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第8話『『エースブ』という名に心当たりはありますか?』

私と殿下だけが遺され、正面から向き合いながら語る言葉は戦場で飛び交う魔術と然程変わらない。


殿下が敗北すれば、婚約者が聖女となったが逃げられてしまったという汚名が残り。


私が敗北すれば、聖女としての役割ではなく王族の一員としての役割を果たす必要が出てくる。


どちらも敗者に待っているのは死だ。


とは言っても、私も殿下も敗北した後もそれなりに満足の人生が待っているとは思うが。


「僕はね。君と出会った日の事を今でもよく覚えているんだ」


「まぁ、それなりに衝撃的な出会いでしたからね。飛行魔術の実験中に魔力不足で落下し、王太子殿下の前に落ちてくるなど、過去にも未来にも私くらいなモノです」


「ふふ。そうだね。お茶会よりもパーティーよりも魔術の実験が大事だという君は僕の中で初めての女の子だったよ」


「珍しい生き物が気になるのは分かります」


「可愛い女の子ってハッキリ言った方が良いのかな? イザベラは」


「可愛い方が好みという事でしたら、紹介しましょうか? 容姿も所作も性格も。殿方からは見えにくいですが確かな可愛さを持った方なら何人か存じておりますわ」


「僕は君が欲しいんだよ。イザベラ」


くっ、手ごわい。


笑顔のままこちらの攻撃を全ていなして、大魔術の様な攻撃を放ってくる。


イチイチ格好いいのは何とかなりませんか、殿下!


私だって、一応恋に憧れが無いわけでは無いんですよ!!


「申し訳ございませんが、私は殿下の妻として殿下を支える以上にやりたい事があるのです」


「聖女のお役目だろう? 僕は反対しないよ。無論、聖女アメリアや聖女オリヴィアの様に力を使い過ぎない様に監視はするけどね」


「……ご存知だったのですか」


何を、とは言わない。


この言葉が示す意味は一つしか無いからだ。


「あぁ。無論だ。君に関係する事だからね。調べたよ」


「そうですか」


殿下は椅子に深く座りながら、両手を組んだ。


「悲しいね。この世界は。良い人から順に命を落としてゆく様に見える」


「そうですね」


「だから僕は……君がその一人になって欲しくは無いんだ」


「……」


「イザベラ」


殿下の言いたいことは分かる。


私だってオリヴィアお姉様が亡くなるのは寂しい。悲しい。


少しでもその未来を遠くにしようとはしているが、研究は上手く進んでいなかった。


「例えば、君が……魔術の天才である君が、癒しの魔術で使用者の命を削らない様にする、とか」


「殿下」


「……」


「癒しの魔術は通常の魔術とは明らかに違います。この魔術は私の手に負える物ではありません」


「そうか」


「もし、この魔術を変える事が出来るとすれば……アメリア様と同じ『魔法』の使い手だけです」


私の言葉に殿下はやや落ち込んでから、ハッとなり顔を上げた。


その表情の意味が分からず、私は首を傾げる。


「イザベラ。今のは僕の聞き間違いかな」


「何がでしょうか」


「聖女アメリアが、魔法使いだったという様に聞こえたのだけれど」


「えぇ。その様に言いました。癒しの魔術は通常の魔術の領域を大きく超えています。寿命を対価としなければいけないのもそれが原因でしょう」


「……」


「これはおそらくアメリア様が癒しの魔術をオリヴィアお姉様に託した際に、人間でも力が使える様にと無理矢理変換した事が原因かと思います。解決するのであれば、アメリア様と同じ様に魔法を使い、根底を変える必要があります」


殿下はその言葉を聞いて、天を仰いだ。


まるで神に祈る様に目を閉じる。


「イザベラ。一つ答えてくれ」


「はい」


「今の話は誰かに話したか?」


「いえ。オリヴィアお姉様を含め、誰にも話してません。殿下だけです」


「そう、か。まったく喜べば良いのか、悲しめばいいのか分からんな」


「……はぁ」


殿下は笑みを浮かべたまま再び顔を降ろして私を見ると、続きの言葉を紡いだ。


「実はな。最近妙な連中が動いているんだ」


「妙な連中……ですか?」


「そうだ。どういう連中かは分からないのだが、聖女アメリアは人間に利用されていると、騒いでいるらしい」


「……」


「聖女という存在を大事にするあまりそう訴えているのかと思ったが、イザベラの話を聞いていると別の可能性が生まれてくると思わないか?」


「つまり、殿下の言う妙な連中というのは、過去に人類が戦った魔法使いの生き残りであると?」


「あぁ」


あり得ない。とは言えない。


何故なら人は世界の全てを支配している訳では無いからだ。


人間がいくら魔法使いは全て滅ぼしたと言っても、逃れる事の出来た魔法使いもそれなりに居るだろう。


ならば、その魔法使いたちが、アメリア様という仲間の事を想って立ち上がった?


「確かに……可能性としてはありますね」


私は静かに頷きながら言葉を返した。


そして殿下もまた同じ様に神妙な顔で頷く。


「しかし、当然ながら世界各国はこの連中の言う事を信じてはいない。王族も貴族も平民も、だ」


「でも、もしアメリア様が魔法使いだったという情報が流れれば大混乱が起こる可能性もある。という事ですね?」


「そういう事だ。そこで君が見つけた情報を教えてもらいたいのだが……」


「それは構いませんが、だいぶ古い資料ですよ?」


「あぁ。問題ない。それらの資料を封印する。そして同じような記載がある物も全てな」


「はい。それがよろしいかと存じます」


私はこの茶会の後で資料を殿下に届けると約束してからお茶を飲んだ。


緊張ですっかり喉が渇いている。


自分で考えていたよりも緊張していた様だ。


まぁ、それもそうだろう。


ルークさんとオリヴィアお姉様の話から、こんな話に繋がっているなんて思ってもみなかったのだ。


……?


いや、待てよ?


何か引っかかる。


「殿下。ご存知でしたら教えていただきたいのですが」


「何かな?」


「『エースブ』という名に心当たりはありますか?」


「……」


「殿下?」


驚いた顔で固まっている殿下を見て、私は疑問をそのまま口にだした。


そして、そんな私に殿下は困ったような笑いを零しながら、真実を語る。


「そうか。君はもうそんな所まで真実を見つけたのか」


「……」


「エースブとは、聖女オリヴィア、勇者ルーク、騎士レオン、魔術師ソフィアが討ち取った魔王の名だ」


「っ!」


これで全てが繋がった。


そういう意味だったのか。


ならば闇神教の目的は……。


「だが、この名前は封印された物なのだ。魔王とは名を得る事でこの世界に存在し続ける事が出来るからと」


「それで……オリヴィアお姉様たちは自らの功績を隠されたのですね」


「そういう事だ。そして我らはその気高い意思を尊重し、彼らの名を隠した」


「そうでしたか」


「口止めはされていたがな。聖女となる君はむしろ知っておいた方が良いだろう」


「えぇ。ありがとうございます」


「いや、礼には及ばない」


私は殿下に微笑みながら、頭の中でこれからの事について考え始めた。


かの闇神教は止めなくてはいけないと。




「では仕事の話はこれくらいにして……」


「……?」


「イザベラ。私と結婚してくれ」


「もっと良い方が殿下には居ますわ」


お姉様の様に微笑みながら殿下の言葉を最後までかわして、お茶会は終了するのだった。

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