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口裂け女・転



 引きこもりが頑張って家を出た。その行き先、目的地がネカフェってのには目を瞑ろう。三時間パック八百八十円が高いのか安いかは分からない。ただ、お金は俺が出すらしい。でも会員証はくだんが持っていた。しかもクーポン券まで持っていた。まあ、良い。良いよ別に。

「……な、なんで?」

「君も座った方が良い」

 でもさ! どうして、ペアシートなんだよ! おかしくね? ねえおかしくない? 畜生、くだんに受付任せるんじゃなかった! 無理。無理だって。俺には無理。女の子の隣に座るなんて、きついよマジで。

「まさか、君はカップルシートが恥ずかしい?」

「わ、わざわざ言わなくて良いよ……」

 薄暗い照明。ブース同士を遮る高い壁。今期で一番テンションの高いアニソンが店内に流れ続けている。俺はウエスタンっぽい扉に手を掛けたまま、しばし呆然とした。

「店員に訝しがられるといけない」

 仕方、ない。どうせ(俺は全く知らなかったとは言え)一夜を共にした仲だ。ここでしつこく恥ずかしがっても意味ない。

「す、座るよ……」

 別に意識とかしないで良いんだ。ただ、二人で来てるだけ。同じ部屋にいるだけ。つーか、そういうアレな展開になんかなる筈ない。

「うん。飲み物を取ってくる。君は何を希望する?」

「な、何があるの?」

「ここはメニューが豊富。好きなものを言ってみるのをお勧めする」

 何だか常連って感じがする。浮き世離れっつーか、人間離れしてるような子だけど、こういうシステムを理解して実行出来るあたり、意外と普通なのかも。

「じゃ、じゃあアイスコーヒーで」

「ミルクは?」

「適当に……」

「砂糖は?」

「て、適当で」

「把握した」

 くだんはかつかつとブーツで床を鳴らしていく。規則的で、綺麗な歩き方だった。

 さて、どうしようかな。金払ってるんだし、漫画でも持ってこようか。

「うーん」

 俺はソファから立ち上がり、天井近くの高さまである本棚を眺めた。いや、かなりぎっしり詰まってる。高が田舎町の漫画喫茶だと馬鹿にしていたけど……マイナーどころもしっかり押さえているじゃねえか。やるじゃない。ちょっと見直したわ。

 けど、大概読んだ事のある奴ばっかだな。特に読みたいってのもないし、あ、そうだ。くだんに何かお勧めを聞いてみよう。さっきの様子からだと何度か来た事あるっぽいし、色々知ってんだろ。

 並んである漫画の背表紙を見ながら、俺はゆっくりとブースに戻る。

「忘れていた」

 と、先に戻っていたくだんが言った。えっと、何を?

「ストローは?」

 ……どっちでも良いのに。

「つ、付けといて」

「了解した」

 くだんは自分の飲み物だけ持ってきていたのだろう。グラスの中身を一息に呷ると、氷をばりばりと噛み砕きながらブースを出ていった。……豪快さん過ぎる。彼女の顔や体に似合わないので、結構びっくりだ。

 ソファに背を預けて、深く息を吸い、吐く。何だか、疲れちまったな。昨日から変な事ばかり起きて、巻き込まれて。

 都市伝説の口裂け女、か。誰かの妄想世迷言、実際にこの世界にはいない筈だっつーのに、見ちまったからには仕方ない。信じるしかねえよなあ。いたもんなあ、口裂け。したもんなあ、爆発。

「お待たせした」

「あ、あり、がと……」

 くだんから手渡されたグラス。一口飲むと、余計に喉が乾きそうになる甘さが口の中に広がった。

「くだんは砂糖もミルクも適量だと思う」

「……う、うん」

 甘い。美味しくない。だけど、まずいだなんて、口が裂けても言えそうにない。言うつもりもなかった。



 二杯目には烏龍茶をお願いした。

「……さ、三姉妹?」

「そう」

 三十分ぐらい俺が黙りを通していた頃だろうか、くだんが急に話を振ってきた。彼女が言うには、どうやら口裂け女は三姉妹らしい。の、だが、まともに受け答えの出来ない俺は鸚鵡返しで会話を繋げようとするしかない。

「あ、だ、だから、三人いるって……」

「そう。一人、まだこの町のどこかに潜伏している」

 空恐ろしい話だ。人をざっくりばらばらに殺しちまうような奴が近くにいるだなんて。

「くだんは口裂け女を見つけなければならない」

「ど、どうして……?」

 そういや、俺はまだくだんの目的を知らない。彼女が口裂け女を追い掛けているのは分かる。けど、どうして追っているのかは謎だ。

「それは……くだんがくだんだから」

 尋ねてみても、これ。ただ、やっぱり何か理由はあるのだろう。そうでないと、こーんな小さな女の子がわざわざ危ない目に遭う筈ないし。俺にスーパーな力があったら、ハイパーな頭脳があったら、ウルトラな何かがあったら助けてあげられるのに。残念ながら、俺はただの引きこもり。

「口裂け女は帰り道を歩く子を襲う。一人目の犠牲者は学校帰りの少年」

「か、帰り道?」

 へえ、口裂け女にはそんな習性もあったのか。

「二人目は塾帰りの少年」

 ?

 二人、目?

「……こ、殺されたのは一人じゃ……」

「二人殺されている。一人目の少年について触れられていないのは、まだ死体が見つかっていないからだと思う」

 死体が? いや、どうしてくだんがそんな事を知っているんだ。

「君が疑問に思うのも不思議じゃない。口裂け女は、死体を食べる。だから死体が見つからない」

 疑問に思ったのはそういう事じゃないんだけど。しかし、へえ、口裂け女にはそんな習性も……って、マジか。マジ、なのか。死体、食べちゃうんですか? ああ、くだんさん、その真剣な目はマジなんですかマジなんですよね。

「ちなみに、三人目は君だった」

「え、ええ?」

 三人目が俺? って、まさか。

「くだんが助けた」

「あ、ありが、とう……?」

 あっぶねー! うわあ、じゃあ、もしかしたら俺も口裂け女に殺されてて、その上食われてたかもしれなかったのかよ。

 帰り道を歩く、子、か。一応俺もまだまだ子供って言える年齢だし、コンビニから帰っている時だったもんな。口裂け女に襲われる条件を満たしていたって事なんだろう。でも、おかしいな。少なくとも俺の知っている口裂け女はそんなんじゃなかったような気がする。子供を襲うってのは普通だけど、その死体を食うっておかしくねえか? 口裂け女って言えばかなり有名な都市伝説だけど、そんなの、今までに聞いた事がないぞ。

「君はまだくだんを疑っている」

 じっと見つめられる。俺は壁に視線を逃がした。そんな距離から俺を見ないでっ。

「だ、だって、口裂け女が死体を食べるなんて話……」

「都市伝説は進化する。変化を繰り返す。そも、君は都市伝説を理解しているの?」

 理解って言われてもなあ。

「くだんが都市伝説の何たるかを教授する。君は享受すれば良い」

「は、はあ……?」

 嫌に決まってんじゃん! どうして漫画喫茶にまで来て都市伝説を語られなきゃならないんだよ。漫画読んでジュース飲んでもう家に帰ろうよ。

「い、いい」

 俺は首を横に振る。精一杯の否定。

「拒否は許可しない。くだんは君に理解して欲しい」

 う、うう。

「……す、少しなら」

「都市伝説には真実味が必要不可欠」

「う、うん」

 いきなり話し始めやがった。何か、ワンクッション置くとかねえのかよ。

「都市伝説の大半は面白さと不気味さを主としている。だけど、誰にも信用してもらえないのでは話が広がらない」

 噂はすぐに広まるけど、それがつまらなけりゃ誰もそれについて話さないって事か。まあ、分かる。

「大事なのは真実味。そこで都市伝説の登場人物や地名には話し手、聞き手にとって身近なものが選択される傾向にある」

 くだんはグラスを傾け、溶けて水になりつつある氷を見つめた。

「都市伝説を理解する上で重要なのが、FOAF」

「ふぉ、ふぉあふ?」

「そう。FOAFとはfriend of a friendの頭文字を並べたもの」

 何か、今すっげー聞きたくないっつーか、気分の悪くなりそうな単語が聞こえた気がする。

「君も良く聞くと思う。FOAFとは友達の友達、と言った感じの言葉。友達の友達の話ならば真実味が増す。君だってそう思う筈」

「思わない」

 くだんが少しだけ目を見開いた。なんだ、今までずっと眠たそうな顔で、無表情な奴だと思ってたけど。こいつだって驚くぐらいはするのか。

「それでは話が進まない」

 進めなくて良い。もう、この話はここでおしまいだ。俺は黙り込み、くだんからは目を反らす。俯いて、不機嫌だとアピールする。

 はっ、本当に、ガキだ。

 子供過ぎて、幼過ぎて笑えてくる。これじゃあ口裂け女に襲われても仕方ない。殺されても仕方ない。食われちまっても文句は言えないな。

「……どうやら、くだんは君を怒らせたらしい。謝罪を」

「い、いらない」

 そんなもの、俺には必要ない。もったいない。

「……ご、ごめん。少し疲れたんだ」

「そう」

「だから、寝る」

 こんな状況で寝られる訳がない。でも、俺は目を瞑る。また逃げる。それしか知らない。だから、眼球が潰れても良いってぐらいに、強く。



 都市伝説やら、くだんやら、口裂け女やら。

 ちょっとコンビニに行っただけで、どうしてこんな事になっちまったんだろう。引きこもりに天罰が下ったのか? 最悪過ぎる。良いじゃん、部屋にいても。部屋好きなんだし。

「ん、目が覚めた?」

「――っ。う、うん……」

 死ぬかと思った。目を開けたら、すぐそこにくだんの顔があった。く、くそ。中身は毒々しい電波なくせに、外面だけは良いんだからよ。……最初は寝たふりだったんだけど、どうやら本当に参っていたらしい。どれくらい、俺は眠っていたんだろうか。

「君は一時間ほど眠っていた」

「そ、そう……」

「君はこの後どうしたい?」

 家に帰りたい。外に出ても、ろくな事がありゃしない。

「く、くだんは?」

「くだんはネカフェを出た後口裂け女を追う」

 だよな。

 ……くだんは、どうして俺を助けてくれたんだろう。どうして、俺の部屋に来たのだろう。どうして、一緒に外へ出たのだろう。いや、考え過ぎはダメだよな。俺は特別じゃない。特別ダメな奴だけど、誰かにとっての特別、なんて存在じゃない。そんな存在にはなれない。くだんはただ、そこにたまたまいた俺を助けただけだ。俺じゃなきゃダメだったなんて事はない。くだんにとって、俺は大した存在じゃない。

「俺は、家に帰るよ」

「そう」

 くだんの返事は、何だか妙にそっけなく思えた。



 別れは呆気ない。終わりとは味気ない。

 漫画喫茶を出た俺とくだんは、簡単に言葉を交わすだけで、違う道を歩いていった。特に語るような事もない。思い出すような事はない。くだんがそれじゃあとか短く呟き、俺はどもって何も言えなかった。

 俺は来た道を戻り、くだんは裏道を更に進んでいく。最後に見た彼女の背中は、小さかった。

「……う」

 太陽はほぼ真上に位置している。じりじりとした日差し。頭と背中が焦げそうなほど熱い。暑い。外はこんなにも容赦がない。慈悲なんか持ち合わせちゃいない。他人の視線を避けながら、人の少ない方へ方へと遠回りしながら道を戻る。

 帰ったら、何をしよう。妹がマジでドアを壊していないかが心配だ。

「…………」

 汗が止まらない。暑さだけじゃない。緊張して、俺の顔は真っ赤になってる筈だろう。なんで、こうなんだろうな。どうして、こうなってるんだろうな。

 人の少ない道を歩いていると、向こう側から背の高い女が歩いてくるのが見える。俺よりも、でかい。二メートルはないだろうけど、百九十はいってんじゃねえのかな。だから、目を引いた。目が、合った。


 長い髪の毛。

 マスク。

 白いコート。


 どくんと胸が打たれた。

 汗は一瞬で止まった。

 喉は渇いて、足が震えている。

「あ、ああ……」

 馬鹿な。今は昼間だ。いや、夜に出会うとは限らない。けど、けど、どうして、出遭う。出遭っちまうんだよ!

 逃げなきゃ。そう思って背中を向ける。瞬間、地面を蹴る音がすぐそこで響いた。……そういや、口裂け女って百メートルを三秒で走るんだったっけ。

「うわああああっ」

 後頭部を掴まれ、ゆっくりと地面に押さえつけられて行く。必死で逃れようとするが、無理だ。力が違い過ぎる。敵う筈ない。

「ねえ」

 そいつの声は思っていたよりも高かった。だからどうしたと言われればそれまでだけど、昨日見た口裂け女とは別物な気がする。

「私、綺麗?」

「……あ、あ……」

 こいつ。

「私、綺麗?」

 こいつ、馬鹿じゃねえの? 俺は今頭を押さえられてうつ伏せになってんだぞ、顔なんか見られる筈ねえだろうが! 近くなった地面しか見えねえっつーの!

 しかし、どうすんだ。どうすりゃあ良い。どうすれば助かるんだ。思い出せ、こいつは力の強いイカれた女じゃない、都市伝説の口裂け女じゃねえか。確か、対処法もあった筈だぞ。

「あ、ぐ……」

 そっ、そうだ。べっこう飴だ! べっこう飴を投げ付けりゃ女の気が反れて逃げられる……って持ってねえし! べっこう飴なんか持ってる奴いる訳ねえじゃん!

「ポ……」

 まだだ。まだ手はある。手も足も出せないけど、口は出せる。こいつに対抗する手段は残ってる。

「ポマードポマードポマード……」

 べっこう飴に並ぶ有名な対処法。我ながらこの状況下でよく思い出せたもんだぜ。さあ消えろ、三回も唱えてやったんだ。爆発しながら消え失せろ。

「あ、無駄だから。それよりもさあ、私綺麗?」

 は?

 無駄? 無駄ってなんだよそんでリアクション薄くね? あ、無駄だからとか、渾身の一発会心の一撃ぶち込んだだろ!

「ポ、ポマード……」

 もっぺん唱えるけど効果はない。つーか全く無視。所詮アレか、口裂け女と遭遇した小学生が、生き延びたい一心で付け足した後付け設定って訳か。見つかったら最後殺されちゃうって奴じゃないか。

「だから無駄だって! 私が綺麗かどうか! 大人しくそれだけ答えたら良いの!」

「む、無理……」

「どうしてっ!?」

 顔が見えないんだもん。ダメだこいつ。こいつ本当にダメだ。話が通じない。全然意味が分からない。もう無理だ。俺はここで死んじまうんだ。

「答えてっ!」

 最後のチャンス。ここでどう答えるか。もしかしたら、助かるかもしれない。

 綺麗→これでもかーとマスクを取られて命をとられる。

 綺麗じゃない→殺される。

 ……やばいな。どう答えても未来が見えない。こうなったら、オブラートに包んでみるか。やらなきゃ殺されるしやっても殺されるかもしんない。けど、やらないで死ぬよりやって死ぬ方がナンボかマシってもんじゃないのか。いやしかし、やっても死ぬって分かっているならやっても無駄だって事で、それならやっぱりやらない方が良いんじゃないのか。無意味に足掻くよりそっちのがマシじゃね? けど死にたくねえし、ああ、ああ……。

「か、顔を見せて……」

「……顔?」

 事態が呑み込めたのか、口裂け女は俺の髪の毛を掴んだまま向きを変えさせる。つーかいってえ!

「どう?」

「……う」

 何て言うのか、その、思っていたよりも口裂け女は。

「どうなのっ!?」

 ヒステリーなところは厳しいが、

「けっ、結構可愛いです!」

 可愛かった。

 だが、

「結構って何なのよ!」

 お気に召さなかったらしい。しまった。もう、終わり。俺の人生はここで、終わり。

「……う、ああ」

 最後の最期に思い浮かんだのは、父さんでも、母さんでも、妹の静でもなかった。まして友達や恋人の顔でもない。さっき出会ったばかりの、ちょっと、いや、かなりおかしな、あの――。

「た、助けて! くだーん!」

「――えっ?」

 目の前の女が後方に吹き飛ぶ。途端、体から重圧がなくなった。軽くなり、俺は体を起こす事に成功する。

「……あ」

「往来の真ん中でくだんの名前を叫ぶほど、君は進退窮まっていたらしい」

 口裂け女を軽々と投げ飛ばし、困惑する俺を見下ろすのは、必死で叫んだあの名前を持つ少女。

 深夜、引きこもりの俺と出会い、電波を飛ばして都市伝説を四散させたあの女の子。

「く、くだん……」

 くだんは別れた時とまるで変わらず、眠そうな瞳で退屈そうに言葉を紡ぐ。

「心配は無用。この周辺に近付く人はいない。思う存分叫んでも誰の迷惑にもならない」

「ど、どうして……?」

「くだんがそう予言した」

 じゃあ、通行人どころか助けが来なかったのは、全部。

「お、お前のせいじゃん」

「気にしなくても構わない」

 するし! 超するよ絶対気にするね! まあ、でも、助かった。

「あ、ありが、と……」

「構わない。それより、さっきのポマードはこの女には通用しない」

 身をもって知りました。けど、どうして。

「あの女は口裂け女ではない」

「は、はあ?」

 壁に背中を強打したのか、口裂け女は苦しそうに喘ぎ、片手をこちらに向けている。ちょっと待ったって感じのジェスチャーだった。

「君は知らないの? 口裂け女は三姉妹。だけど、三女は違う。三女は普通の人間で、上の姉たちにその普通さを妬まれた」

「ふ、普通とか、言わないで……」

 凄い根性だ。ふらふらだったのに女は立ち上がり、くだんを強く睨み付ける。

 しかし、くだんの話は本当なんだろうか。

「その目はくだんを疑っている。けど、無理もない。口裂け女は有名なだけに、その噂には多種多様な尾ひれが付いてしまう。だから、口裂け女の特徴や性質はその時々で変化する」

 くだんは振り返り、女を見つめる。

「そこの女には、今までと同じような口裂け女の残虐性、暴力性は存在しない。しかし、生かしておいては為にならない」

 まあ、確かに鉈やら斧は持ってない。俺は現に殺されていない。それでもだ、後ろから追い掛けてきて、地面に無理矢理押し付けてくるような奴は変質者っつーかもう犯罪者の領域だ。確かに、生きてるよりは死んでる方が世の中の為ってもんだよ。

「で、でも、口裂け女じゃないんだろ?」

「そう。この女は口裂け女ではない。口裂け女の妹であって、口裂け女ではない」

 だけど、子供を襲う。子供を追い掛けて、捕まえて、尋ねる。

「……だから、君に選んで欲しい」

「え、選ぶ?」

 この期に及んで、この場面で、俺が何を選択できると言うのだろう。

「くだんは都市伝説を追っている。追い掛けて、潰す。けど、この女は違う。都市伝説のようで都市伝説ではない。正直に言ってしまうと、くだんは迷っている」

 目の前の女を、消すのか。それとも消さないのか。だが、くだんが決められないものを俺なんかが決められるとは思えない。決めてしまっては、いけないのだと思う。

「この女はまだ君にしか危害を加えていない。だから、君が決めて」

「お、俺、が……?」

 俺が何かを決めるなんて事、今までにあっただろうか。相手は都市伝説。だけど、生きている。俺が口裂け……いや、この女の人の命を握っているんだ。

 どうすれば、良い。

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