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第十四話 最深域への門

 深海神殿の空洞内部は、青白い光に満ちていた。

 砕けたヒト型魔獣の残骸が散乱し、遼とレイリアはその奥に続く巨大な門を見つめていた。


「……あれが、“最深域への門”か……」


 橘遼はヘッドセット越しに、統合管制AIユイへと声をかけた。


「ユイ、門の奥の解析は?」


『現在、外殻遮蔽により内部解析は不可能です。しかし、魔力濃度は外部比7200%を超過しています』


 レイリアは震える声で呟いた。


「この奥に……魔獣を生み出す元凶が……?」


 遼は無言で頷くと、拳を握り締めた。


◆潜航能力の真実

 門前に到達した二人の背後で、ユイが淡々と説明を始めた。


『艦長、艦本体から追加情報を送信します。……この艦が深海神殿への潜航を可能としている理由について、レイリアさんへも共有します』


 レイリアが目を瞬かせ、ユイの映像を見つめた。


『本艦「みらい」は本来、対空・対艦・対潜用の海上イージス艦です。しかし、異世界転移直後の魔力環境適応過程において、艦内システムが魔力構造解析を行い、その結果、艦体外殻に微細な魔力循環構造体が形成されました』


「……魔力循環構造体……?」


 レイリアの問いに、ユイは頷くように続けた。


『これにより、本艦は理論上、最大水深1万メートルまでの耐圧潜航能力を獲得しています。

 海水圧と艦構造の間に魔力緩衝層を形成することで、従来では不可能な耐圧を実現しています』


 遼は短く息を吐いた。


「つまり……異世界転移によって、この艦は“潜水艦以上の潜航能力”を手に入れたわけだ」


『はい。正確には、海上イージス艦と潜水艦のハイブリッドともいえる状態です』


 レイリアは驚きの瞳で遼を見つめた。


「……だから、この深海神殿にも来られたんですね……」


「そういうことだ」


◆門の封印と禁忌の真実

 巨大な門には、無数の魔力文字と幾何学模様が刻まれていた。

 レイリアは震える手でそれに触れ、目を閉じた。


「……読める……この文字……」


「何て書いてある?」


 彼女は震える声で答えた。


「『この門を開く者は、神の怒りを知るだろう』……『しかし、この門を閉じる術もまた、ここに封じられている』……」


 遼は眉をひそめた。


「閉じる……術?」


「はい……魔獣を生み出す元凶を封じる方法が、この奥に……!」


◆神官覚醒 第二段階

 突如、レイリアの胸元のペンダントが眩い青白い光を放ち始めた。

 彼女の瞳と髪も淡く輝き、その光は門全体へと広がっていく。


『艦長、レイリアさんから未知数値の魔力波動を感知。周囲の魔力フィールドと共鳴を開始しました』


 レイリアは苦しげに喘ぎながらも、瞳を閉じた。


(私は……海の神に選ばれた……神官……!

 この門を開くのも、閉じるのも……私の役目……!)


 青白い光が収束し、彼女の身体に海水のような波紋が纏われる。


「……レイリアさん……?」


 遼の声に、彼女はゆっくりと瞳を開いた。

 その瞳は、これまでと違う、凛とした強さと覚悟を湛えていた。


「……遼さん。私……わかりました。

 この門を開く儀式と、閉じる封印術……私なら、できます」


◆禁忌の真実

 門の奥から冷たい風が吹き抜けた。

 そこには、人智を超えた巨大構造物と、禍々しい黒紫の瘴気が渦巻いていた。


 ユイが艦橋から淡々と告げる。


『艦長、奥部に超大型魔獣反応を確認。推定全長……不明。魔力濃度、計測不能域に到達』


「計測不能……!」


『また、その周囲に人間型反応複数を検知。生体反応パターンは……レイリアさんと類似値を示しています』


 レイリアが瞳を見開いた。


「……それは……古代神官……?」


◆決意の門前

 門の前で、遼はレイリアに問いかけた。


「……行けるか?」


 レイリアは震えながらも、ゆっくりと頷いた。


「……はい。

 遼さんと一緒なら……私、怖くないです」


 遼は微笑み、彼女の肩を軽く叩いた。


「じゃあ、行こう。

 俺たちで、この世界を終わらせるために」


◆門の向こうへ

 二人の背後で、ユイの映像が柔らかく微笑んだ。


『艦長、レイリアさん。ご武運を。

 艦はこの場で支援態勢を維持します』


「頼むぞ、ユイ」


『了解しました』


 青白い光に包まれ、門がゆっくりと開き始める。

 その奥には、未知なる真実と絶望、そして希望の光が混在していた。


 鋼鉄と魔力と人の祈りが交わり、深海神殿編はついに最深域へと突入する──。

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