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コメディー短編(ファンタジー)

【密着大陸】 村の名前を告げる者──アレク(38)

作者: 多田 笑

密着取材型のテレビ番組のようにしています。

地の文は、ナレーションをイメージして書いています。


少しでも笑っていただけたなら、嬉しいです。

皆さんは、RPGなどで「ここは、○○の村だ」と話しかけてくる人物を見たことがあるだろうか?


町や村の入り口に立ち、通りすがりの旅人に村の名を伝える──あの人たちだ。


物語に影響を与えるわけでもなく、何かクエストを持っているわけでもない。


ただ名前を告げるだけ。どんなゲームにも、どんな世界にも存在する、最も目立たない存在──モブである。


だが、我々は知ってしまった。


その男が、なぜ「そこ」に立っているのか。


そして、なぜ彼でなければならないのか。


本日はその謎に迫るべく、「ルイーナの村」に向かった。



「ここは、ルイーナの村だ」


その一言で、彼の一日は始まる。


石畳が崩れかけた古びた門。その前に立つ、質素な麻布の服に身を包んだ男──アレク、38歳。村人のように見えるその男は、実はこの村を守護する盾である。


この世界では、生まれてすぐにその者の適性を診断される制度がある。剣士、魔導士、農民、商人──その者の持つ素質を見極め、未来への道を定める。


アレクの適性は「ガーディアン」。剣術、魔法、防御、戦術すべてを極めた者にのみ許される究極のジョブ。その力は、王国最強の騎士すら及ばないとされる。


だが、彼の現在の任務は、村の名前を告げること。


──それが、この世界における「ガーディアン」の役割なのだ。



村の名前を告げる者──


実は、これが任命制であることを知る者は少ない。


しかも任命されるには、条件がある。


【ガーディアンの適性を持つこと】

【国家魔法術の“上級”修了】

【剣術検定“一級”取得】

【国家資格“防衛士”取得】

【誰にでも気楽に話し掛けられる“陽キャ”である】


……すべて、アレクは満たしていた。


「なぜ、『そんなに強い人』がこんなところに?」


そう尋ねた我々に、アレクは静かに笑ってこう言った。


「……それだけ、『ここ』が、大切ってことですよ」


旅人は、村の入り口で油断する。

盗賊も、魔獣も、襲うなら村の境界だ。


また、村全体には結界が張られているが、入り口付近は構造上、結界の力が及びにくい隙間となっている。外敵が侵入するなら、まずそこを狙う──当然の選択だ。


だが、村人に見えるその『門番』が、実は最強のガーディアンだったら──?


敵は、一撃を放つことすらできずに消し飛ぶ。


「私のような『村の名前を告げる者』が最強であることが、最も合理的なんですよ。──まあ、誰も信じませんけどね」


そう語るアレクの言葉に、我々取材班は驚きを隠せなかった。


彼の手には、錆びた短剣しか見えなかった。だが、それこそが偽装。真の力は、その奥に眠っている。



密着取材四日目。


その日、我々は予想外の出来事を目にした。


ルイーナの村上空に、黒い影が現れた。伝説級魔獣『黒翼竜ダルマゴス』──五十年ぶりの目撃報告だという。


村人が逃げ惑う中、我々取材班も逃げようとしたその時──。


「……ああ。せっかく、今日の天気は良かったのに」


アレクは、軽く背伸びをした。


それから、彼は鋭い視線をダルマゴスに向けた。


その瞬間、彼の気配が変わった。空気が震え、世界が一瞬だけ静止する。


深淵の破壊者(アビス・ブレイカー)


小さな呟き。


次の瞬間、アレクの姿が空へと跳ぶ。村の門前から山の彼方まで、わずか一瞬だった。


我々が再び息を飲んだとき、空からは巨大な黒い物体が落ちてきた。


──ダルマゴスの頭部だった。




アレクは、何事もなかったように戻ってきた。


またあの、古びた門の前に立つ。そして、やってきた旅人に微笑みを向ける。


「……ここは、ルイーナの村だ」


誰も彼を覚えていない。


彼の存在は、物語の本筋には関与しない。


だが、彼がいるからこそ──この村の物語は、何事もなく始まるのだ。


アレクは今日も、村人の服を着て立ち続ける。


ただ、村の名を告げるために。


だが、その姿こそが──


この世界を、密かに支えている。



《放送終了後の反応・SNSより》


@ブッころ大魔王

「いや、マジで泣いた。今までずっとスルーしてた村の入口の人たち……ごめん。あの人たち、こんなにすごかったのかよ」


@鑑定スキル厨太郎

「『ここはルイーナの村だ』の重みが違って聞こえるようになった。あの一言の裏に凄まじい努力があったなんて……」


@うちのPT全滅した

「飛竜の首を一閃ってマジ? バグじゃなくて仕様なの? アレクさん、ウチのパーティーに来てくれませんか?」


@元・村の名前を告げる者

「ガーディアン=最強って、昔からそうだったんだけど、誰にも知られないままだと思っていた。こうして番組で扱われるなんて感無量」


@俺のヒールはウンコ色

「淡々と『ここはルイーナの村だ』って言った後に飛竜倒すアレクさん、カッコよすぎて語彙力なくなった……惚れるわ」


@うちの母ちゃんは盗賊

「これって、『見えないところで世界を守る存在』へのリスペクトだよね。身近な誰かにも重なる気がして、刺さった」


@剣より魔法派

「ガーディアンって魔法も極めてたんか……道理で門番がずっと生き残ってると思ったよ。納得」


@通りすがりのネオ陰キャ

「条件が厳しすぎて、成り手が減っているらしいね。特に、最後の『陽キャ』が難しいみたい……。時代だね~。成り手確保のために任命条件の緩和を!」


@元勇者(自称)

「俺が苦労して倒した魔王も、この人達なら一瞬じゃん! 俺の存在って一体……」

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。


先日、私のコメディー作品のほとんどに、ポイントを付けてくださった方、本当にありがとうございます!


誤字報告もありがとうございます!

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