第1話:創造主、地上に降臨する
天界は、どこまでも白く、どこまでも広がる無限の世界だ。神々が暮らす宮殿は荘厳で静謐。しかし、その片隅には、一際異彩を放つ存在――創造主デミウルゴスがいた。
彼は大理石の床に寝そべり、手にしたリンゴを気だるげにかじっている。創造主という肩書きに反して、その姿には威厳の欠片もない。
「なあ、何で俺がこんなに暇なんだろうな」
独り言を呟きながら、天井を見上げる。
そこへ、雷鳴のような声が響き渡った。
「デミウルゴス!」
神々の頂点に君臨する最高神ゼノスが現れる。その姿は眩い光に包まれ、怒りに満ちた目がデミウルゴスを射抜く。
「お前、何をしている!?」
「何って、見ればわかるだろ?ぼーっとしてる」
デミウルゴスは半分だけかじったリンゴを放り投げ、欠伸をかみ殺す。
「貴様、このところ下界の管理を全くしていないではないか!お前が創った世界は、混乱に満ちているのだぞ!」
「まあ、そうかもしれないな。でも、管理って言ったって、俺が干渉すると住人たちが自由にやれないだろ?めんどくさいし、彼らに好きにやらせてる方がいいんだよ」
この無責任な態度に、ゼノスの怒りは頂点に達した。
「無責任なことを!お前が作った世界だ!責任を持つのが創造主の役目だろう!」
「いやいや、作った後のことまで俺がやらなきゃいけないってのは、おかしいだろ」
「ならば、その目で直接見てこい!」
ゼノスが怒りの形相で手を振り上げると、デミウルゴスの足元が突然輝き始める。
「ちょ、待てって!そんな乱暴な――」
彼の抗議も虚しく、床が崩れ落ち、デミウルゴスの体が吸い込まれるように下界へと落ちていった。
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デミウルゴスが目を覚ましたのは、青空の下。柔らかな草の感触と、そよ風の匂いが彼の感覚を包む。
「ここ……俺が作った世界か?」
見渡すと、目の前には小さな田舎村が広がっている。古びた石造りの家々、煙突から立ち上る煙、一面に広がる黄金色の麦畑――どこか懐かしい風景だった。
「なんだ、結構いい感じにできてるじゃん。俺、案外やるな」
自分の作品を褒めつつ、デミウルゴスは起き上がる。
すると、近くで麦を抱えた赤毛の少女が駆け寄ってきた。
「お兄さん、大丈夫?空から降ってきたみたいだけど!」
「いや、ちょっと転んだだけだ。気にするな」
そう言って立ち上がろうとするが、力を封じられた影響か、いつものように簡単には動けない。
「すごい怪我してる!うちの村においでよ、村長さんに相談すれば、きっと助けてくれるから!」
少女に引っ張られるまま、デミウルゴスは村の中へと連れて行かれる。
「めんどくさいな……」
そう呟きつつも、どこか嫌な気分ではなかった。
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こうして、創造主デミウルゴスの「のんびりしたいのにトラブル続き」の下界生活が始まるのだった――。
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