、その間の統合管制は俺が担う」


『艦長、それは……』


「CIWS、VLS、魔力収束砲……全ての制御指揮は、俺がやる。この艦の艦長として」


 ユイは微笑むように目を細めた。


『了解しました、艦長。統合演算リソース転用、開始します』


 モニターに表示されるシステムウィンドウが次々と暗転し、魔力収束砲システムに接続されていく。


◆迎撃戦開始

「ユイ……いや、今は俺がこの艦の頭脳だ」


 遼は艦橋中央の指揮席に座り、ヘッドセットを装着した。

 目の前の全モニターが、彼の統括用インターフェイスへと切り替わる。


「CIWS、ファランクス全基照準開始。VLS、ESSM三連射スタンバイ。魔力収束砲、第一撃装填完了」


 レイリアは艦橋後方で、静かに祈り始めた。


「海の神よ……この者に力を……!」


 彼女の胸元のペンダントが淡い光を放つ。

 同時に、魔力収束砲砲身の輝きが増していった。


◆第一次迎撃

「CIWS、全基射撃開始!」


 轟音が艦体を揺らす。

 左右のファランクスが放つ無数の曳光弾が、突撃してくるサメ型魔獣四体の眼窩を撃ち抜き、海面へ沈める。


『目標四体、撃破確認』


「VLS、ESSM発射!」


 甲板中央から三発のミサイルが垂直に打ち上がり、海上で鋭角に曲がって魚竜型魔獣へと突き進む。

 爆発と共に、三体の巨体が咆哮をあげ沈んでいく。


『目標三体、撃破確認』


◆魔力収束砲、解放

「魔力収束砲、照準!」


 艦首砲塔がゆっくりと回転し、蛇竜型魔獣群へ砲口を向ける。

 砲身に収束した青白い光は、レイリアの祈りと共鳴し、さらに輝きを増していた。


「撃て!!」


 轟──!!


 放たれた光線は海面を裂き、一直線に蛇竜型魔獣群を薙ぎ払った。


『目標七体、撃破確認』


◆AIユイの停止

 迎撃が続く中、システムウィンドウに表示された警告が赤く光る。


【統合演算リソース完全転用中。AIユイ 機能停止まで 残り30秒】


 ユイの映像が淡く揺れ、瞳が遼を見つめた。


『艦長……最後に、一つお願いがあります』


「何だ?」


『……レイリアさんを……どうか、守ってください』


 その言葉に、レイリアは涙を流した。


「ユイさん……!」


『これより、機能停止モードへ移行します……艦長、レイリアさん……お二人の勝利を、祈っています』


 淡い光が消え、ユイの映像が艦橋から消失した。


◆決戦

「……ユイの分まで、やってやる……!」


 遼は指揮席に座り直し、全モニターを睨み据える。


「CIWS残弾27%、VLS残弾18、魔力収束砲エネルギー残量52%……!」


 レイリアは涙を拭い、胸元のペンダントを握り締めた。


(私も……戦う……!)


 彼女の瞳に、決意の光が宿った。


◆戦いの果てへ

 モニターに映る魔獣群は、依然として数十体。

 だが艦橋にいる二人の瞳には、恐怖ではなく、強い光が宿っていた。


「レイリアさん……君の祈りがあれば、この艦は負けない」


「はい……!」


 二人の声が重なる。

 その時、艦体を震わすような咆哮が響き渡った。


 モニターには、他の魔獣を凌駕する巨大な影が映し出される。

 体長百メートル級。全身が黒鉄結晶で覆われた、異形の王。


「……来たか……!」


 遼は拳を握り締め、息を吐く。


「ユイが繋いでくれたこの命……絶対に無駄にはしない!」


 海風が艦橋を吹き抜ける。

 鋼鉄と魔力、そして人の想いが交わり、最終決戦の幕が開こうとしていた──。

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