表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/114

第七十七話 決戦、深淵要塞艦バシリスク

 深海に轟く衝撃音。

 〈みらい〉の装甲に砲撃の余波が叩きつけられ、艦全体が震動した。

 計器は赤く点滅し、空気は緊張に満ちていた。


 「主砲、再チャージに入りました! 次弾まで八十秒!」

 ユイが叫ぶ。


 遼は迷わず指示を飛ばす。

 「よし、その隙に全砲門、敵の外殻に集中射撃!」


 甲板下の自動砲台が火を噴き、ミサイルが軌跡を描いて飛び立つ。

 深淵の闇が閃光で切り裂かれ、要塞艦の外殻に爆炎が広がった。


 しかし――

 「効果なし! 表層装甲、無傷!」

 ユイの声が響く。


◆無人艦の群れ

 突如、要塞艦の周囲に無数の影が散開した。

 「小型艇群、展開! 数百規模です!」


 黒い魚群のようにうごめく無人艦が、四方八方から迫ってくる。

 その全てが光を帯び、〈みらい〉に殺到した。


 「迎撃システム、最大稼働!」

 遼の命令と同時に、CIWS(近接防御火器)が轟音を立てて弾丸を吐き出す。

 閃光と火花の嵐の中で、数十隻が爆散した。


 だが、減る数よりも増える数が勝っていた。


 「このままじゃ持ちません!」

 レイリアが震える声をあげる。


◆突破口を探せ

 遼は深く息を吸い込み、ユイに問う。

 「核までの最短ルートは?」


 ユイの瞳が高速に揺れる。

 「――存在します。要塞艦の基部、遮蔽岩盤の裂け目を抜ければ、制御核への接近が可能です」


 「ただし……」

 ユイの声がわずかに震えた。

 「そのルートを抜けるには、艦を一時的に完全潜航モードに移行させる必要があります。

 制御は私に一任されますが――一度潜航すれば、通常航行に戻るまで三分間は無防備になります」


 遼は短く息を吐き、決断した。

 「三分だな。……上等じゃないか」


 レイリアが目を見開く。

 「遼! 本気なの!? 三分も防御を捨てたら――」


 「勝たなきゃ意味がない」

 遼はきっぱり言い切った。

 「俺たちは逃げ続けるだけじゃ駄目だ。あの化け物を倒して、この海を抜ける」


◆ユイの覚悟

 ユイは遼をじっと見つめた。

 「艦長……。あなたは、また“無謀”を選ぶのですね」


 遼はわずかに笑った。

 「無謀じゃない。三割の可能性を“勝ち”に変えるんだ。……お前と一緒にな」


 ユイの胸に熱が走った。

 「了解しました。全潜航シーケンス、開始します」


 艦全体が低い唸りをあげ、外殻が変形する。

 波動炉が深海適応モードへと切り替わり、艦の重心が微かに揺れた。


 「潜航開始……!」


◆深淵への突入

 〈みらい〉は岩盤の裂け目に向けて加速した。

 背後から迫る無人艦の群れが追撃を仕掛ける。

 だが、ユイの操作は神業だった。


 「回避行動開始――!」

 艦体が鋭く旋回し、魚雷を紙一重でかわす。

 追撃していた無人艦同士が衝突し、爆炎を巻き起こした。


 艦内に歓声が上がる。

 「すごい……!」「ユイお姉ちゃん、やった!」

 避難していた子供たちが目を輝かせた。


 だがユイは集中を崩さない。

 「まだです……これからが本番」


◆制御核を目指して

 裂け目の中に突入すると、海底から青白い光が漂ってきた。

 その奥には、巨大な結晶体が鎮座していた。

 「……あれが、制御核」


 ユイが告げると同時に、要塞艦全体が反応した。

 裂け目の壁が崩れ、そこから更なる無人艦群が溢れ出したのだ。


 「艦長! 時間がありません!」

 「分かってる! 全砲門、目標を核に集中!」


 〈みらい〉の砲門が一斉に火を噴いた。

 光の矢が結晶体を貫き、轟音が深海を震わせる。


 結晶に亀裂が走り、眩い光が溢れ出した。


◆決戦の刻

 「あと一撃で……!」

 ユイの声に、遼が叫ぶ。

 「全火力、解放――撃てぇぇぇぇっ!」


 砲撃が集中し、結晶はついに粉砕された。

 轟音とともに光の奔流が爆ぜ、要塞艦全体が大きく揺れる。


 「障壁、消失! 要塞艦の防御、崩壊しました!」


 歓声が艦内を揺らす。

 「やった!」「勝ったの?」


 だが――ユイの表情は険しかった。

 「いいえ……まだ終わっていません」


 その時、要塞艦の残骸から、禍々しい光が噴き上がった。

 崩れ落ちると思われた巨影が、なおも動きを止めていなかったのだ。


 「……まさか、自律再生機構……?」

 ユイの声が震える。


 遼は唇を噛みしめ、前を見据えた。

 「いいだろう……最後まで叩き潰す!」


 深淵に残る巨影を前に、〈みらい〉の決戦はまだ続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ