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テケテケ



「テケテケ」

「て、テケテケ?」

「そう」

 くだんは眠そうに、退屈そうに頷いた。

「テケテケは口裂け女と同じく有名な都市伝説。その為、語り手も多い。語る者によって話を構成する要素は変化する」

「た、例えば……?」

「まず、事故現場は冬の北海道の踏切、もしくは北海道の駅になる。事故の被害者は女子高生、サラリーマン風の男性、OL、女子中学生高校生、電車の運転士、車掌と様々。事故の原因は過失による事故、自殺。死亡までの時間は数分から数十分とされる。亡霊、ケテケテの欠損部位は主に下腹部から下、両肢に限られる。ケテケテの歩行方法には両手を使って歩行するものと、両肘で匍匐前進する二つ。テケテケが出現する場所は夢の中、寝室、下校途中に追われるパターンもある」

 ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなりそんなに話されても頭が付いていかないぞ。つまり、テケテケってのはなんなんだ?

「その顔を見ると話が見えていない様子」

「う、うん。見え過ぎて、見えていないって言うか」

 くだんは腕を組み、パーカーの紐を指で弄んだ。

「では、くだんが話す。先の要素をもとにテケテケの話を構成すると……冬の北海道の踏切で女子高生が列車に撥ねられて上半身と下半身が切断された。だけど、あまりの寒さに血管が収縮して出血が止まり、即死出来ず数分間もがき、足掻き、苦しみ、『助けて』と言い残して死んでいった」

「そ、それで……?」

 それだけじゃ、ただのグロくてえげつない事故の話じゃねえか。俺があんな目に遭った理由にはなんねえぞ。

「この話を聞いた者のところに、三日以内に先刻の被害者――――テケテケが出現する」

「そっ、そうなの!?」

 そうか。だからか、だから、俺は……。

「しかし安心して欲しい。テケテケには対処法も存在する」

「そ、それは……?」

「呪文」

 じゅ、呪文って。アレか、詠唱したり陣を描いたりで発動するドラゴンスレイヤー的な。

「君は何か勘違いしている。呪文とは何らかの力を持っている言葉の事」

「じゃ、じゃあ、テケテケに対処するには、な、何て言えば?」

「地獄に帰れ」

「え、えっ?」

 そ、そんな。確かに俺はヒッキーで根暗でどうしようもないすねかじりのダメ野郎だけど、いきなり罵る事ないじゃないか!

「……ソーメイに言ったのではない。今のが、呪文」

 あ、ああ、なんだ。びっくりした。死ぬかと思った。『地獄に帰れ』ってのが呪文な訳ね。

「ちなみに、呪文を唱えないと足を切断される。もしくは殺される。そう、話は続く」

「ど、どうすれば良いの?」

 くだんは踏切に視線を遣る。

「簡単。今の呪文をテケテケにぶつけてやれば良い」

 で、でも。

「怖がらなくても良い。そも、この都市伝説については矛盾がある。幾ら北海道とは言え、寒さで血管が収縮するとは到底思えない。有り得ない」

「そ、そうな、の……?」

「そう」

 でも、実際にテケテケは現れた。北海道でもないここで。冬ではなく夏なのに。でも、俺は確かに襲われたんだ。

「ここでテケテケを待つ。安心して、くだんがいるから」

「う、うん」

 しっかし、どうしてまた、都市伝説なんぞに巻き込まれちまったのかね。



 引きこもり歴一年と少し。それが俺。

「……うー」

 日本の夏は暑い。いや、日本の夏しか知らねえけど。クーラーはまだ早いか。扇風機で我慢すっかなー。早く陽が沈んでくれないと、おちおちゲームもしてらんねえ。やっぱ引きこもるには冬が良いよ。冬が。

「はあ……」

 もっかい寝直そ。



 夕方、妹が学校から、母親がパート先から帰ってきたらしい。俺は目が覚めてしまったのを後悔し、強く目を瞑る。どうして、こんな目に遭ってんだ俺。なんて自問自答も、もう何度目だ。繰り返し繰り返し、同じ事やって……。

 こういう時は馬鹿みたいに派手な映画を見るのが良い。筋肉ムキムキの外人が大量の銃火器装備して、奪われた娘を取り返しに島へ行く奴でも見よう。ばばーんって効果音を聞けば嫌な事だって吹き飛ぶさ。つーか吹き飛んでくれ。どうせなら俺ごと吹き飛ばしてくれ。お願いだから。



 ばばーんっ! 寝てた。いや、しまった。一番オイシイところを見逃しちまったぜ。気付いたら、もう十時か。

「ふあ……」

 あんだけ寝てたってのにまだ眠い。人間って不思議だな。でもな、起きたばかりで寝るのはもったいない。こうなりゃ、何かゲームでもするか。徹夜で麻雀でもするかなあ。イカサマありだけど。脱衣だけど。しかも相手はCPUだけど。

「ねえっ!」

「ひっ!?」

 夜中だってのに、ドアがけたたましく叩かれる。

「どうせ起きてクソゲーやってんでしょ! つーか静が呼んでんだから起きててよね! おらっ起きろヒッキー!」

 ひでえ。身内じゃなかったらどうにかしてやりたい。

「お、起きてるよ……」

 しかし、妹が一体何の用事だろう。滅多な事でもない限り、こいつが俺と接触を図ろうなんざ思わない筈だ。何せ俺の事をゴキブリと同列……いや、虫以下の存在として扱ってやがるからな。

「はー、あっそー起きてたんだ。なーんかうざーい」

 なんでだよ!

「よ、用がないなら……」

「はああーっ? 馬鹿じゃないの? 死ねば、つーか死ね。勝手に話切り上げないでよね。あのね、静が意味もなくあんたに近付くワケないじゃん。あんたは可愛い妹の頼みを聞けば良いの」

 可愛い妹、ねえ。そんなの、ここ最近はパソコンのモニターにしか映ってねえ。つーか、可愛い妹なんて、そんな強化人間三次元には存在しねえぞ。絶対に頼みなんか聞いてやんねー。

「い、嫌だ」

「はあ? はああ? はあああっ!? あんたみたいなごくつぶしに拒否権があるとでも思ってんの?」

「……うるさいな」

 そこから、声は聞こえなくなった。多分、妹は諦めていない。必死で知恵をめぐらせているんだろう。無駄だっつーのに。

「あ。ふーん、へえー、そーんな事言っちゃうのー?」

 楽しそうに言いやがる。

「良いんだよー、静としては別にー。ただー、あんたが引きこもれなくなっちゃうかもしんなくなるだけでー」

「……な、何だよ」

「ふふっ、あんたさ、夜中出掛けてるじゃん」

 それがどうした。お前どころか、親だって気付いてるわそんなの。気付いていて、俺は何も言われないんだよ。今更びびってられっかボケが。

「最近さー、なんか、静の知らない女の匂いがするんだよねー」

 ……こいつ。

「お母さんでもないし、静の友達でもない。じゃあ、誰なの? みたいな。……あんた、何か隠してるんでしょ?」

 意外と鋭いな。腐っても女って訳か。妙な勘の鋭さは女性のコモンスキルなのか?

「き、気のせいじゃないの?」

「黙っといてあげるから、静の言う事一つ聞いてよ」

 勝手に決め付けやがって。いや、まあ、確かに妹の知らない女のなのだろうかは来てるんだけど。どうするかな、ここで弱み見せてもつまんねえし。第一、証拠がねえ。俺は今のところ清廉潔白。つーか、仮に誰か来てたとしてそれが何だっつーの?

「聞いてくんなきゃ、無茶苦茶にしてやるから」

「……何を?」

「あんたの生活。ヒッキーどうのこうので馬鹿にされたり死にたいなーなんて思ったりしてるだろうけど、案外居心地って良いもんなんでしょ、それ? そのせっまーい世界で明日からもハッピーに閉じこもっていたいなら……」

 身内じゃなかったら本当にどうにかしてるぞこいつ。くそっ、実の兄を脅しやがって、それでも自称可愛い妹かよ。

 まあ、良いや。良いじゃねえか。一つ言う事聞くだけで、明日からのヒッキーライフが確約されるってんなら、まあ。

「い、言う事って?」

「お、なーに? なーによー、やーっと静のお願い聞いてくれるつもりになったのー? おっくれってるー!」

「…………で、何?」

 ドアの向こうから盛大な溜め息。

「ノリわっるー。ああ、だからこうなんのね。ま、良いけど。お願いってのはー、ぶっちゃけパシリなの」

 そんなこったろうと思った。

「な、何を買ってくれば良いの?」

「花と夢と鏡」

 ああ、月刊の少女漫画ね。何だ、それくらいお安い御用だ。今の時代、男が少女漫画買っても不思議じゃないし、おかしくねえからな。確か、いつも行くコンビニにも置いてた筈だし。

「わ、分かった」

「今月号だからね? 先月の買ってきたらぶっ殺すから」

 今月号発売してんのに、先月号売り出す店があるかよ。

「はい、んじゃさっさと行ってきて」

「い、いや、お金は……?」

「はあ?」

 あ、その返事は絶対に金を出さないって感じ。

「静さー、今月ピンチなんだよねー。漫画如きにお金出してる場合じゃないって言うかー」

「だ、だったら読まなくても……」

「読みたいの! あんたは何も言わず考えず聞かず見ざるに買ってくれば良いんだから!」

 せめて見ざるは撤回しろよ。……仕方ない。いや、待てよ。つーか、俺が金出すから、妹が自分で買いに行けば良いんじゃね?

「ね、ねえ」

「何よグズ」

「……お、お金あげるから、自分で買ってくれば?」

「嫌。絶対に嫌。今日はもう家から出ないって決めたの」

 俺だって出たくねえよ。

「つーか、あんたはクソニートヒッキーだから知らないと思うけどさ、変な噂が学校で流行ってんの」

「う、噂……?」

 その時、唐突に一週間ほど前の記憶が蘇る。血だらけの道。肉が付着した壁。目の前で破裂する女。マスクを放さない口のでかい女。予言を繰り返し、俺を助けたあの少女。もう、出会えない女の子。

「そ、噂。こないださー、駅で人身事故があったの知ってる?」

「し、知らない」

「ですよねー。まあそれは良いんだけどー。とにかく駅でー、結構やばめな事が起きちゃったのね」

 前置きは良いから要点だけ喋れ。

「静とは違う学校の生徒らしいんだけどー、なんかー、線路に飛び降り自殺しちゃったんだってー、電車にゴー! みたいな?」

「そ、それだけ?」

「話は最後まで聞けって先生に習わなかった? あ、ごめん。ヒッキーだったね」

 程度の低い煽りだ。耐性の付いてる俺に通じると思うなよ中学生。

「でー、こっからが本題なんだけどー、出る、らしいんだよねー」

 この流れで出るって言われたら、想像するものは一つだろう。

「静の学校もー、何人か見たって子がいてー」

「ぐ、具体的には何が出るの?」

「……自殺した子。しかも、半分だけ」

 半分?

「その死んじゃった子、電車にぶつかった時に上半身と下半身がぷっつんってちぎれちゃったんだって。だから、その子の幽霊も半分だけ。上半身だけで、踏切んところに出るんだって」

 ありがちな話じゃねえか。ま、中学生びびらすには低レベルなくらいが丁度良いっつーの(笑)?

「……は、話。まだ、終わりじゃないよね」

「はあ? そこで終わりだっつーの。もう良いでしょ、つまり夜の町は危険がいっぱいなの」

 こいつ、絶対びびってやがる。夜んなって外に行くのが怖いんだ。ぷぎゃーって指差して笑ってやりたいけど、んな事したら多分殺される。ま、オッケーオッケー、口裂け女と出遭っても生きていられたんだ、今更幽霊の一匹や二匹、どうって事ねえだろうよ。



 案外、軽い気分だった。ちょっと前までは部屋の外に出るのが苦痛で苦痛でしょうがなかったのに、今は別に何ともない。そりゃ、夜だし、誰もいないから、なんだろうけど。ま、少なくとも可愛くも何ともねえ妹のパシリになってやっても良いかなーってぐらいには、気が軽い。

 が、流石に今はちょっとだるくなっていた。行きつけのコンビニに着いたのは良いが、目的のものが入手出来なかったからだ。空手で帰ったら何て言われるかわかんねえなあ、どうするよ。探すしかねえか。

「……はあ」

 とは言え、二十四時間やってるようなコンビニは近辺に二軒ぐらいしかない。ここと、もう一つは駅の近くにある。妹が言っていた、例の霊が出るという噂の踏切を越えた先だ。……距離、あるなあ。けど、行かなきゃダメだろうな、きっと。

「はあ……」

 もう一度息を吐いてから、俺は仕方なく歩き出した。



 特に、何も出なかった。帰宅するサラリーマンやら、この時間になってもほっつき歩いてる馬鹿面下げた奴らとすれ違うくらい。件の踏切だって何もなさそうだ。電車だって普通に通ってたし。

 そんな訳で、コンビニに着き、少女漫画を買い(でも内心ドキドキだったのは仕方ない)、今、俺は帰り道を歩いていた。

 ちょっと、いや、かなり拍子抜け。実際、心のどこかでは期待していたのかもしれない。いや、きっとしていたんだろう。もう一度、都市伝説と遭う事に。もう一度、彼女と出会う事に。

「……くっ」

 いやいや、俺もまだまだガキじゃねえかよ。馬鹿が。アレは、夢だったんだ。きっと、もう見られない。すっげー空しい夢。覚めると、そこにはもう何もない。いつも通りの俺がいるだけ。

 ――――カンカンカン、と。

 踏切まで来たところで、来た時と同じように電車が通る。何となく、俺は流れていく電車を見上げた。もしかしたら、あいつが乗ってるかも、なんて。馬鹿だ。やっぱり。帰ったら、静に漫画を渡して風呂入って寝よ。それが良い。起きてるから、こんなくだんねえ事ばっか考えちまうんだよなあ。

 ――――カンカンカン、と。

 電車が完全に通り過ぎ、遮断棹が上がる。

 瞬間、俺は、何かと目が合った。合って、しまった。


 血塗れの制服。

 酷く乱れた髪。

 ぎらついた意思を宿した瞳。


 それは、人間だったのだろう。人間、だったのだろう。ついこの間までは、彼女が死んでしまうまでは、体が二つに分かれるまでは。

「う、あ、あ……」

 ぞわりと、悪寒が全身を走り抜ける。この時間だ、もう涼しくなってるってのに、汗が止まらない。

 何が、出遭いたかっただ。

 俺は本当に、底なしのクソ馬鹿野郎じゃねえか。都市伝説と一度遭遇したからって、それがどうした。俺はあの時、一人じゃなかったんだぞ。あいつがいたから、たまたま助かっただけなんだ。なのに、期待?

 向こうも、こちらに気が付いたのだろう。声も出せず、漫画の入ったビニール袋を落とした俺に近付いてくる。

 上半身だけの状態で。

 どうなっているのか、器用に両腕を動かし、地面を這う。一歩ずつ、しかし確実に。薄汚れた目からどうやっても目を離せない。見てはならない。見られてはならない。その筈なのに、俺はそいつから目が離せない。離してくれない。

「か、はっ……」

 恐怖と緊張で呼吸が出来ない。肺から残った空気を吐き出すと、少しずつ目の前の光景が不確かなものに変わっていく。力が、入らない。

 そして下半身の欠損した女学生は、俺に視線を合わせたまま、唇を――。


「『六月九日午後十一時七分、テケテケは退散する』」


 その透き通った声は、


「君と別れてからまだ一週間と経っていない。それでも、くだんは思う」


 その小さな体は、


「久しぶり、ソーメイ」


 やっぱり、彼女のものだった。



「あんたさ、今何時だか分かってんの? 分かってるよね? 一切合財絶対必要ないケータイ持ってるんだもんね。時間、それ開けりゃ一発でしょ。あんた何時に出てったか覚えてる? まだ、十時回ったところだったんですけどー、そんで今何時か分かるー? ……はあ? 正直に答えてんじゃないわよグズ。そうよ、十二時回ってんの日付跨いでんのよ。どんだけ静を待たせたら気が済むワケ? あ、もしかして仕返しのつもりだった? よーしお兄ちゃんちょっと焦らしちゃうぞーみたいな。一回死んじゃえば良いのに。つーか死ねば。つーか死ね。死ね馬鹿。グズ。のろま。ヒッキー。陰気。オタク。B級映画好き。ヘタレ。チキン。ほんっっっっとどうしようもないんだから。まともにパシリすらこなせないの? おら、おらっ、言い訳があんなら言ってみなさ……本当に言うな! 謝れ! 超謝ってよね! 静はヒッキーのあんたと違って明日も学校があるんだからっ、明日は一時間目体育なのっ、寝不足で変な感じになったら責任とってくれんのっ!?」

 帰宅した俺を待ち受けていたのは、慈悲も容赦もない妹の叱責だった。つーか罵詈雑言だった。

「……ご、ごめん」

 蹴りを入れられた。しかも顔面。

「さっさと漫画渡しなさいよ! あんたの指紋とか空気とか、とにかくそういうものが付いてたら消毒すんのメンドーなんだから!」

 ……俺は、何をしに行ったのだろう。妹にボロクソ言われ、蹴られる為にコンビニへ行き、テケテケに襲われたのだろうか。どんだけマゾなんだ俺。我々の業界ではご褒美です。アホか。

「く、くそぅ……」

 マジに、無駄に疲れるだけだった。やっぱり外には出ない方が良い。出たくない。出たくないよう。部屋が良い。一人きりのこもりきり。素晴らしいハッピーヒッキーライフ。

「ソーメイ、君の妹はうるさい」

「ご、ごめん」

 ドアを開けた瞬間、反射的に謝ってしまった。

 俺の部屋、ベッドを占領し、テレビを眺めるくだん。

「……な、なんで?」

「くだんがここにいる理由は簡単」

 黙って、続きを促してみる。

「特にない」

 あ、そ。

 まあ、命の恩人を無下に追い出すつもりはない。それに、俺は彼女に会いたかった。話をしたかった。

「ソーメイ、さっきはお疲れ様」

「う、うん。く、くだんこそ……」

「くだんは疲労していない。ただ、腰の抜けた君を送り届けるのが面倒だった」

 すいませんね、また腰を抜かしてしまいまして。

「そ、それより、どうしてまた、ここに?」

「くだんは前にも言った。都市伝説を追っている、と」

 つまりは、そういう事らしい。偶然が積み重なった、それだけだ。

 だが、くだんはまたここにいる。まだ、ここにいる。

「そ、そうだったね」

「そう。では、また宿を借りる」

「や、宿って?」

 聞くまでもなかった。つーか答えてくれなかった。くだんは布団を頭まで被る。俺はどこで寝れば良いんだよ。

「ん、隣、使う?」

「……使わない」

「そう。では、くだんは就寝する。是非、熟睡出来るような環境を整えてもらいたい」

「し、静かにしてれば良いんでしょ……」

 本当に、ああ、もう、本当に――。

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