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第9話『……愛、ですか』

私は殿下との茶会で、闇神教の真実を知り、闇神教を止めるべくまずは歴史について調べ始めた。


そして我が家に眠る古い書籍と殿下からお借りした古い資料に目を通していたのだが……。


「これは……恐ろしいものを送って下さいましたわね。殿下は」


「殿下? 何かあったのですか? あ! 分かりました! 恋文ですね!」


ニコニコと頭の中にはきっとお花畑しか入っていないであろうお姉様の的外れな推理を聞いて、私は曖昧に笑いながら頷いた。


「そうですわね。驚くような恋文ですわ」


「キャー!」


本当に、殿下の笑顔が透けて見えるかの様だ。


王家の秘密を知ってしまった以上、王家に嫁ぐしかないぞ。と言われている様でもある。


面倒な……。


「それで!? それで、イザベラちゃんはなんてお返事をするのですか!? 当然答えはイエスだと思うんですけど!!」


「少し落ち着いて下さい。お姉様。どの様な事にも冷静に考える時間が必要です」


「あっ、そ、そうですよね」


「はい」


珍しく、フラーお姉様が大人しく引いた事を珍しいなと思いながら、私は再び思考の海に飛び込んだ。




かつて闇が世界を支配していた時代、人々は光を求めて、深い森の奥に住まう魔法使いの王女を奪い取った。


しかし王女は人を拒絶し、自らを光る剣に変えて地面に突き刺さり、世界を光に包んでいった。


この聖剣は誰にも抜く事が出来ず、それ以降はその場所を人々が整地と呼ぶようになり、製国が生まれた。




「……アルマの伝説は全て、人々が作り上げた架空の伝承という事ですわね。自らの罪を隠すために」


とんでもない話だ。


ヴェルクモント王国の秘密なんて物じゃない。


世界がひっくり返る様な秘密だ。


もしこの秘密が世界に明かされてしまえば、アメリア様を信仰する人々は世界中のあらゆる場所で反乱を起こすかもしれない。


そして、この秘密は闇神教の者達も当然知っており、それを世界中に明かす為に証拠を集めているという状況か。


無論それだけでなく、闇の神を復活させる為に非道な事も行っている。


だから私はこの二つを止め、世界に大きな争いが起こらない様にしなければいけないのだが。


調べている途中で別の火種を見つけてしまい、思わず頭を抱えてしまうのだった。




そう。


聖剣となった王女様だが、それから数百年後、聖剣となった王女を助けてしまった者がいたのだ。


それは今も伝説の存在として名前を残している方、シャーラペトラ様……なのだが。


これは聞いていない。


私は、時の流れを感じさせない本の表紙を撫でながら、そこに書かれた文字を解読する。


『シャーラペトラ・イービルサイド~愛の日記~』


うーん。


思わず頭を抱えてしまいそうになる。


「どうかしましたか? イザベラちゃん」


「いえ。少々頭の痛い事案がありまして」


「あっ! そ、そうですよね。でも大丈夫です。これでもお姉様はドレスには詳しいですからね」


「え? あぁ、まぁありがとうございます」


「お姉様に任せて下さい!」


何だかよく分からないが、気合を入れているお姉様から視線を逸らしつつ、私は再び書籍に視線を向けた。


このシャーラペトラ・イービルサイドなる人物は、とても愛らしい容姿で、精霊たちに愛され、精霊に魔術を使って貰いながら生きていた人物らしい。


正直、お姉様とそっくりだ。


かつてのお姉様も、シャーラペトラ様と同じ様に精霊に好かれ、誰と契約するかという話し合いが行われたらしい。


それから何日も話し合いという名の精霊戦争が行われ、何とか二体で落ち着いたのだとお母様が言っていた。


精霊契約というシステムをシャーラペトラ様が作り出していなければ、お姉様もシャーラペトラ様と同じ様に、精霊に魔術を使ってもらう伝説に残る少女となっていたかもしれない。


そして、イービルサイド家の男に恋をして、押し掛け結婚し、子を成してから亡くなったとか。


亡くなった理由は、まぁよくある話ではあるが、力を持ち過ぎたせいだ。


精霊と話をし、その力を借りて世界の在り方すら変えてしまう強大な力。


それを求めた結果、シャーラペトラ様は殺された。


「でも、父と子は残り、今に繋がる……か」


日記に残されているシャーラペトラ様の日々はどれも幸せに満ちていて、本当に普通の女の子だったのだという事がよく分かる。


そして、シャーラペトラ様と結ばれたイービルサイド家の領主アーチーがこの日記を奥深くに隠した理由もよく、分かる。


「……愛、ですか」


椅子にもたれかかり、暗い部屋の中で天井を見上げながら私は一人呟いた。


「イザベラちゃん?」


「あー。そういえば、フラーお姉様はいつお義兄様とご結婚されるのですか?」


「え!?」


「何を驚いているのですか」


「いえ、その……ウィル様が私を選んで下さるか分からなくて、その……」


お姉様は頬を両手で押さえながら、キョロキョロと視線を顔ごとさ迷わせる。


その様子は大変可愛らしいが、オロオロしているばかりでは何も進むまい。


ここはしっかり者の妹として、お姉様の恋愛を後押しするか。


「お姉様。私が見る限り、ウィル様はフラーお姉様一筋です。フラーお姉様しか見えていません」


「そ、そうでしょうか?」


「えぇ。えぇ。間違いありません。ですから、フラーお姉様。結婚して下さい」


「えぇぇえええ!?」


「何を驚いているんですか。実はウィル様とご結婚する気は無かったのですか? 他の男性が良いと」


「その様な事はありません!! 私はウィル様と共に生きてゆきたいです!」


「であれば、結婚しか無いでしょう。ウィル様を繋ぎとめておかねば怖いですよ? あの方は非常に人気がありますからね」


「は、はわ、はわわ」


お姉様は動揺し、謎の声を上げているが、良い調子だ。


困惑しつつも、瞳には勇気の炎が燃えている。


そして、お姉様は震える両手を握りしめて、ウィル様に自分の意思を知らせるべく準備を始めるのだった。




翌日。


お姉様は早速ウィル様を茶会に招待した。


いきなりのお誘いだというのに、ウィル様はいつもと変わらない笑顔でフラーお姉様の正体を受け、茶会の席に来る。


そして、テーブルの上に飾られたフラーの花を見て、目を見開くのだった。


そう。実にお姉様らしい愛の伝え方だと思うが、これはお姉様の愛読書である『シャーラの恋物語』に出てくる一つのシーンを再現しているのだ。


シャーラの恋物語に出てくる主人公シャーラは、自分が身分も分からぬ子である為、貴族であるアーチーにその想いを言葉で伝える事が出来ず、自らの名と同じ花をアーチーに手渡して、貴方のお傍に置いて下さいと願うのだ。


アーチーは素晴らしく察しが良い男である為に、シャーラへの想いを理解し、自分もずっと同じ気持ちだったとシャーラを抱きしめる話なのだが。


まぁ、今現在目の前でも同じ事が行われている。


「フラー!! 僕も同じ気持ちだ! 嬉しいよ!」


「ほ、本当ですか!? ウィル様」


「あぁ。この時をどれだけ待ちわびた事か! 式はすぐにでも挙げよう! 盛大にね! 君のやりたい事は全部やろう!」


「ま、まぁ……夢じゃないかしら」


「もしかしたら夢かもしれないね」


「えぇ!? そんな、悲しいです」


「いや、悲しい事なんて何もないよ!」


「え?」


「だって、この夢は決して終わらない夢だからさ!」


「ウィル様!」


あーあー。


もう見ていられない。


ウィル様はこれからイービルサイド家に来る訳だが、当分はこんな甘い時間が続く事だろう。


食事は甘みを少な目にして貰う様に頼んでおこうかな。

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