第19話:遺跡の入り口
険しい山道を進むデミウルゴスたちは、ついに山頂に近づいていた。目の前には巨大な岩壁が立ちはだかり、その中央に古代文字が刻まれた遺跡の入り口が見える。
「これが……遺跡か」
アリシアが息を呑んでつぶやく。
「随分と大げさな造りだな。俺が設計した覚えはないんだけどな」
デミウルゴスは眉をひそめながら入り口を眺める。
ゼルクスが冷静に説明する。
「この遺跡は、おそらくローブの男たちが自分たちの目的のために魔改造したものだろう。元々は自然のエネルギーを蓄える施設だったが、今は完全に歪んでいる」
「魔改造ね……手を入れる暇があるなら、もっと他のことをやればいいのに」
デミウルゴスはため息をつきながら遺跡の入り口に向かう。
リックが剣を抜いて警戒する。
「おい、何か出てきてもおかしくないぞ。妙な気配がする」
ノクスが羽ばたきながら報告する。
「主様、遺跡内部から強い魔力の反応があります。恐らく罠も仕掛けられているでしょう」
「罠ね。まあ、どんなのが出てくるのか楽しみにしてるよ」
デミウルゴスは軽口を叩きながら、遺跡の門に手をかざした。
突然、遺跡の門が重々しく音を立てて開いた。そこから冷たい風が吹き出し、薄暗い内部が露わになる。
「入るのか?」
リックが慎重に尋ねると、デミウルゴスは肩をすくめる。
「入らなきゃ話が進まないだろ。心配するな、死なない程度に守ってやるからさ」
「死なない程度って……不安になるな!」
リックがぼやくが、デミウルゴスは無視して先に進む。
遺跡の中は、壁一面に古代の文字と魔法陣が描かれており、微かに光を放っている。アリシアがその光を見てつぶやく。
「すごく綺麗だけど……不気味ですね」
「綺麗なものほど危険って相場が決まってるんだよ。気をつけろよ」
デミウルゴスが警告したその瞬間、床から突如として無数の棘が飛び出した。
「危ない!」
ゼルクスがリックとアリシアを引き寄せ、棘を避ける。
「おいおい、いきなり殺しにかかってくるなんて、随分と手荒だな」
デミウルゴスは指を鳴らし、周囲に防御の結界を張った。棘が結界に弾かれて地面に崩れ落ちる。
リックが息をつきながら言う。
「一歩間違えたら串刺しだぞ……こんな罠がまだまだあるのか?」
ゼルクスが鋭い声で答える。
「当然だ。これはただの序章に過ぎない。奥へ進むほど、彼らの仕掛けた罠は強力になっていくだろう」
「いいじゃないか。その分、こっちも楽しめるってもんだ」
デミウルゴスは笑いながらさらに奥へと歩を進めた。
やがて一行は広い部屋にたどり着いた。部屋の中央には巨大な魔法陣が描かれており、その周囲には黒い炎がゆらゆらと燃えている。
「これは……転移の魔法陣だな」
デミウルゴスが真剣な表情で魔法陣を調べ始める。
「転移?ここからどこかに繋がってるってことか?」
リックが不安げに尋ねると、ゼルクスが頷いた。
「その通りだ。この魔法陣はローブの男たちが別の拠点と繋ぐために使っているものだろう。これを破壊すれば、彼らの動きを一時的に封じることができるはずだ」
「破壊するって簡単に言うけど、どうやるんだよ」
リックが不安を口にすると、デミウルゴスが軽く笑った。
「まあ、俺がどうにかするさ。ただし、この魔法陣を守ってる仕掛けがありそうだな」
その言葉通り、部屋の四隅から機械のような音が響き、四体の魔法兵が現れた。
「出たな。やっぱり守りがあるか」
デミウルゴスは構えを取りながら指示を出す。
「お前ら、こいつらを引きつけてろ。俺が魔法陣を破壊する」
「任せろ!」
リックが剣を抜いて叫び、魔法兵の一体に突進した。
アリシアは後方から矢を放ち、魔法兵の動きを封じる。「動きは遅いけど硬いですね!」
「時間を稼いでくれればそれでいい!」
デミウルゴスは魔法陣の中央に立ち、周囲の魔力を吸収しながら破壊の準備を始めた。
ゼルクスが魔法兵の一体を斬り伏せながら言う。
「気をつけろ。奴らは倒しても再生する仕組みだ。長く戦うのは得策ではない」
「分かってるよ!だから早く終わらせるんだ!」
デミウルゴスが叫び、魔法陣を光で包み込んだ。その光が増すと同時に、魔法兵の動きが次第に鈍くなり、ついには完全に停止した。
「やったか?」
リックが剣を下ろして尋ねると、デミウルゴスが大きく息をつきながら答えた。
「終わったよ。これで奴らの転移装置は使えなくなったはずだ」
魔法陣が崩れ去り、部屋に静寂が戻った。その時、崩れた魔法陣の下から一冊の古い本が現れた。
「これは……?」
アリシアが拾い上げると、ゼルクスが近づいて調べ始める。
「彼らの計画が書かれている可能性がある。これを解読すれば、次の動きが分かるだろう」
「じゃあ、それを解読するのはお前の仕事だな」
デミウルゴスはゼルクスに本を渡し、先を促した。「さっさと次の目的地を見つけようぜ」
「了解した。この本を持って次の準備を進めよう」
ゼルクスは頷き、一行は遺跡を後にした。
デミウルゴスはため息をつきながら呟いた。「本当に次から次へと面倒なことばかりだな……」