第29話:影との対峙
闇に包まれた異空間で、デミウルゴスたちはそれぞれ自分自身の“影”と対峙していた。
「……なんか、嫌な感じがするな」
リックは目の前の“もう一人の自分”を見据えながら拳を握る。黒い影のリックもまた、同じように拳を構え、わずかに口元を歪めている。
「影って言うより、まるで自分がもう一人いるみたいだな……」
アリシアが不安そうに杖を握りしめる。
「試練だとか言ってたが、つまり自分自身に勝てってことか」
ゼルクスが冷静に剣を構えた。黒いゼルクスもまた、同じように剣を構えている。
「へぇ……俺の影がどんな戦い方をするのか、ちょっと興味あるな」
デミウルゴスは余裕の笑みを浮かべながら、黒い自分を見つめた。
「試す必要はない。私は、お前の“本当の力”を知っている」
黒いデミウルゴスが口を開いた。
「ほう?俺の力を知ってるって?」
「お前は本気を出さない。怠惰に過ごし、すべてを面倒くさがる。そのくせ、自分の作った世界にはちょっとだけ興味を持っている……違うか?」
「……図星だな」
デミウルゴスは苦笑する。
「だからこそ、お前はここで敗れる。この影は、お前が本当に“向き合うべき自分”の姿だからだ」
「ふーん、つまり俺が本気を出さない限り、お前には勝てないってことか」
「その通りだ。さて、どこまで耐えられる?」
黒いデミウルゴスが手をかざすと、周囲の闇がうねり、一瞬で魔法陣が広がった。
「……なるほどな、こっちはいきなり本気か」
デミウルゴスは肩をすくめる。
「お前の“怠惰”は、ここでは通じない」
黒いデミウルゴスが詠唱を始めた瞬間、他の仲間たちの影も一斉に動き出した。
「チッ、こいつ……俺と同じ動きを……!」
リックが拳を放つと、黒いリックも同じ動きで迎え撃ち、拳と拳がぶつかり合う。衝撃が周囲に波紋を広げた。
「こいつ、完全に俺と同じ攻撃パターンを……!」
ゼルクスの剣と影の剣が何度もぶつかり合う。互角の速度と力で、まるで鏡のように反応してくる。
「ちょ、ちょっと!魔法までそっくりなの!?」
アリシアが光の魔法を放つと、影のアリシアもまったく同じ魔法を放ち、二つの光がぶつかり合ってかき消された。
「これは……かなり厄介ですね」
ノクスも影と渡り合いながら、苦々しい声を上げる。
一方、デミウルゴスは未だ動かず、黒い自分の攻撃をただ眺めていた。
「どうした?お前の本当の力を見せてみろ」
黒いデミウルゴスが再び手をかざすと、無数の魔法陣が浮かび上がる。そこから放たれた黒い雷がデミウルゴスに向かって一斉に襲いかかった。
「っと、これはちょっと危ねぇな」
デミウルゴスは指を軽く動かすと、雷が迫る直前で空間が歪み、雷が別の方向へと消えていった。
「ふむ、やっぱり俺の影ってだけあって、結構やるな」
「……やはり、お前はまだ手を抜いているな」
「まあな。だって、面倒くさいし」
「本当にそうか?」
黒いデミウルゴスが微笑むと、急に辺りの闇が強く渦巻き始めた。そして――
「なっ……!?」
ゼルクス、リック、アリシア、ノクスの影が一斉に動きを変え、今度はデミウルゴスに向かって攻撃を仕掛けてきた。
「おいおい、これはちょっと聞いてねぇぞ」
デミウルゴスは指を鳴らし、空間をねじ曲げて攻撃を逸らす。だが、影たちはまるでそれを読んでいたかのように軌道を変え、さらに襲いかかる。
「お前が本気を出さないのなら……お前の仲間たちごと、ここで終わらせる」
黒いデミウルゴスの冷たい声が響いた。
「クソッ、こいつら……本気で俺たちを殺す気か!」
リックが歯を食いしばりながら叫ぶ。
「お前は、仲間の命がかかっても、まだ怠けるつもりか?」
黒いデミウルゴスがそう言った瞬間、影のゼルクスの剣がアリシアの背後に迫る。
「アリシア!!」
ゼルクスが叫ぶが、間に合わない――
「――ったく、仕方ねぇな」
デミウルゴスがため息をつくと、次の瞬間、影たちの動きがピタリと止まった。
「……なに?」
黒いデミウルゴスが目を見開く。
「お前、さっき言ったよな。“俺は本気を出さない”って。でもな――」
デミウルゴスは片手を軽く上げる。
「――“本気を出せない”わけじゃねぇんだよ」
その瞬間、空間全体が大きく揺れた。デミウルゴスの足元から広がる魔力の波動が、まるで空間そのものを揺さぶるように広がる。
「な、なんだこれは……!?」
黒いデミウルゴスが驚愕の表情を浮かべる。
「確かに俺は面倒くさがりだし、できることなら楽して生きたい。でもな――」
デミウルゴスが指を軽く動かすと、影たちの姿が一瞬にして崩れ始める。
「――俺の大事なもんを傷つける奴は、さすがに放っておけねぇんだよ」
次の瞬間、影たちの姿が完全に消え去った。
「お、おい……今の、どうやったんだ?」
リックが驚いたように尋ねる。
「ちょっとだけ、力を使っただけさ」
デミウルゴスは気だるそうに笑う。
黒いデミウルゴスは、最後に小さく笑った。
「……やはり、お前は“創造主”だ」
その言葉を残し、黒いデミウルゴスも消え去った。
試練は――終わった。




