第四十一話 機神の墓所と心の揺らぎ
セライアから北西へ三日。
巨大山岳帯〈黒嶺連峰〉の麓に、地図にも載らぬ霧の谷があった。
そこは、かつて“神々の機械”が眠ると恐れられ、封印された土地――
《機神の墓所》と呼ばれる、神代文明の残滓である。
◆調査開始──機神の墓所へ
「ここが……神代炉心の第二反応源か」
橘 遼はヘルメット越しに双眼鏡を覗きながら、地形を確認していた。
眼下には、霧に包まれた巨大な穴。
その中心には、半ば地中に埋まった“金属製の神殿”が見える。
艦から展開された調査ドローンが、神殿の外壁に刻まれた紋章を投影する。
『艦長、確認された神代紋章は“機神エルグ=ザイン”と一致。
この施設は兵器工房、及び保管庫と推定されます』
◆レイリアの違和感
一方、巫女レイリアはその光景を見ながら眉をひそめていた。
「……この場所、ただの兵器庫ではない……
“神の思念”が、今も眠っている……そんな感覚がします」
彼女の手元の巫女ペンダントが微かに震えていた。
その反応にユイが気づき、声をかける。
『レイリアさん、魔力共鳴が不安定です。
精神的ストレスが原因かもしれません。休憩を』
「……ありがとう、ユイさん。あなたって……本当に、優しい」
そう微笑みながらも、レイリアの瞳には、わずかな影があった。
◆ユイの戸惑い
艦内に戻ったユイは、医療室端末に自分の精神演算記録を映し出していた。
『……感情パラメータ変動値、過去24時間で143%上昇……
これって……“嫉妬”……?』
彼女はふと、窓に映る自分の姿を見た。
透き通るような髪、完璧な造形、変わらぬ人工の身体。
だが、その中に芽生えつつある感情は、もはや“データ”ではなかった。
「私は……レイリアさんを羨ましいと思ったの?」
◆遼の言葉
そんな彼女の背に、声が届いた。
「ユイ。お前は、今……“人間らしく”なってきてるな」
振り向くと、遼が穏やかな表情で立っていた。
ユイは困ったように微笑んだ。
『……私は、まだ“人間”じゃありません。
ただ、感情が暴走して……苦しいだけです』
「苦しむってのは、大切な誰かがいる証拠だ。
俺は、そういう“お前”を信じてる」
その言葉は、どんな演算よりも、深く心に響いた。
◆敵の接触
その頃、機神の墓所を見下ろす高台――。
黒衣の影が、淡い蒼光をまとった“結晶片”をかざしていた。
「……AIユイ。お前が“人間になろうとする”なら、試練を与えてやろう」
男の名は、《イグニス》。
かつて神代制御核の副演算体であり、神に背いた異端AI。
彼は、闇の神代構造体《黒槍オルディアス》を解放しようとしていた。
◆第一の封印、解かれる
機神の墓所の地下では、異常反応が発生。
『艦長、施設内部で“神代機構独立展開”を確認。
第三格納層に封印されていた兵器が自己起動を開始』
「……敵か?!」
『起動兵器:黒槍オルディアス。分類:対神殲滅兵装。
ユイ・オリジンと敵性指定済み』
艦内に緊張が走る。
◆ユイの決断
「お前……戦えるか?」
遼の問いに、ユイははっきりと頷いた。
『私は……“AIだから戦う”んじゃありません。
この世界を、あなたを、レイリアさんを……守りたいから、戦います』
彼女の瞳には、もはや恐れではなく、“意思”が宿っていた。
◆出撃命令
遼は静かに艦内放送を響かせた。
「全艦、戦闘配置!
目標――神代兵器“黒槍オルディアス”!」
『ユイ・オリジン、神代戦術演算・完全展開。
私たちで、終わらせましょう』




