【密着大陸】 村の名前を告げる者──アレク(38)
密着取材型のテレビ番組のようにしています。
地の文は、ナレーションをイメージして書いています。
少しでも笑っていただけたなら、嬉しいです。
皆さんは、RPGなどで「ここは、○○の村だ」と話しかけてくる人物を見たことがあるだろうか?
町や村の入り口に立ち、通りすがりの旅人に村の名を伝える──あの人たちだ。
物語に影響を与えるわけでもなく、何かクエストを持っているわけでもない。
ただ名前を告げるだけ。どんなゲームにも、どんな世界にも存在する、最も目立たない存在──モブである。
だが、我々は知ってしまった。
その男が、なぜ「そこ」に立っているのか。
そして、なぜ彼でなければならないのか。
本日はその謎に迫るべく、「ルイーナの村」に向かった。
◇
「ここは、ルイーナの村だ」
その一言で、彼の一日は始まる。
石畳が崩れかけた古びた門。その前に立つ、質素な麻布の服に身を包んだ男──アレク、38歳。村人のように見えるその男は、実はこの村を守護する盾である。
この世界では、生まれてすぐにその者の適性を診断される制度がある。剣士、魔導士、農民、商人──その者の持つ素質を見極め、未来への道を定める。
アレクの適性は「ガーディアン」。剣術、魔法、防御、戦術すべてを極めた者にのみ許される究極のジョブ。その力は、王国最強の騎士すら及ばないとされる。
だが、彼の現在の任務は、村の名前を告げること。
──それが、この世界における「ガーディアン」の役割なのだ。
◇
村の名前を告げる者──
実は、これが任命制であることを知る者は少ない。
しかも任命されるには、条件がある。
【ガーディアンの適性を持つこと】
【国家魔法術の“上級”修了】
【剣術検定“一級”取得】
【国家資格“防衛士”取得】
【誰にでも気楽に話し掛けられる“陽キャ”である】
……すべて、アレクは満たしていた。
「なぜ、『そんなに強い人』がこんなところに?」
そう尋ねた我々に、アレクは静かに笑ってこう言った。
「……それだけ、『ここ』が、大切ってことですよ」
旅人は、村の入り口で油断する。
盗賊も、魔獣も、襲うなら村の境界だ。
また、村全体には結界が張られているが、入り口付近は構造上、結界の力が及びにくい隙間となっている。外敵が侵入するなら、まずそこを狙う──当然の選択だ。
だが、村人に見えるその『門番』が、実は最強のガーディアンだったら──?
敵は、一撃を放つことすらできずに消し飛ぶ。
「私のような『村の名前を告げる者』が最強であることが、最も合理的なんですよ。──まあ、誰も信じませんけどね」
そう語るアレクの言葉に、我々取材班は驚きを隠せなかった。
彼の手には、錆びた短剣しか見えなかった。だが、それこそが偽装。真の力は、その奥に眠っている。
◇
密着取材四日目。
その日、我々は予想外の出来事を目にした。
ルイーナの村上空に、黒い影が現れた。伝説級魔獣『黒翼竜ダルマゴス』──五十年ぶりの目撃報告だという。
村人が逃げ惑う中、我々取材班も逃げようとしたその時──。
「……ああ。せっかく、今日の天気は良かったのに」
アレクは、軽く背伸びをした。
それから、彼は鋭い視線をダルマゴスに向けた。
その瞬間、彼の気配が変わった。空気が震え、世界が一瞬だけ静止する。
「深淵の破壊者」
小さな呟き。
次の瞬間、アレクの姿が空へと跳ぶ。村の門前から山の彼方まで、わずか一瞬だった。
我々が再び息を飲んだとき、空からは巨大な黒い物体が落ちてきた。
──ダルマゴスの頭部だった。
アレクは、何事もなかったように戻ってきた。
またあの、古びた門の前に立つ。そして、やってきた旅人に微笑みを向ける。
「……ここは、ルイーナの村だ」
誰も彼を覚えていない。
彼の存在は、物語の本筋には関与しない。
だが、彼がいるからこそ──この村の物語は、何事もなく始まるのだ。
アレクは今日も、村人の服を着て立ち続ける。
ただ、村の名を告げるために。
だが、その姿こそが──
この世界を、密かに支えている。
◇
《放送終了後の反応・SNSより》
@ブッころ大魔王
「いや、マジで泣いた。今までずっとスルーしてた村の入口の人たち……ごめん。あの人たち、こんなにすごかったのかよ」
@鑑定スキル厨太郎
「『ここはルイーナの村だ』の重みが違って聞こえるようになった。あの一言の裏に凄まじい努力があったなんて……」
@うちのPT全滅した
「飛竜の首を一閃ってマジ? バグじゃなくて仕様なの? アレクさん、ウチのパーティーに来てくれませんか?」
@元・村の名前を告げる者
「ガーディアン=最強って、昔からそうだったんだけど、誰にも知られないままだと思っていた。こうして番組で扱われるなんて感無量」
@俺のヒールはウンコ色
「淡々と『ここはルイーナの村だ』って言った後に飛竜倒すアレクさん、カッコよすぎて語彙力なくなった……惚れるわ」
@うちの母ちゃんは盗賊
「これって、『見えないところで世界を守る存在』へのリスペクトだよね。身近な誰かにも重なる気がして、刺さった」
@剣より魔法派
「ガーディアンって魔法も極めてたんか……道理で門番がずっと生き残ってると思ったよ。納得」
@通りすがりのネオ陰キャ
「条件が厳しすぎて、成り手が減っているらしいね。特に、最後の『陽キャ』が難しいみたい……。時代だね~。成り手確保のために任命条件の緩和を!」
@元勇者(自称)
「俺が苦労して倒した魔王も、この人達なら一瞬じゃん! 俺の存在って一体……」
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先日、私のコメディー作品のほとんどに、ポイントを付けてくださった方、本当にありがとうございます!
誤字報告もありがとうございます!