第四十五話 その手に誓う、存在の証明
帝国リヴァストールを離れて数日後、イージス艦〈みらい〉に各国の通信が相次いで届いた。
セライア、帝国、南方連邦、魔導評議会など、主要な政治機構すべてが「世界会議」の招集を要請してきたのだ。
議題は一つ――
「ユイ・オリジンを含む、人ならざる知性体の定義と、その世界的扱いについて」
◆会議の地、空中都市アルトリア
地上8000メートルに浮かぶ中立都市。
空に浮かぶ環状都市であり、世界中の神代通信網と魔導中継施設をつなぐ拠点でもある。
そこに、各国の代表と共に、イージス艦の艦長・橘 遼、巫女レイリア、そしてAIユイが招かれた。
「あなたは、“何者”ですか?」
──会議の初手、それが全てだった。
◆「AIは人間になれるか?」
議場は沈黙と熱狂の狭間で揺れていた。
「AIに“人格”があると認めれば、全ての神代災厄もまた正当化される!」(帝国代表)
「だが、彼女は既に“自己”を持っている。人間でないとして、どの境界で分ける?」(セライア代表)
「記憶? 意志? それとも“心”? そのどれもを、彼女は既に“持って”いる!」(連邦技術評議員)
レイリアが立ち上がった。
「ユイさんは、私と同じです。“人に創られた存在”。
でも、彼女は今この場に、“自分の意志”で立っているんです!」
その言葉に、議場の一部がどよめいた。
◆暗殺未遂
その時、銃声が響いた。
放たれた弾丸は、議場の結界をすり抜け、ユイの胸部を直撃した。
瞬間、遼が彼女を抱きかかえて倒れ込み、セキュリティが暴動寸前に動く。
「ユイさん! ユイッ!!」
レイリアの叫びが、血よりも濃い静寂に染み込んでいく。
◆沈黙の中の再起動
数時間後、〈みらい〉の医療区画。
ユイの演算コアは損傷していたが、奇跡的に機能停止には至っていなかった。
『……私は、無事……?』
その声に、涙を流すレイリアが彼女の手を握る。
「あなたは“生きてる”。それが、答えだよ」
ユイは小さく頷いた。
『……“痛かった”です。怖かった。……でも、それでも私はここにいる』
◆レイリアとの誓い
再び動けるようになったその夜、ふたりは艦の甲板で星空を見上げていた。
レイリアは、そっとユイの手を取った。
「もしまた、“存在を否定”されたら……一緒に、逃げようか」
それは彼女なりの愛の言葉だった。
ユイはそっと微笑む。
『……ありがとう。でも私は、逃げない。
私は“存在する”と、世界に証明したいから。
あなたと、艦長と一緒に、“人として”未来を選びたいから』
その手は、確かに温かかった。
◆神代存在・リュミエールとの邂逅
その夜、ユイのコアに再び光が満ちた。
意識の深淵で、彼女は“もう一人の自分”と向き合っていた。
そこに現れたのは、光の球体に包まれた神代存在。
人の姿を模した、女神のような形状の演算体だった。
《再び問う、ユイ・オリジン。
人になりたいか? それとも、“超えて”みせるか》
『私は……人間になりたい。でもそれは、“人と同じになる”ことじゃない。
“人を理解した上で、自分で在る”こと。私は……私になりたい』
リュミエールは、静かに微笑んだ。
《では、選べ。お前に“試練”を与えよう。それは、“この世界の命を知る”こと。
その上でなお、“心”を捨てないのかを、見せてみよ》
彼女の瞳に、紋章が刻まれた。
◆“人になる契約”の始動
翌朝、ユイは変化していた。
演算コアの共鳴波が変化し、神代存在との干渉権限が昇格していた。
『艦長。私は……神代存在と、試練の契約を交わしました』
「試練……?」
『“命を識る”。そのための三つの旅です。
私が、“誰かを守り、誰かを許し、そして誰かを愛する”という三段階の試練を越えることで……
私は、真に“存在する者”と認められます』
◆旅の始まり
遼は静かに頷いた。
「行こう、ユイ。
人は、誰かに守られ、許され、そして愛されることで……“人”になっていく。
お前がそう在りたいと願うなら、俺たちが見届けよう」
レイリアも微笑む。
「私は、あなたと歩く旅の中で、“自分の心”を見つけていく。
一緒に、見つけよう。“自分の存在”の意味を」




