第十話 鋼鉄と祈りの最終決戦
夜明けの光が、海を黄金色に染め上げる。
その輝きの中で、イージス艦「みらい」は静かに戦闘態勢を整えていた。
艦橋中央の指揮席に座る橘遼は、全モニターに映る巨大な影を睨み据えていた。
『目標補足。推定体長……108メートル。全身黒鉄結晶装甲。魔力濃度、従来個体比890%』
統合管制AIユイの声は、今はもう艦内に響いていない。
彼女は魔力収束砲システムへのリソース転用により、完全停止している。
(ユイ……君が繋いでくれたこの戦い、絶対に負けない……!)
◆黒鉄魔獣王、来襲
モニターには、海面を割りながら進撃する黒鉄魔獣王の姿が映る。
全身を覆う黒鉄結晶装甲は禍々しく赤黒い光を放ち、背中からは棘のようなヒレが林立していた。
頭部中央には巨大な結晶核が埋め込まれ、そこから魔力の瘴気が噴き出している。
「レイリアさん、君の祈りを……もう一度、貸してくれ」
「……はい……!」
レイリアは胸元の月と波のペンダントを握り締め、震える瞳を閉じた。
「海の神よ……この世界を蝕む禍を……どうか退け給え……!」
淡い青い光が彼女の全身を包み、艦橋にある精神認証パネルが共鳴するように輝きを増していく。
◆最終決戦、開幕
「CIWS、ファランクス全基射撃開始! 結晶装甲の隙間を狙え!」
左右のファランクスCIWSが高速回転を開始し、轟音と共に無数の金属弾を放った。
しかし、弾丸はほとんどが結晶装甲に弾かれ、青白い火花を散らすのみだった。
『貫通率5%以下。迎撃効果、限定的』
「くそっ……!」
遼は歯を食いしばり、艦橋中央の精神認証パネルへ手を置いた。
(ユイ……君の力、貸してくれ……!)
しかし、モニターは沈黙したままだった。
◆魔力収束砲、最大出力へ
「レイリアさん……君の祈りと、この艦の力……合わせれば、きっと……!」
「はい……!」
レイリアは震える膝を押さえ、さらに祈りを深める。
彼女の胸元のペンダントが強い光を放ち、艦内の魔力システムへと流れ込んでいった。
『魔力収束砲、エネルギー出力160%到達。照準可能』
遼は目を見開き、艦首砲塔が回転していく映像を見つめた。
「目標、黒鉄魔獣王頭部結晶核……撃て!!」
轟──!!
放たれた青白い魔力ビームは、空気を震わせ、海面を裂いて一直線に魔獣王へ突き進んだ。
光線は頭部装甲に直撃し、周囲の結晶を砕き散らす。
『外殻装甲破壊成功。しかし、結晶核貫通には至っていません』
「っ……!」
◆黒鉄魔獣王の咆哮
魔獣王が咆哮を上げた。
その声だけで海面が震え、艦体が小さく揺れる。
次の瞬間、頭部結晶核が眩い赤黒い光を放ち、魔力砲撃が放たれた。
光線は一直線に「みらい」へと迫る。
「回避……っ、間に合わない!」
轟音と共に、光線が艦体右舷に直撃した。
警報が艦内に響き渡る。
『右舷甲板に直撃。CIWS二基機能停止。被害範囲、右舷外部構造部。艦内主要機関に損傷なし』
遼は奥歯を噛み締めた。
(このままじゃ……勝てない……!)
◆レイリアの真の力
その時だった。
レイリアの胸元のペンダントが、眩い蒼白の光を放った。
その光は艦橋全体を包み込み、遼のヘッドセットにユイの声が響いた。
『……レイリアさんの魔力反応を感知……システム再起動プロセス開始……』
「ユイ……!?」
モニターにユイの映像が淡く浮かび上がった。
彼女の瞳には、いつもの冷静さと共に、わずかな笑みが宿っていた。
『艦長、レイリアさん。……ただいま戻りました』
「ユイ……!」
レイリアは涙を流しながら微笑んだ。
「おかえりなさい……!」
◆最後の砲撃
『艦長、レイリアさんの魔力と艦の魔力収束砲が完全共鳴しました。出力、従来比320%』
遼は深く息を吸い込み、指揮席から鋭い声を放った。
「魔力収束砲、最大照準! 目標、黒鉄魔獣王結晶核……撃てぇえっ!!」
轟──!!!
艦首砲塔から放たれた光線は、これまでとは比べ物にならないほど眩く、蒼白の閃光が空を裂いた。
光線は一直線に魔獣王の頭部結晶核へ突き刺さり、装甲を粉砕して貫通した。
刹那、赤黒い光が弾け飛び、魔獣王の巨体が絶叫と共に崩れ落ちていく。
◆勝利と決意
艦橋に、静寂が戻った。
『目標撃破確認。黒鉄魔獣王、生命反応消失』
遼は深く息を吐き、ヘッドセットを外した。
レイリアは涙を拭い、ユイの映像を見上げた。
「ユイさん……ありがとうございます……!」
『いえ……私はAIです。艦長とレイリアさんの力が、この勝利をもたらしました』
遼は立ち上がり、二人を見渡した。
「これで……この海は少し取り戻せた。でも……まだ終わりじゃない」
モニターには、黒鉄魔獣王の崩れ落ちる巨体と共に、さらに奥深い海域へと続く暗黒が映し出されていた。
(この世界には……まだ未知の脅威がいる……)
遼は拳を握り、鋭い瞳でその闇を見据えた。
「ユイ、レイリアさん。これからも頼むぞ」
『了解しました、艦長』
「……はい!」
二人の返事が重なる。
海風が艦橋を吹き抜ける。
鋼鉄と魔力と人の想いが交わり、彼らの戦いは新たなる章へと進んでいく──。