第十三話 深海神殿と覚醒する巫女
イージス艦「みらい」は、異世界の深海へと静かに降下していた。
艦橋のモニターには、複雑な幾何学模様を描く神殿群が淡い青白い光に照らされ、幻想的な光景を映し出している。
『艦長、現在深度5370メートル。神殿主構造体まで残り30メートルです』
「了解」
橘遼は指揮席に座り、鋭い瞳でモニターを見つめていた。
その後方で、レイリアは震える声を漏らした。
「……こんな場所が……本当に存在するなんて……」
彼女の胸元のペンダントは、神殿の光に呼応するように淡く輝いている。
◆神殿への接触
『艦長、艦体前部を神殿接続ドッキングモードへ移行します』
ユイの冷静な声と共に、艦首部ハッチが開き、深海探査用複合艇が射出された。
「ユイ、複合艇の魔力シールド出力を最大に。レイリアさん、準備はいいか?」
「……はい!」
彼女は震える膝を押さえ、遼と共に複合艇へと乗り込んだ。
◆神殿内部へ
複合艇が神殿中央部に接続されると、遼とレイリアはハッチを開き、艦外へと足を踏み出した。
「……空気が……ある……?」
神殿内部は、外の高圧海水とは隔絶された巨大空洞だった。
壁面には淡青の発光鉱石が埋め込まれ、幽玄な光が内部を照らしている。
(これは……完全に人工構造物……いや、神造物……?)
遼は腕を組み、周囲を見渡した。
◆未知魔獣との遭遇
その時、奥から低い唸り声が響いた。
暗がりから現れたのは、これまでの魔獣とは異なる、ヒト型に近い異形だった。
全身を黒鉄結晶で覆い、両腕は鉤爪のように変形し、顔面中央には巨大な赤黒い単眼が輝いている。
「……ユイ、映像確認できるか?」
『はい。艦橋モニターへ投影します。……魔力濃度、従来個体比1600%。最上位種と推定』
「最上位種……!」
唸り声と共に、魔獣は高速で接近してきた。
◆初の白兵戦
「レイリアさん、下がれ!」
遼は腰のホルスターから護身用自衛隊制式ハンドガンを抜き、即座に三発叩き込んだ。
しかし弾丸は結晶外殻に弾かれ、火花を散らすのみだった。
「効かない……!」
魔獣が鉤爪を振り下ろす。
咄嗟にレイリアを抱き寄せ、横へ転がった。
硬質な爪が床を抉り、岩盤を粉砕する轟音が神殿内部に響いた。
◆レイリアの覚醒
「くっ……!」
遼は立ち上がり、咳き込みながらレイリアを見た。
彼女の瞳には恐怖だけでなく、強い光が宿っていた。
(私が……私が、この人を……この世界を守る……!)
彼女は胸元のペンダントを強く握り締めた。
瞬間、青白い光が彼女の全身を包み込む。
「……海の神よ……我が祈りに応え給え……!」
光はペンダントから放たれ、魔獣へと飛んだ。
直撃を受けた魔獣は、咆哮と共に後退する。
◆神官としての力
「レイリアさん……今のは……?」
「わかりません……でも……力が……私の中から……!」
彼女の髪が淡い青白に光り、瞳も同じ輝きを帯びていた。
『艦長、レイリアさんから強力な魔力反応を検知。艦の魔力システムと共鳴可能です』
ユイの声が艦橋から響く。
「……共鳴……? できるのか!?」
『はい。これにより、複合艇搭載型魔力収束砲を使用可能です』
遼は咄嗟にレイリアの手を取った。
「レイリアさん、俺に力を貸してくれ!」
「……はい!」
◆魔力収束砲、発射
複合艇上部ハッチが開き、小型魔力収束砲塔が展開する。
『目標補足完了。艦長、発射可能です』
「撃て!!」
轟──!!
青白い光線が一直線に魔獣へ突き進み、黒鉄結晶外殻を貫通した。
魔獣は絶叫を上げ、砕け散り、その巨体を崩れ落とした。
◆勝利と覚醒の余韻
神殿内部に、静寂が戻る。
レイリアは膝をつき、震える声で呟いた。
「……私……戦えた……!」
遼は彼女の肩に手を置き、静かに微笑んだ。
「ああ。君は……もう立派な“戦士”だ」
彼女の瞳に、涙と笑顔が同時に宿った。
◆神殿奥へ
艦橋モニターに映るユイの瞳が淡く光る。
『艦長、奥部に更なる大型反応を検知。深部に“最深域への門”が存在する可能性があります』
「……門、か……」
遼は拳を握り、深く息を吐いた。
「行くぞ。俺たちで、この世界を変える!」
「……はい!」
神殿奥からは、冷たい風と共に禍々しい瘴気が漂っていた。
鋼鉄と魔力と人の祈りが交わり、深海神殿編は次なる深淵へと進む。