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第五十六話 深海の幻影

 「敵増援、距離一万五千、速度上昇中!」

 ルナの声が艦橋を震わせる。

 遼はすぐに判断を下した。

 「旗艦の沈没を確認したら、即座に機動転換。増援の進路を逸らす」


 モニターには、すでに大破しつつあるグラディオン級の姿が映っていた。

 内部から噴き出す気泡は、深海に溶けては消えていく。

 だがその巨体は、なお沈まず、最後の意地のように艦首をこちらへ向けてきた。


◆最後の一撃

 「艦長、敵旗艦、主砲発射準備に入っています!」

 ユイの報告に、遼は即断した。

 「第二主砲、一斉射!」

 深海に白銀の閃光が広がり、旗艦の艦首を粉砕する。

 衝撃波が水中を奔り、敵艦はついに大きく傾いた。


 その瞬間――

 増援二隻が放った魚雷の尾跡が、鮮やかな光の線となって迫ってくる。


◆幻影機動

 「回避行動! ――いや、ユイ。あれを使え」

 遼の短い指示に、ユイの瞳が一瞬だけ光った。

 「……了解。艦底推進器、三次軸駆動へ切り替え」


 低い唸りと共に、〈みらい〉の艦底部がわずかに震え、海水を裂く流れが変化する。

 通常の推進とは異なる、三次元的な揚力と推進を同時に発生させる特殊機構――

 本来、艦船には存在しないはずの「浮遊航行モード」の準備だった。


 「魚雷進路変更! 影を追っています!」

 ルナが叫ぶ。

 艦の進行方向に残された残像のような水流パターンが、魚雷の誘導を狂わせ、次々と外れていく。


◆由来の片鱗

 「……この機構、やはり通常の造船技術じゃないな」

 遼の独り言に、ユイが小さく答える。

 「艦長、それは――まだ全てをお話しできません。ですが、私が“艦”だった頃、記録の中に……この星のものではない設計思想が含まれていました」


 遼は視線を前に向けたまま、軽く頷いた。

 「なら、その秘密は今は聞かない。だが……これからも俺たちを守るために使ってくれ」

 「もちろんです、艦長」


◆逆襲の開始

 増援二隻は魚雷を外した後、動きがわずかに鈍った。

 遼はすぐに攻勢へ移る。

 「主砲、敵右舷艦を狙え! 魚雷は左舷艦に同時射撃!」

 深海に再び閃光が走り、爆音が遅れて艦体を震わせる。


 右舷の敵艦は装甲を砕かれ、左舷艦は魚雷直撃で艦尾が吹き飛んだ。

 水中に赤黒い渦が広がり、海流が激しく乱れる。


◆戦闘の終わり、そして…

 「敵増援、両艦とも行動不能。残存艦影なし」

 ルナの報告に、艦橋の緊張がようやく緩む。


 遼は深く息を吐き、ユイに言った。

 「……助かった。あの“浮遊”がなければ、今頃ここにはいなかった」

 ユイは静かに微笑む。

 「この艦は、海の上でも下でも、そして……海ではない場所でも進めます」


 その言葉に、遼の胸に新たな疑問と確信が同時に芽生える。

 ――〈みらい〉は、ただのイージス艦ではない。


 深海の闇は再び静まり返ったが、遼の心には新たな波が立っていた。

 それは、これから訪れるであろう未知の航路の予感だった。

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