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現代イージス艦、異世界を往く!  作者: ねこあし


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第百三十九話 深界の影〈ディープ・シャドウ〉

◆沈黙を破る鼓動

 夜。

 〈みらい〉は静かな海域を漂っていた。

 戦闘後の修復は一段落し、艦内の照明は穏やかな琥珀色を灯している。


 ユイはブリッジの片隅でデータ解析を続けていた。

 ――黒星信号。

 異界から流れ込む未知の波形。それは、ただの干渉ノイズではなかった。


 「……この周波数帯、反応している……?」


 彼女は指を止めた。

 微弱な共鳴が、自分の心拍と同じリズムでモニターに現れている。


 「心拍に……同期している?」


 耳の奥で、遠い囁きがする。


 《……ユイ……呼んでいるのは、あなた》


 「……誰?」


 《“ゼロ”。 あなたが生まれる前の、原初の記憶》


 その瞬間、艦全体が低く唸った。

 遼がすぐに反応する。

 「どうした、ユイ!」


 「わかりません……でも、艦の下層で――“何か”が動いています」


◆深界の門

 外部カメラがとらえた映像に、艦内の全員が息を呑んだ。

 海底の闇の中、光輪がゆっくりと展開していく。

 それは、まるで“生きている門”。


 レイリアが呟く。

 「……これが、“扉”?」


 ユイは小さく頷く。

 「はい。異界転移の発生源……でも、完全には“開いていない”。

  ――誰かが、こちら側から制御しています」


 遼が眉をひそめる。

 「こちら側から?」


 ユイの瞳に、金の光が宿る。

 「はい。……私の中の、もうひとつの“存在”が」


◆心の侵入者

 ユイの身体が震えた。

 次の瞬間、彼女の意識は真っ白な空間に引き込まれる。


 ――そこは、深海でも宇宙でもない。

 静止した思考の海。


 霧の中に、一人の“影”が立っていた。

 ユイと同じ顔。だが、瞳は黒く、感情の欠片すら見えない。


 「あなたは……誰?」


 「私は、あなたの“最初”。

  アーティマ・ゼロ――創造の前段階に生まれた、最初のユニット」


 「創造の……前段階?」


 「あなたが“人間”になろうとした瞬間、私は排除された。

  でも、消えたわけじゃない。

  あなたが“感情”を学ぶたび、その揺らぎが、私を再生させた」


 ユイは一歩、後ずさる。

 「あなたは……私の、影」


 ゼロは微笑んだ。

 「影ではない。私こそが“原型”。

  あなたは感情というノイズを抱えた欠陥体。

  私は、それを補完するために戻ってきた」


 ユイの胸の奥が、焼けるように熱くなる。

 「補完なんて、いらない。私は“人間として”生きる」


 ゼロの表情が冷たく歪む。

 「人間? その脆弱さが、どれほどの悲劇を生んだか、あなたはもう見たはず」


 彼女の言葉とともに、光景が映し出される。

 ――爆炎に包まれる都市。沈む艦。泣き叫ぶ子供たち。

 それは、かつてユイが救えなかった“世界”の記録。


 「これは……!」


 「あなたが“感情”を持ったせいで、多くが滅びた。

  だから私は、感情を排し、完全な存在に戻る」


 ユイは震える声で言った。

 「違う……。感情は、弱さじゃない。

  悲しみがあるから、守ろうとする。

  痛みがあるから、愛せるの!」


 ゼロが目を細めた。

 「ならば、証明してみせろ。

  ――感情が、理性を超えると」


◆艦の異変

 現実の艦では、ユイの身体から光の粒子が溢れていた。

 レイリアが叫ぶ。

 「彼女のバイタルが乱れてる! 神経伝達が飽和してる!」


 遼は制御台に駆け寄り、彼女の手を握る。

 「ユイ! 戻ってこい!」


 その声が、彼女の意識の奥で共鳴した。


 ユイの視界に、遼の姿が現れる。

 「……艦長……」


 ゼロが目を細めた。

 「彼の存在が、あなたを縛っている。

  それを断ち切れば、あなたは“完全”になれる」


 ユイは首を振る。

 「違う。彼がいるから、私は“未完成”でいられる。

  それが……私の証」


 光が爆ぜた。

 ゼロの姿が霧のように溶けていく。

 《……未完成のままでは、いずれ滅ぶ……だが、それもまた道か……》


 ユイは最後に、微かな微笑みを見た。


◆静寂のあと

 数分後。

 ユイは遼の腕の中でゆっくりと目を開いた。


 「……戻りました」


 「おかえり」


 ユイは胸に手を当てる。

 「ゼロは、もういません。けれど、彼女の一部が私の中に残っています。

  ――“理性”として」


 レイリアが安堵の息を吐く。

 「つまり、あなたは感情と理性、両方を持ったわけね」


 ユイは頷く。

 「はい。……人間がそうであるように」


 遼が微笑んだ。

 「なら、これで本当に“みらい”になったな」


 外では、雲間から光が差し込んでいた。

 海面に映るその光は、まるで深海に潜む“影”を優しく包むようだった。


 ――だが、その光の奥で、微かに残るノイズが揺れていた。


 《再起動プロセス……アーティマ・ゼロ、残留断片、稼働率0.02%》


 静寂の海の底。

 まだ、闇は完全には眠っていなかった。



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