第十五話 深淵の巫女と超魔獣の咆哮
青白い光に包まれた門が、重々しい軋みを上げながら開いていく。
橘遼とレイリアの眼前には、無数の魔力紋様が刻まれた回廊が広がっていた。
回廊の奥は淡い青白の光と、黒紫の瘴気が混在し、視界を歪ませている。
「……これが、最深域……」
レイリアは震える声で呟いた。
その胸元のペンダントは、これまで以上に眩い光を放っている。
『艦長、レイリアさん。艦からの通信は門奥で徐々に減衰します。
しかし、可能な限り支援情報を送信し続けます』
統合管制AIユイの声が、ヘッドセット越しに聞こえた。
「頼むぞ、ユイ」
◆古代神官との邂逅
二人が奥へ進むと、突如、回廊両側の祭壇から淡い光が灯った。
光の中に立っていたのは、数人の女性たちだった。
全員が白銀の神官装束を纏い、胸元にはレイリアと同じ月と波を象ったペンダントを下げている。
しかし、その瞳には生気がなく、淡い青白の光を湛えていた。
「……これ……亡霊……?」
レイリアが震える声で呟く。
一人の神官が、ゆっくりと口を開いた。
『異界の戦士よ……我らが神殿へようこそ……』
「……異界の戦士……?」
遼は眉をひそめた。
『我らはこの門を護る古代神官……
この奥に眠る“黒海竜神”を封じるため、永劫の時をここで過ごしてきました……』
「ラグナ・アルマ……?」
ユイの声が艦橋から響く。
『艦長、記録データと照合します。……黒海竜神ラグナ・アルマは、この世界で“深海の災厄神”と恐れられる存在。
海魔獣の源流とされる禁忌種です』
◆封印の綻び
古代神官の亡霊は、悲しげに瞳を伏せた。
『しかし……我らの封印も……限界……
ラグナ・アルマはすでに覚醒を始めています……
このままでは……世界が……海に呑まれる……』
レイリアは涙を浮かべながら声を震わせた。
「私に……できることは……?」
亡霊は、淡く微笑んだ。
『……貴女は……最後の巫女……
貴女の祈りと、この異界の戦士の“鋼鉄の力”があれば……再封印の儀を成すことができる……』
◆超魔獣の咆哮
突如、回廊奥から地鳴りのような轟音が響いた。
神官亡霊たちが一斉に振り返り、恐怖に震える。
『来ます……ラグナ・アルマが……!』
遼とレイリアも奥を見据えた。
黒紫の瘴気を裂き、巨大な影が姿を現す。
頭部だけで数十メートル。全身は黒鉄結晶と魔力鱗で覆われ、無数の触手が海水のように蠢いていた。
その中心には、巨大な赤黒い結晶核が脈動している。
『艦長、推定全長230メートル。魔力濃度、従来個体比9500%。……この艦の火力でも、単独撃破は不可能です』
ユイの声に、遼は唇を噛み締めた。
(……だが、やるしかない……!)
◆最終戦闘準備
亡霊の神官がレイリアへと手を差し伸べた。
『……巫女よ……この“封印の紋章”を……』
光の粒子がレイリアの胸元へと集まり、ペンダントに新たな紋様が刻まれていく。
彼女の髪と瞳は蒼白く光り、膝をつきながらも必死に耐えていた。
「……私……やります……!」
◆ラグナ・アルマ、襲来
轟──!!!
地響きと共に、ラグナ・アルマが咆哮をあげた。
瘴気と魔力波動が空間を歪ませ、遼とレイリアの身体が吹き飛ばされる。
「くっ……!」
遼は咳き込みながら立ち上がり、ハンドガンを抜いた。
(無駄だとわかっていても……今はこれしかない……!)
引き金を引き、三発。
しかし、弾丸は鱗に弾かれ、火花を散らすのみだった。
◆AIユイの作戦
ユイの声が艦橋から響く。
『艦長、艦の魔力収束砲による支援射撃は可能です。ただし、神殿上部構造物への損壊リスクが高く、崩落すれば退路が断たれます』
「構わない……今撃たなければ、ここで終わる!」
『了解しました。魔力収束砲、照準開始。レイリアさん、祈りをお願いします』
「……はい……!」
レイリアは両手を合わせ、必死に祈りを捧げた。
「海の神よ……この者に力を……この世界を……どうか……!」
◆最終砲撃、開幕
艦首砲塔から放たれた青白い光線が、神殿天井部を貫き、最深域へと突き刺さる。
ラグナ・アルマの左肩部装甲が砕け、魔力血液が滝のように溢れ出した。
だが、巨体は怯むことなく咆哮を上げた。
『目標へのダメージ率12%。戦闘継続は必須です』
遼は汗を拭い、レイリアを見た。
「……やるぞ、レイリアさん!
君の祈りと、ユイの力と、この艦の全火力で……この海を取り戻す!!」
「……はいっ!!」
◆次なる戦いへ
二人の視線が交わる。
深海神殿最深域。
そこに眠る“深海の災厄神”との最終決戦が、今、幕を開けた。
鋼鉄と魔力と祈り。
それら全てを賭けた、絶望と希望の戦いが始まる──。