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カシマさん・2nd



「それじゃ、あなたは書記ね、書記。あたしたちの集めてきた情報をまとめてちょうだい」

「え、ぼ、僕が?」

 めんどくせえ! てめえらでやってろよ!

「ソーメン君は部屋でぐうぐうしてるだけだったんだから、ねっ、お願い?」

 まあ、ここで嫌だと突っ撥ねて、空気を壊してしまうつもりはない。俺は渋々ながらではあったが、ルーズリーフとシャーペンを用意する。

「じゃ、あたしから。カシマさんについて、町で集めた情報を出し合っていきましょう。……『カシマさんの話を知った者には、電話や夢で謎の問い掛けがある』の。『その問いに正しく答えられない場合、体の一部を奪われて死ぬ』わ」

 メリーさんはゆっくりと喋ってくれた。俺はペンを走らせる。

「あ、あの、私も調べました。カシマさんの導入部として『戦時中、アメリカの兵士に両手足を撃たれて、苦しんで死んだ郵便配達員がいた』というものがあります」

「あれ? 『男の人に襲われた女の人が自殺した』ってところから始まるんじゃなかったっけ?」

 どっちだよ。俺はメリーさんに目を遣る。

「両方書いておきなさいよ」はいはい。

「とにかく、その話を聞いた後に電話が来る。もしくは、夢の中で何者かに尋ねられる。問い掛けの内容だけど、『この話を誰から聞いた?』 ってものらしいわね」

「……私は、『手をよこせ』と言われると聞きました」

「『足をくれー』じゃないの?」

 だから、どれだよ!? 統一させとけよ!

「何だか、ばらばらですね。……問いについての答えですが、『手をよこせ』と言われた場合、『今使っています』と返すのが正解のようです」

「『足をくれ』って言われちゃったら『今必要なんです』って答えれば大丈夫!」

「『話を誰から聞いた』には『カシマさん』。『カシマのカは仮面のカ。シは死人のシ。魔は悪魔のマ』で現れたモノを撃退する事も出来るらしいわ」

「ちょ、ちょっと待って」

 書く事が多過ぎる。つーか、どうしてこうも違うんだ? 三人とも、本当にカシマさんについて調べてきたんだろうな? 誰か一人勘違いしてるんじゃねえの?

「あ、それと、『私の足はどこにあるの?』 と、尋ねられる事もあるそうです」

「その問いにはなんて答えれば良いの?」

「『高速道路』と答えるのが正解らしいですね」

 げ、また増えた。

「間違えちゃったら『上半身だけの女の人』が現れるんだよねー」

「『旧日本軍の兵士』じゃないの?」

「……『片足を失ったバレリーナ』とも聞きましたが」

 全然違うじゃねえか! せめて女か男かはっきりしろや。つまり、カシマさんってのは上半身だけの旧日本軍の女兵士でバレリーナって事なのか? 

「そ、それで、どうなるの?」

「あたしは、『殺される』って聞いたわ」

「『カシマさんの欠損部位と同じ部位を奪われる』そうです」

「忘れちゃったー」

 話をまとめておこう。とにかく、カシマさんについての話を聞いた奴のところに、電話なり、何かしらの方法で『謎』が来る。それに正しく答えられたならセーフ。間違えたら良く分からんモノがやってきて、殺される。もしくは酷い目に遭わされるってところか。

 なるほど、良く分からん。が、大筋は大体同じだな。三人の話は異なっているけど、共通している部分もある。基本的には『カシマさんの話を聞く』。すると『謎を与えられる』。『答えられなきゃカシマさんが出てきて、誤答者が酷い目に遭う』。『逃げ道は用意されている』ってのも同じか。

「結局、どういう都市伝説なのかしら」

「あのさ、そ、そもそも、皆はどこから情報を仕入れてきたの?」

 大口は首を傾げた。

「私はー、色んな人から話を聞いたよ? 他にも違った事を言ってる人がいたけど、殆ど覚えてないかな。だけどね、大体が同じ感じ。パターンって言うのかな」

「あたしも大口と同じね。人の多いところで聞き耳を立てていたのよ。そうしたら、カシマさんについて話している人たちが殆どだったの。勝手に情報を流してくれている感じだったわね」

 町の住人がカシマさんの話を? 嘘だろ。幾らなんでもそりゃ、出回り過ぎじゃねえのか?

「私はネットを駆使しました。この町の人たちのブログだったり、SNSの日記だったり」

 都市伝説なうって奴か。……何か、異常だ。以前にも、この町には都市伝説が現れていた。俺が目を向けていなかっただけで、皆が噂していたのかもしれないけど。

 って、ちょっと待てよ。

「あ、あのさ。本当に、いるの?」

「はあ? 何が? きちんと主語をつけて話しなさい。だから引きこもりになるのよ、あなたは」うっさいバーカ死ね。

「カシマさんだよ。この町に、ほ、本当に?」

「うん、いると思うよ」

 大口はあっけらかんとしている。え、ええ? マジなのか? さっきまではこいつの作り話だと思ってたのに。

「でも、困りましたね。結局のところ、カシマさんの正体が掴めません」

「そう、ね。都市伝説らしいといえばらしいけど、あたしたちからすれば面倒なことこの上ないわ」

「どうしよっか」

 そこで、俺を見るな。俺を頼ろうとするな。そもそも、曖昧でもこもこしてる都市伝説を相手にするんだ。一筋縄じゃあいかないだろう。……こんな時、あいつがいれば、か? 馬鹿馬鹿しい。いない奴を当てにしてどうすんだ。っつーか、別に、どうだって良いしな。カシマさんが何をして、誰を殺そうが興味がない。こんな町、とっとと滅びちまえ。

「いないんじゃ、ないの?」

 何となく、口に出してみた。だって、俺は見てねえんだもん。よくよく考えりゃ、人が死んでた場所で野次馬が『カシマさんカシマさんだ』って話してただけだろ。

「いえ、いると思いますよ」

「どうして、そう思うの?」

 森はこほんと咳払いする。

「だって、普通『カシマさん』なんてものは出てきませんよ。人を殺すのは、基本的に人です。でも、この町の人たちはカシマさんを知っていて、噂しています。火のないところに煙は立たずって言うじゃないですか」

「妃田の言うとおりだわ。もう少し、情報を集めてみましょう。何せ、ソースはその辺に転がっているようなものだもの」

「じゃ、解散だね。そんで、またソーメン君ちに戻ってくる」

 戻ってこなくて良いわ。

「それでは伸田さん、もう一度パソコンをお借りしますね」

 あー、そうですか。もう好きにしろ。勝手にしやがれ。



 やる事もなく、思いつかず。ベッドの上でうとうとしていると、体を揺さぶられて目が覚めた。深刻そうな顔の森が、俺の顔を覗き込んでいる。もしかして、ブラクラにでも引っ掛かったんだろうか。馬鹿め、あれほど直リンクを踏むなと言ったのに。

「……妹さんが呼んでいます」

「えっ」予想外だった。体を起き上がらせるのと同時、ドアがけたたましくノックされる。

「おらっ、さっきから呼んでんじゃない! さっさと返事しろクソが! あんたみたいな下等生物に話しかけてあげてる静サマの心の広さときたらないわね! それに比べてあんたはアメーバやプランクトンにも劣る馬鹿! 下等馬鹿! 起きろっ、この!」

 妹が帰ってきてるって事は、結構な時間が経ってたって事か。

「ちょ、ちょっと気配を消してて」

「了解です。そういうのは得意ですから」

 森は部屋の隅にいき、三角座りをする。非常に、似合っていた。

「へーんじーはー!?」

「……何?」

「起きてんじゃん! なんで無視するワケ? 信じらんない。キョッケーよね、キョッケー。爪全部剥がすから。もしくは自分の爪の垢を煎じて飲んで死んじゃって」

 だから、何だよ。

「暇でしょ、あんた。静もねー、今日は暇だから遊んであげよっかー?」

「うわ、気持ち悪い……」

「なぶっ殺す! なぶって殺す!」

「ひ、暇じゃないから。いい。いらない」

 ドアの向こうから奇声が聞こえてきた。きょええとか、こんな事叫ぶ女を実の妹とは思いたくない。

「いいじゃん! 遊んでよう!」

 うわー。ますます気味が悪いな、おい。

「また、怖い映画でも見たの?」

「はあ? 見てないし、そんなの。つーか! ビビってねえから、マジで! 何言ってんのお前」

 お前こそ何言ってんだ。

「たださー、知ってる? カ、カシマさんって言うんだけどさ。そういう都市伝説、聞いた事ない?」

「……カシマさん」

 こいつまで知ってんのかよ。

「そう! カシマ! 友達の友達から聞いたんだけどさー、『カシマさんからのチェンメが届いたら、三人にそのメールを送らなきゃ殺されちゃう』んだって。やばくない? バカだよねー、クラスの子が噂してんの。こ、子供みたいだよねー、そんなんで怖がるなんて幼稚園児でもないっつーの」

「い、いつぐらいから?」

「はっ? えー、確か、ちょっと前。一週間は経ってないんじゃない?」

 カシマさんは、妹の中学では既に話題になっていた。そんで、都市伝説に関するチェーンメールが出回っている。

「……不幸の手紙や、怪人アンサーなんかと同じですね」

 天井のシミを数えていた森がドアに目を遣る。

「ネットが普及してますから、都市伝説がメールやSNSから生まれたのでしょう。メールやブログを通して、不特定多数の人に伝わります。だから、その伝播速度は圧倒的に早いんです。……友達のいない人たちには、あまり関係がないかもしれませんけど」自虐的に笑うな。そして俺を見るな。

 ……森の言っている事は正しいんだろう。だけど、やっぱり変だ。今までにない。口裂け女だって、メリーさんだって、ひきこさんだって現れていた。なのに、ここまで噂が広がっていたか?

「ん? あれ? あっ、ああああああああっ! メールだあああああ! ムッカつく! なんなんあの子! 明日会ったらシメる! ひいいい、最悪! 最悪っ!」

 町が静かだったのは、カシマさんのせいだったのだろうか。嵐の前。そう、想像したのは間違いではなかったのかもしれない。

 でも、彼女は姿を見せない。影すら、見えない。……何だよ。都市伝説を追っ掛けてるんじゃなかったのかよ。マジで、出てこないつもりでいるのか。今まで、好き放題に人の部屋に入り浸って、人の生活を引っ掻き回していったってのに。

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