第16話:敵か味方か
荒野の戦いが終わり、封印が完了した後、一行の前に現れた謎の男ゼルクスは静かに微笑んでいた。
デミウルゴスはその表情をじっと見つめ、淡々と口を開く。
「で、あんたは何者だって?秩序を守る?そんなきれいごとを言う奴が、俺たちを追いかけてくる理由なんてあるのか?」
ゼルクスは微笑みを崩さずに答える。
「君が疑うのも当然だ。だが、私は本気でこの世界を守ろうとしている。君のような創造主が無責任に残した問題の数々を片付けるためにな」
リックが苛立ったように口を挟む。
「おい、無責任とか勝手に言うなよ。デミウルゴス様はちゃんと動いてるだろうが!」
「それは事実だ。私も見ていた。君たちがベリオスを封印したその技量には感心した。だが、創造主自身が自分の残した混乱を片付けるのは、当然の責任だろう?」
ゼルクスは鋭い目でデミウルゴスを見据えた。
デミウルゴスは小さく肩をすくめる。
「まあ、言われてみれば正論だな。でもな、俺はお前みたいに秩序だの責任だのを大層な言葉で語る気はないんだよ。ただ面倒ごとが嫌いだから片付けてるだけだ」
アリシアがデミウルゴスの横で小声で尋ねる。
「デミウルゴス様、この人、信用してもいいんですか?」
「さあな。まだ分からん。下手に信用して背中を刺されるのはごめんだからな」
ゼルクスは一歩前に進み、低く落ち着いた声で言う。「疑う気持ちは当然だ。しかし、私はローブの男――この世界を混乱に陥れようとしている存在を追っている。その目的は君たちと一致しているはずだ。協力すれば、より早く事態を収束できる」
ノクスが翼を揺らしながら冷静に言葉を挟む。
「主様、彼の魔力には邪悪な気配は感じられません。しかし、隠していることがあるのは確かです」
デミウルゴスはノクスの言葉に軽く頷き、ゼルクスに向き直る。
「なあ、ゼルクス。隠し事があるって言われてるけど、それについて何か弁解はあるか?」
「隠し事と聞こえるかもしれないが、今はまだ全てを話す段階ではない。それでも信じてもらえないなら、私の力を見せよう」
ゼルクスはそう言うと、片手を上げて空間に魔法陣を描いた。すると、その場に巨大な光の矢が出現し、荒野の一角に隠れていた小型の魔物を一瞬で消し去った。
「どうだ、創造主よ。この力があれば、ローブの男を追い詰めるのに役立つはずだ」
リックが驚きの声を上げる。
「すげえ……なんだあの威力」
「まあまあだな」デミウルゴスは軽く笑いながら答える。
「だが、力があるからって信用するのは早計だ。力はあっても、それをどう使うかが問題なんだよ」
ゼルクスはその言葉に満足げに頷く。
「良い返答だ。では、私が信用に値するかどうか、これからの行動で証明しよう」
アリシアが不安げに尋ねる。
「デミウルゴス様、どうするんですか?協力するんですか?」
デミウルゴスは少し考えた後、答えた。
「協力するかはまだ決めない。ただ、あいつが俺たちを裏切るなら、その時は俺が片付ける。それだけだ」
ゼルクスは微笑を浮かべたまま一礼する。
「その判断に感謝する。では次の行動に移ろう。この近くにローブの男の手がかりがあるかもしれない場所を知っている」
「案内しろ。ただし、俺たちが先に行く。何かあればすぐお前を疑うぞ」デミウルゴスは冷ややかに言い放った。
「承知した」ゼルクスはそれ以上言わず、静かに一行の後ろに並んだ。
こうして、デミウルゴスたちはゼルクスという謎の協力者を得たまま、新たな目的地へと向かうことになった。彼の真意が何であるか、まだ誰にも分からないまま。