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カラ



 俺は引きこもりだ。この二年、部屋にばかりこもっていたのだからそうなるに決まっている。自他共に認めるヒッキー様だ。

 その筈だったんだけど、最近じゃあちょいちょい外出している感が否めない。これはどうなのだろう。俺はしっかりと胸を張り、はっきりと断言出来るのだろうか。俺は引きこもり、引きこもりなんですよーっ! と。

 心配になったので俺が世界で一番信頼している情報源、ウィキペディア様を見てみると、なるほど、引きこもりにも程度、レベルがあるらしい。ガチで完全に陽の光も浴びたくないって奴もいれば、俺みたいに昼夜が逆転している程度の奴もいる。しかし、やはりそれだけだ。買い物ぐらいならギリギリ何とかなるかもしれないが、それ以上はもう無理。ノー。したくねえ。学校には行きたくないし、アルバイトなんかもっと嫌だ。部屋から出たくない。漫画を読んで、ゲームやって、アニメ見ながら寝落ちしたい。出来ればそのまま死にたい。

 ベッドに寝転がると、天井に張った美少女キャラのポスターが目に入ってきた。正直、剥がしたいなアレ。ありゃ若気の至りって奴だ。最近はこの部屋にも誰かが出入りしてきてるんだし、ちょっと、あの手のブツは片付けておきたい。まあ、くだんは基本的にそういうの気にしないし、大口は一定の理解を示すばかりか『私も欲しいー! ソーメン君、こういうのってどこで売ってるの? 連れてってよ』なんて言う始末だ。

 問題はあのクソメリーだよ。あいつはまだ俺の部屋に入った事がないが、来ないって可能性はゼロじゃない。もしかしたら、今日、今にだってひょっこりと――。

「ちょっとー、あなた引きこもりなんだから電話くらいは出なさいよ」

「……う、あ?」

 よっこいしょと呟き、俺に断りなく窓を開けて桟に腰掛けるメリーさん。マジで。つーか、うわ、本当にきやがったよ。

「か、帰って」

「来たばかりじゃないのよ。と言うか、客人に掛ける言葉じゃないわ。もっとこう、労いなさいよ」

 呼んでねえしこの先招くつもりもねえ奴を労う馬鹿がいるか。一秒でも早く俺の視界から消えてしまえ。

「何よその目、嫌らしい。婦女子の体を舐め回すような視線……あなたを殺しても罪には問われない気がするわ」

「ど、どうして来たの?」

「くだんに呼ばれたのよ。あなたの家に集合ってね」

 はあ? くだんが? でも、俺は何も聞いてねえぞ。何をするつもりか知らないが、まずは俺の許可を取れってんだ。

「やほー、ソーメン君お邪魔するよー!」

 また来た……。今度は大口かよ。

「あれ? くだんちゃんは来てないの? ダメだなー、ホストはしっかりしてないと。しょうがない、ソーメン君麦茶で良いよ」

 茹ったてめえの中身でも飲んでろ。

「……お、大口さんも呼ばれた、ん、ですか」

「そうだよ? くだんちゃんがソーメン君ちに集合ってね」

 やはりこいつもか。しかし、マジに何をするつもりなんだろ。当のくだんはまだ来ていないし。

「ソーメン君、アレやろうよアレ! 今日は私が勝つからさ!」

 大口は勝手にゲーム機をセットし始める。……懲りない奴だな、小学生の頃から永久コンボを妹や友人に決め続けてきたこの俺に勝とうなどとは。

「今日は秘策があるんだよね」

「う、受けて立ちます」

 電源が入り、ロードが終わり、バーサスモードを選ぶと、キャラクターを選択する画面になる。まあ、これって割と悪くない格ゲーなんだよな。作りはオーソドックスで、小難しいシステムもない。一部のキャラが狂ってるだけで、バランスはそこそこ良い。

 ちなみに、大口は本気で上手くない。むしろ下手だ。対戦相手としてはかなり物足りない。トレーニングモードのデクと変わらないぐらいだ。それでも、楽しそうに遊んでくれるので彼女と対戦する事自体は嫌ではない。

「ずっと考えてたんだよねー、どうしたらソーメン君に勝てるのかって。昨日寝ないで考えたんだー」

「そ、そうですか」

 試合が始まったと同時、大口はコントローラの線を抜いた。

 俺の選んだキャラは動かず、画面上で棒立ちし続けている。その間、大口のキャラは飛び道具を撃ちまくっていた。せめて近付いてコンボを入れてくれ。

「どうかな? どうかなこれ? 秘策ピタリとハマったりって感じがしない? 動けないソーメン君をボッコボコ!」

「た、楽しいですか?」

 大口はあははと笑ってから、

「あれ!? なんでだろう全然楽しくない!」

 頭を抱えた。うわー、こいつ本当にダメ過ぎる。



 十戦ほど遊んだら大口が飽きたと言い出したので、俺たちはコントローラを置いた。

「全然勝てない。もう嫌だ。引退します。私、普通の女の子に戻ります!」

 そう宣言してから、大口は持参していたスナック菓子の袋を開けて流し込む。普通の女はそんなな事しねえし、ちょっと分けてくれよ。

 やれやれ、仕方ない。くだんが来るまで寝とくか。

 と、ゲーム機の電源を落とそうとしたところで、

「あたしもやりたい」

 今の今まで黙り込んでいたメリーさんが口を開く。

「や、やりたいって、こ、これ?」

「そうよ」

 素っ気なく言ってから、メリーさんはコントローラを握った。

「……か、構わないけど、やった事あるの?」

「ないわ」

 言い切りやがった。まあ、別に良いけどさ。

 俺はキャラを選び、メリーさんも続いてキャラを選ぶ。……へえ、投げキャラか。ゲームによって立ち回りは変わるだろうが、基本的には近付いて一発の威力がでかいコマンド投げをぶちこむしかない。やる事が決まってるから、初心者には意外と向いているかもな。

 が、相手はこの俺だ。易々と投げ間合いには入れさせん。牽制だけで封殺してやる。

「あなた、口裂け女には敬語を使うのね」

「……え、えと?」

 いきなり何を。言われてみれば確かにそうかもしれないが、いや、だって大口でかいから恐いんだもん。俺より背がある奴にどう接して良いか分からない。

「この勝負にあたしが勝ったら、あなたはあたしにも敬語を使いなさい」

 はあああ?

「か、勝てばね」

「ふふん、言ったわね。男に二言はない筈よ、絶対に敬語を使わせてあげるわ」



 対戦を始めてから、既に二時間が経った。二本先取、制限時間は六十秒。俺は負けるどころか、一ラウンドも取らせなかった。最初はメリーさんも『ああ、一回転って右回りだったのね。ずっと左でやってたわ』とか『へー、そっちで来るんだ?』 なんて『手が滑った。今から本気出そうかしら』と、色々呟いたりしてたんだけど。

「…………………………ちっ」

 今は完全に無言。たまに聞こえてくる舌打ちが恐い。部屋には大口の寝息とボタンを押す音しか聞こえない。止めてえ。もうやりたくねえ。ギリギリの接戦が続くならまだしも、一生同じ繰り返し。メリーさんには残念な事に学習能力が備わっていないらしかった。初心者にありがちな、無意味なジャンプでぴょんぴょんと接近を試みるだけ。こういうゲームにはいつ飛ぶのか、何を撃ってくるのか、なんて読み合いが付き物なんだが、こいつやばい。超やばい。端っから読み合い放棄で通らないジャンプを繰り返してくる。こっちはそのジャンプをサマーソルトキックで撃墜してるだけ。もっと考えろよ。これじゃあ作業じゃん。

「……はあ」

 思わず溜め息。瞬間、メリーさんがキッと睨み付けてくる。

「今、溜め息吐いたわね?」

 何をキレてんだか。第一、息を吸おうが吐こうが俺の勝手だろうがよ。

「い、一々、つっ、かかってこないでよ」

「突っ掛かってないわよクズ!」

 キレ過ぎだろ。高がゲームにムキになってんじゃねえよ。

「ああああっイライラする! どうして勝てないのよう!」

 今が家族のいない昼間で良かった。

「……か、考えて飛んだ方が良いよ」

「その言い方じゃ、あたしが考えなしの馬鹿みたいに聞こえる」

「ご、ごめん」

「謝りつつサマーを撃たないでよ!」

 ひゃひゃひゃ、やべえ、何だか逆に楽しくなってきた。

「きいいいっ、こうなったらリアルよっ、リアルファイトよ!」

「へ、部屋で、暴れないでよ」

「なら表に出なさい!」

 一人で出てろよヒステリー。

 あーめんどくせー。早くくだん来ないかなー。

「お待たせした」

「た、助かった……」

 お、おお! 祈りが通じた。奇跡だ。窓が開き、俺にとってのメシアが何食わぬ顔で部屋に入ってくる。

「どうやら、くだん以外は既に集まってくれている様子」

「遅いわよくだん。あまりにも待ちくたびれて、仕方ないからヒッキーの相手をしてしまったじゃないの」

「んんー……? くだんちゃん、来たの……?」

「……く、くだん」

 くだんはコンビニのビニール袋を引っ繰り返して、おにぎりやらパンやらを床に散らかす。彼女はその中からあんぱんを掴み、開封したと同時に一口で平らげた。

「ソーメイはくだんに言いたい事がある目をしている」

 いっぱいあります。

「あ、あの、さ。どうして僕の家、なの?」

「君の家しか思い浮かばなかった。急いでいたから、ソーメイには連絡出来なかった。その点については深く反省している。ついては、この食べ物を受け取って欲しい。くだんなりに、お詫びの品を持ってきた」

 今、お詫びの品を食ってなかったか?

「も、もう良いよ」

「じゃあ私もらうね!」

 大口が伸ばした手をくだんが払う。

「これはソーメイのもの。欲しいのなら許可をもらうべきとくだんは考える」

「えー、ソーメン君、食べて良いよね?」

 俺は頷いた。

「あ、じゃああたしも頂こうかしら。良いわよね、クソーメン」

 俺は首を横に振った。

「……は? どうして口裂け女は良くてあたしはダメなのよ?」

 信じられん。信じられんぞこいつ。人の名前を間違えるばかりか必要ない文字を付け足して馬鹿にしやがった! そんな奴に物なんかやれるか。

「ぜ、絶対に嫌だ」

「どうしてよっ!?」

 こいつだけ帰って欲しい。本当に帰って欲しい。

「ソーメイ、ここに皆を集めたのは話があったから」

 おにぎりを丸呑みする大口。

 ベッドの上で怒鳴るメリー。

 そしてマイペースに話を始めるくだん。

 ……俺が言うのもなんだけど、こいつらに協調性はないのか。ないんだろうなあ。

「トンカラトンと言う都市伝説を知ってる?」

 くだんが俺たちを見回す。

 とんからとん? トンカラトン、ねえ。全く知らん。そんな間抜けな名前をした都市伝説があったのか。ちょっとびっくりだ。

 大口とメリーさんの様子を窺ってみると、こいつら完全に黙り込んでやがる。おい、お前らも一応同じトンデモな存在だろ。

「どうやらくだん以外は知らない様子。……トンカラトンとは全身に包帯を巻いて、自転車に乗った都市伝説」

「何よそれ。ふざけてるの?」

 まあ、確かにふざけたナリではあるよな。全身包帯って、ミイラ男がチャリ乗ってるだけじゃねえかよ。

「それだけではない。トンカラトンは『トン、トッン、トントン、トン、カラ、トン』と、歌いながら現れる。人に会えば『トンカラトンと言え』と強要し、従わない者には日本刀で切り掛かる。切られた者は、同じくトンカラトンになってしまう」

「じゃ、じゃあ、従えば良いんじゃ、ないの?」

「その通りだとくだんも思う」

 害、ないじゃん。身構えてたけど、案外ちょろい奴じゃねえか。

「でもさー、いきなしそんな人が出てきたらビックリしちゃってまともに答えられないかもよ? 私なら大丈夫だけど、ソーメン君は固まっちゃうんじゃないのかな?」

 う、悔しいが大口の言う通り。つーか、絶対警戒して黙り込むかさっさと逃げるだろう、常識的に考えて。

「で? くだんがそんな話を持ち出すって事は、実際に誰かが害とやらを受けてしまったのかしら?」

「一人、犠牲者が出ている」

 くだんは淡々とした口調で告げる。

 そう、か。やっぱりなのか。また、誰かが死んだのか。いや、感慨なんかない。死んだのはもうしゃあねえし、考えるべきなのは次が俺かどうかってところだ。俺じゃなきゃ、まあ、まだマシ。

「くだんはトンカラトンを追おうと思う。皆には気を付けてもらうよう言いに来た」

 そりゃ有難い話ではある。でも、メールすりゃ一発で済む話のような気もするが。

「え、えと、それ、だけの話の為に、ぼ、僕の家に集まったの……?」

「それだけとは随分な話だとくだんは思う。これは命に関わる重要な話」

 そんな睨まなくても良いじゃんよ。

「くだんはこれからトンカラトンの捜索に向かう」

「じゃ、あたしも付き合うわね」

 くだんに続き、メリーさんも立ち上がる。

「町の平和を乱す奴を放っておけないでしょ。トントンカラを見つけたらぶちのめす。で、良いのよね?」

「相違ない。このタイプの都市伝説は聞く耳を持たないと判断している」

 おいおい、やる気満々じゃん。

「皆が行くなら私も行こうかな。そのチンカラホイっての見てみたいし」

「承知した。二人に感謝を、三人なら効率も上がるだろうとくだんは予測する」

 えー、マジかよ。また俺だけ仲間外れってパターンじゃねえか。でも、わざわざ恐い思いしに行くのはなあ。第一、今昼だし。外明るいし。

「ソーメン君はお留守番だね」

「そうね、ニートは役に立ちそうにないし。あなたはそこで惰眠を貪っているのがお似合いよ」

 ぐっ、しかしその通り。俺みたいなのがノコノコ付いていっても邪魔にしかならない。でも、何か腹が立つ。俺を置いていくつもりなら中途半端に巻き込むなっつーの。少しでも事情を知っちまったのなら、気になるに決まってるじゃねえか。

「……ソーメイ、君はどうしたい?」

 問われて改めて考える。

 俺は、どうしたいんだ? 

 都市伝説の正体を、そいつの顛末を見届けたいのか? 

 くだんたちと一緒に行きたいのか?

「……こ、ここに残るよ」

「了解した。では、くだんたちは行ってくる」



 やっぱり、嫌なんだ。

 どうしても恐いんだ。

 多分俺は皆と一緒に外へ行きたかった。誰かと、何かをしてみたかったんだと思う。でも、それ以上に外へ出るのがきつい。夜中ならまだしも、陽が出てる真っ昼間からなんて無理だ。

「…………んん」

 メリーさんの言う通り、昼間っから惰眠を貪っていた俺の目が覚める。今は五時前、徐々に太陽が沈んでいくが、外はまだまだ明るい。

 あいつらはトンカラトンを見つけたのかな。いや、見つけたからなんだ。見つけてなかったらどうするってんだ。

 メールも、電話も来ていない。報告する事なんかないのか、俺なんかに伝える事なんてないのか。そのどっちか。いや現実を見ろ、確実に後者だろう。俺からメールでも送ろうかと思ったが、もしもくだんたちが抜き差しならない状況に陥ってたらとんでもない馬鹿野郎に成り下がる可能性も捨てきれないので我慢する。

 我慢するが、しかし我慢出来たのは五分にも満たない短い時間だった。とりあえず、メリーさんに掛けてみる。

『……あたしメリーさん、今郵便局の前……を、通り過ぎたところにいるの』

 あ、出た。

「トンカラトンは見つかったか?」

『まだよ。全然見つからないの。本当にそんなもの存在するのかしら』

 お前が言うな。

『それより、何か用でもあったのかしら?』

「いや、ない。ちょっと気になっただけだよ」

『最初からあたしたちと一緒に行けば良かったじゃない』

「それが出来たら引きこもりなんてやってないっつーの」

『威張って言うな』

 全くだ。

『……今から来れば?』

 ふと、メリーさんがそんな事を言い出した。

『陽も暮れてきたし、人もまばらになってきたしね。あなただって一日中部屋にいるのは退屈じゃないかしら? 少しくらいは外に出れば良いじゃない』

「うーん、どうしよっかなあ」

『三人で分かれて探してるから一人きりで退屈なのよ。あなたの冴えない顔と情けない声とつまらない話でも少しは退屈しのぎになるでしょう』

「……ま、そこまで言うなら」

『それじゃあ迎えに行くわ。十分も掛からないから、精々首でも洗って待っておきなさい』

 なんつー捨て台詞を吐きやがるんだ。まあ、これで溜飲も下がるってもんか。



 家族がまだ誰も帰っていない事を確認してから、俺は玄関に鍵を掛けた。

「はあ、疲れた。足痛いし腰痛いし、華奢なあたしにはこういうの向いていないのね」

 ……外で誰かと鉢合わせしなきゃ良いんだけど。

「え、駅前は避けようよ」

「ん、ええ、そうね。あなたって極度のへたれだから」

 一言多いわボケが。

「くだんは駅前、口裂け女は町中を探してるらしいから、あたしたちは郊外ね。……あ、また歩かなきゃいけないじゃない」

 メリーさんはがっくりと肩を落として、力なく塀に背を預ける。

「歩きたくない……」

 今更何を言ってんだよ、こいつは。

 いや、待てよ。歩かなくても良いじゃないか。

「あ、あのさ」

「何よ」

 何故俺が睨まれる。

「じ、自転車があるん、だけど」

 メリーさんは目をしばたかせていたが、言葉の意味を理解したらしい。きらきらと瞳を輝かせ、祈るように両手を組んだ。

「素晴らしいわ、あなた。さあ、それで行きましょう今すぐに」

 今すぐには無理だな。長い間乗ってなかったから空気を入れないと駄目だし、色々とメンテナンスが必要だろう。

 つーか、今の今まで忘れてたぞ。まあ、チャリ乗って遠出しようなんて思わなかったもんなあ。

「う、裏に置いてあるから」

 一年近くそのままだから、すっかり錆びてるかもしんない。

 メリーさんをその場に残して庭に戻り、倉庫の傍でみっともないオブジェと化していた自転車を見つける。いや、まあ、乗れない事はないな。空気入れは倉庫の中だし、汚れや蜘蛛の巣もすぐに掃除出来るだろ。

 さて、まずは何から始めようかな。



「遅い」

「え、えっ?」

 振り返ると、メリーさんが仁王立ちになって俺を睨んでいた。

「いつまで待たせるのよ。……あ、それがあなたの自転車? へえ、結構良いじゃないの」

 ついつい自転車をいじるのに熱が入ってしまったらしい。お陰でピッカピカになった。新品同様、つーのは褒め過ぎか。

「ヒッキーのくせにカジュアルでアウトドアでスポーティなアイテム持ってるなんて生意気ね」

 余計なお世話だ。

「急がなきゃ完全に陽が暮れちゃうわね。さ、行きましょう」

「う、うん」

 もうちょい色々やりたかったけど仕方ない。片付けをしてから自転車を表に出して、いよいよ出発。

 が、何故かメリーさんは自転車に乗ろうとしなかった。どうしたんだろうと彼女を見ると、すげえ睨まれてしまう。目付き悪過ぎだろこいつ。

「あのね、どうしてあなたが荷台に乗っているのかしら?」

「え、あ、だって、疲れるし」

「男でしょ。あなたが漕ぎなさい! あたしに漕がせろなんて言うつもりなの!?」

 俺の自転車使うんだからてめえがシャカリキに漕げよ。俺を運べよ。

「何よその目はっ!」

 メリーさんが手刀を放ったので、俺は自転車から降りて彼女の額に正拳突きを打ち込んでおいた。

「ぎゃあああ信じられない有り得ないぐらい痛いぃ!」

 あ、しまった、つい。

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