第九十九話 赤き獣の顎を越えて
◆敵艦の逆襲
艦首を裂かれた《ブラッドハウンド》は、苦悶するように震えた。
だが次の瞬間、裂け目から赤黒い霧が吹き出し、艦全体を覆った。
「……再生している!?」
ユイの声が緊迫する。
実際、裂けた装甲は脈打つように閉じ、再び瘴気の膜が形成されていく。
「自己修復速度が上がっています。艦長、時間を与えると完全に元通りになります!」
遼は即座に判断した。
「なら……回復が終わる前に決着をつける!」
◆押し寄せる赤波
《ブラッドハウンド》が咆哮を上げ、艦首から膨大な赤い波動を放った。
それは海流を逆巻かせ、深海を裂く暴風となって〈みらい〉を襲う。
「防御結界、限界です!」
ユイの声と同時に、艦体が軋む音が響く。
居住区では子供たちが互いに抱き合い、震える声で祈っていた。
「負けないで……ユイおねえちゃん……」
その声が艦橋にも届き、ユイの胸に熱を宿す。
「……艦長、まだやれます!」
◆突破口を探す
レイリアが焦りを滲ませる。
「でも、どこを攻撃すれば倒せるの!? あの再生力じゃ、何度撃っても……!」
ユイの瞳が鋭く光る。
「艦長……! 解析の結果、敵艦の魔導炉は“中央ではなく艦尾”に配置されています!」
遼が息を呑む。
「艦尾……? 普通の艦なら考えられない配置だ」
「おそらく、生体機構を支えるための構造です。そこを破壊すれば、再生は止まるはず!」
◆決断
遼は即座に艦橋全員に告げた。
「目標は敵艦尾! だが正面の攻撃を避けながら回り込む必要がある……危険だがやるしかない!」
ユイが頷き、操縦桿を強く握る。
「必ず到達します。信じてください、艦長」
「信じてる」
遼の短い言葉に、ユイの頬がわずかに赤く染まる。
◆死線の回避行動
《ブラッドハウンド》の砲撃が嵐のように降り注ぐ。
海を裂く光の奔流を、〈みらい〉は紙一重でかわし続ける。
艦体は何度も衝撃に揺れ、装甲が剥がれ落ちるが、進路は逸らさない。
「あと少し……!」
ユイが歯を食いしばる。
◆決戦の一撃
ついに敵艦尾が射程に入った。
「今だ――全砲門、敵艦尾に集中砲火!」
遼の号令が響く。
〈みらい〉の砲撃が一斉に放たれ、雷撃が艦尾を直撃する。
赤黒い障壁が砕け、内部の魔導炉が露出した。
「命中! 敵艦の魔導炉が不安定化しています!」
ユイの声が艦橋を震わせる。
だが、その直後。
《ブラッドハウンド》が狂ったように咆哮を上げ、最後の力を振り絞って突進してきた。
◆最後の選択
赤き艦影が迫る。
遼は即断した。
「ユイ、突っ込むな! 雷撃、艦首正面へ――同時に回避!」
「了解!」
〈みらい〉は敵の突進をぎりぎりでかわし、雷撃が敵艦首を貫いた。
その衝撃で艦尾の魔導炉が暴走し、赤黒い光が内側から爆発する。
《ブラッドハウンド》は断末魔の咆哮を響かせ、深海に炎を撒き散らしながら沈んでいった。
◆未来の光
艦橋に静寂が訪れる。
ユイが深く息を吐き、レイリアが安堵の涙を流した。
「……勝ったのね」
子供たちが歓声を上げ、温室の花が静かに揺れていた。
遼は艦橋全員に向けて告げた。
「これで東の道は開いた。だが帝国の脅威はまだ残っている。俺たちの戦いは、これからだ」
ユイはその横顔を見つめ、微かに笑みを浮かべた。
「はい、艦長。……未来のために」




