第28話:監視者の視線
町の奥へと進むデミウルゴスたち。市場の活気とは裏腹に、通りを歩く人々はどこか怯えた様子で、彼らの存在を警戒するように視線を送ってくる。
「いや~な空気だな。まるで獲物を狙う狩人が潜んでるみたいだぜ」
リックが腕を組みながら辺りを見回す。
「確かに。ただの田舎町にしては、不自然な緊張感がある」
ゼルクスが低い声で応じた。
アリシアは少し不安そうに言う。
「本当に何かに監視されているみたいです……でも、どこに“目”があるのか分かりません」
「そりゃあ、そう簡単には分からないだろうな。普通の監視じゃない、もっと厄介な類のものだろう」
ノクスが静かに推測する。
デミウルゴスは興味深げに町の建物を見上げながら言った。
「まあ、わざわざ俺たちを迎えてくれるってんなら、少しくらい付き合ってやるのも悪くないな」
「いや、だからなんでそんな余裕なんだよ……!」
リックが呆れたように肩をすくめる。
「大体、そんな“監視者”とやらが本当にいるなら、どこかで俺たちを見張ってるはずだ。だったらさ――」
デミウルゴスはふと立ち止まり、笑みを浮かべながら声を上げた。
「――おい、そこにいるんだろ?隠れてないで、さっさと出てこいよ!」
一瞬、町全体が静寂に包まれた。
「……なっ!?ちょっと待て、いきなり挑発するなって!」
リックが慌ててデミウルゴスを止めようとする。
しかし、次の瞬間――
「……ふふ、面白いお方ですね」
どこからともなく聞こえてくる声。男女の区別がつかない不思議な響きだった。
「お前が“監視者”ってやつか?」
デミウルゴスが辺りを見回しながら尋ねる。
「ふふ、そう呼ばれることもありますね。しかし、私の本来の役目は“観察者”……あなた方がこの町に来ることは、予見されていました」
声はまるで風に乗るように四方から響き、実体の所在が掴めない。
「へぇ、俺たちが来るのを知ってたってわけか。じゃあ、歓迎の準備はできてるんだろ?」
デミウルゴスは余裕の笑みを浮かべたまま言った。
「ええ、もちろん。ただし、あなた方が“資格”を持つ者かどうか、それを確かめさせていただきます」
次の瞬間、町の建物の影から黒いフードを被った数人の人影が現れた。
「……やっぱりな。こういう展開か」
ゼルクスが剣に手をかける。
「おいおい、話し合いとかじゃなくて、いきなり戦闘かよ?」
リックがため息をつく。
「戦う必要があるなら、仕方ないですね……」
アリシアが杖を構える。
フードの男たちの一人が、静かに手をかざした。その瞬間、空気が震え、彼らの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「……強制転移魔法!?これは――!」
ノクスが驚きの声を上げる。
「おいおい、どこに連れてくつもりだ?」
デミウルゴスが微笑みながら尋ねる。
「あなた方の“適性”を試す場所へ……ふふ、それでは、ごきげんよう」
次の瞬間――視界が一瞬、白く染まる。
試練の空間
気がつくと、デミウルゴスたちは奇妙な空間にいた。広大な闇の中に、無数の石畳が浮かんでおり、そこに立つ彼らの姿だけがはっきりと見える。
「……また厄介な場所に飛ばされたな」
ゼルクスが慎重に辺りを見回す。
「これ、現実の空間じゃないな。異空間か?」
リックが地面を軽く蹴りながら言う。
「ええ、これは“試練の領域”……この空間に入った者は、ここで試されるのです」
再び、あの声が響いた。
「試されるって……何を?」
アリシアが警戒しながら尋ねる。
「“目”の力を受け入れるにふさわしいかどうか。あなた方の意志、力、そして存在そのものを試させていただきます」
その瞬間、闇の中から黒い人影が現れた。
「なっ……!?俺たちそっくり……!?」
リックが驚きの声を上げる。
デミウルゴスたちの前に現れたのは、彼ら自身の影のような存在だった。漆黒の身体に、自分たちと同じ装備を纏い、まるで鏡写しのように立っている。
「へぇ……自分自身と戦えってか?面白いじゃねぇか」
デミウルゴスがニヤリと笑う。
「自分の影と戦う……これは厄介ですね」
ゼルクスが剣を抜く。
「やるしかないんだろ?なら、やるさ!」
リックが拳を握る。
「……負けません!」
アリシアが魔力を込めた。
黒い影たちは、何も言わずに構えをとった。そして――
「試練、開始です」
声が響くと同時に、黒い影たちが襲いかかってきた。
デミウルゴスたちは、それぞれの“影”と対峙する。
「さあ、どっちが本物か、試してみようぜ!」
闇の中で、戦いが始まった――。




