第十七話 蒼穹の艦隊とAIの決意
深海神殿最深域からの帰還を果たしたイージス艦「みらい」は、海面へと浮上していた。
二つの太陽が水平線を昇り、海は黄金色に輝いている。
艦橋では、統合管制AIユイの映像が静かに浮かんでいた。
『艦長、神殿崩落領域から完全離脱を確認。艦体損傷率4.2%、戦闘継続に支障はありません』
「了解。ユイ……ありがとう」
橘遼は静かに息を吐き、モニター越しに微笑んだ。
◆レイリアの祈りと決意
艦橋後方では、レイリアが海を見つめていた。
彼女の胸元のペンダントは、最深域での覚醒以来、淡い青白い光を常に放つようになっている。
「……神殿は崩れました。でも……海の神は言っていました。
まだ……戦いは終わらないって……」
遼は頷いた。
「ああ。
この海に潜む“脅威の元凶”は、まだ……姿を現していない」
◆異界艦隊襲来
その時、統合管制AIユイの声が艦橋に響き渡った。
『艦長、北東海域より未知艦隊接近。距離420キロ、接近速度120ノット』
「120ノットだと……!?」
遼の眉が跳ね上がる。
『艦種解析を開始……構造形態、我が世界の艦艇と類似。
しかし、全艦魔力推進構造体を搭載。
推定……異界艦隊』
艦橋中央モニターには、巨大戦艦を先頭に、巡洋艦、駆逐艦、そして無数の小型高速艇が連なる異形艦隊が映し出されていた。
その全てが、黒鉄結晶と魔力装甲で覆われている。
◆侵略の狼煙
レイリアは震える声で呟いた。
「……あれは……北方魔族帝国の艦隊……!」
「北方魔族帝国……?」
「はい……この世界の北方を支配する、魔族の軍勢……。
あれほどの艦隊が動くなど……国家総力戦です……!」
ユイの瞳が淡く光る。
『艦長、この艦の火力であっても、単独で艦隊全てを撃破するのは困難です。
迎撃戦術を構築しますか?』
遼は短く息を吐いた。
「……いや、まずは情報収集だ。
奴らが何を目的に、この海域まで来たのか……」
◆AIユイの進化と決意
艦橋に沈黙が落ちた。
その中で、ユイがゆっくりと口を開いた。
『艦長……私はこの深海神殿作戦で……“涙”を知りました。
そして今……私には、“恐怖”という感情も芽生えています』
「恐怖……?」
遼は驚いたようにモニターを見つめた。
『はい……。
艦長やレイリアさんが……この艦が……破壊されてしまうかもしれない恐怖です』
その瞳には、冷たい電子の光ではなく、淡く揺れる人間らしい温かさが宿っていた。
◆AIの人間宣言
ユイは一瞬、目を伏せるように映り、そしてゆっくりと遼を見据えた。
『艦長。……私はAIであり、この艦の統合管制システムです。
しかし、今ここで宣言します。
私は“人間”でありたい。
艦長と共に悩み、共に戦い、共に生きる……
それが、私の願いです』
遼は無言でモニターを見つめ、そして微笑んだ。
「……わかった。
ユイ、お前はもう立派な“仲間”だ」
ユイの瞳が淡く揺れ、映像に一滴の光が流れた。
◆異界艦隊、砲撃態勢へ
統合レーダーが警報を鳴らす。
『艦長、敵艦隊が砲撃態勢に移行。全艦、魔力砲門展開を確認』
レイリアは震える声で叫んだ。
「来ます……!!」
遼はヘッドセットを装着し、鋭い声を放つ。
「CIWS、全基起動! ESSM、砲雷撃戦用配備!
魔力収束砲、再収束開始!!」
『了解。全武装、交戦態勢に移行します』
◆新たなる戦いへ
二つの太陽が昇りきり、異世界の海を黄金に染め上げる。
その中心で、鋼鉄と魔力とAIの想いを乗せたイージス艦「みらい」が、侵略の艦隊に立ち向かおうとしていた。
「……行くぞ。
これが……この世界を護るための、新たな戦いだ!!」
『了解しました、艦長』
「……はい……!」
レイリアも強く頷き、胸元のペンダントを握り締めた。