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第八話 黒鉄の悪夢

 二つの太陽が空高く昇り、異世界の海を黄金に染めていた。

 イージス艦「みらい」は、その海面を滑るように進む。


 艦橋には張り詰めた空気が漂っていた。

 統合管制AIユイの映像が、モニター中央に浮かぶ。


『艦長、黒鉄魔獣との距離、残り60キロ。接近速度、従来魔獣比2.3倍。衝突まで約25分』


「進路は?」


『直進。この艦を補足し、接近していると判断されます』


 橘遼は顎に手を当て、思考を巡らせた。

 目の前のモニターには、黒鉄色の鱗に覆われた巨体が映し出されている。

 その頭部に突き刺さる赤黒い結晶が、異様な禍々しさを放っていた。


(あれが……魔獣を操る“鍵”か……?)


 レイリアが震える声で呟いた。


「……遼さん……あれに勝てるのですか……?」


 遼はゆっくりと彼女を見つめ、静かに頷いた。


「勝つしかない。この海を取り戻すために」


◆艦内迎撃態勢

『艦長、全火器管制システム、稼働状況良好。VLS、ESSM装填済み。魔力収束砲エネルギー残量92%』


「CIWSは?」


『全基稼働中。ただし、黒鉄鱗の硬度は従来魔獣比4.6倍。通常弾頭での貫通率は31%に低下します』


「魔力収束砲が主力か……」


 遼は深呼吸し、艦橋中央の精神認証パネルへ手を置いた。


「ユイ、魔力収束砲、照準準備」


『了解。精神認証を開始します』


 青白い光が艦橋を包む。

 レイリアはその光景を、息を呑んで見つめていた。


(彼は……自分の命を削って、この艦の力を引き出している……)


 遼の額に冷たい汗が伝う。

 しかし瞳には、一切の迷いがなかった。


『精神認証完了。魔力収束砲、展開開始』


 艦首部のハッチが開き、巨大な砲塔が姿を現す。

 砲身には青白い魔力が収束し、空気が震えるような唸りを上げた。


◆黒鉄魔獣、接近

『艦長、目標距離20キロ。魔力砲、発射可能距離です』


「撃て!!」


 轟音と共に、砲塔から青白い光線が放たれる。

 海面を切り裂き、一直線に黒鉄魔獣へと突き進む。


『命中確認……ですが、表層装甲のみ破損。致命傷には至っていません』


「っ……!」


 モニターには、胴体右側の鱗が砕け散り、赤黒い血が噴き出している映像が映っていた。

 しかし魔獣は咆哮をあげると、さらに速度を上げ突進してくる。


「ユイ、再収束急げ!」


『了解。再収束完了まで80秒』


「CIWS、ファランクス全基射撃開始! 弱点部位へ集中砲火!」


『了解』


 艦体左右のファランクスCIWSが高速回転を開始し、無数の曳光弾を放った。

 金属弾は鱗を弾き、わずかに露出した筋肉繊維を抉っていく。


『目標部位へのダメージ蓄積率、現在5%。貫通には至っていません』


「くそっ……!」


◆レイリアの祈り

 艦橋後方で、レイリアは震える膝を押さえ、祈りの言葉を呟いていた。


「海の神よ……どうか……この方に力を……」


 彼女の胸元の月と波のペンダントが、淡く光り始めた。


『艦長、魔力収束砲再収束完了。いつでも発射可能です』


「ユイ、目標は?」


『頭部結晶部位への貫通率、魔力収束砲なら78%。CIWSで装甲を削り切れば、貫通率95%へ上昇します』


「CIWS、射撃続行。収束砲準備……!」


 その時、レイリアが立ち上がり、遼に近づいた。


「遼さん……!」


「危ない、下がれ!」


 しかし彼女は構わず、彼の手を握った。


「……私も……祈ります。この世界の神の力も、きっとあなたを助けてくれる……!」


 淡い青い光が、彼女の手から遼へと流れ込む。

 艦橋の魔力認証パネルが、その光を感知し、共鳴するように輝きを増した。


『魔力収束砲、エネルギー反応上昇。従来比145%』


 ユイの声に、遼は瞳を見開いた。


「これは……!」


『レイリアさんの魔力が、艦の魔力システムと共鳴しています。砲撃出力、最大値へ到達』


◆最終砲撃

 モニターには、咆哮を上げ突進してくる黒鉄魔獣が映っている。

 赤黒い結晶が、禍々しい光を放っていた。


「ユイ、照準!」


『照準補足完了』


「撃てぇえっ!!」


 轟──!!


 砲塔から放たれた青白い魔力ビームは、これまでの数倍の輝きを放ち、空間ごと震わせた。

 その光線は一直線に魔獣の頭部結晶を貫き、巨体を貫通して爆散させた。


『目標撃破確認。生命反応消失』


 艦橋に、静寂が戻った。


◆勝利の代償

 遼は深く息を吐き、レイリアの手を握ったまま崩れ落ちそうになる。

 レイリアも震える膝をつきながら、微笑んだ。


「……すごい……本当に……倒した……!」


「ああ……君のおかげだ」


 ユイの映像が二人を見つめる。


『艦長、レイリアさん。お疲れ様でした』


 その声は、冷静で無機質なのに、どこか優しかった。


◆新たな気配

 しかし、安堵も束の間。

 ユイの声が、再び艦橋に緊張を走らせた。


『艦長……南東海域より新たな大型反応接近中。数……不明。魔力濃度、従来比……計測不能』


 遼は拳を握り締め、立ち上がった。


「ユイ、CIWS弾薬残量は?」


『38%。ESSM残弾21、魔力収束砲エネルギー残量68%』


「十分だ」


 彼の瞳には、恐怖ではなく、決意の光が宿っていた。


「レイリアさん、君の祈りがあれば、この艦はもっと強くなれる」


「……はい!」


 二人の視線が交わる。

 イージス艦「みらい」。

 その艦橋に、朝日が差し込む。


 鋼鉄と魔力と人の想いが交わり、新たなる戦いの幕が上がろうとしていた──。

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