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第6話『人はまだ生きていますわ』

私とルークさんはモルガンさんに案内されるまま闇神教の建物を順に見て歩く。


「ところでお二人は闇神教に興味があるとの事でしたが、どの程度闇神教についてご存知なのでしょうか」


「えー、それはですね」


ルークさんが早速ボロを出しそうになっていた為、ていっと背中を突いてから、代わりに話をする。


「私は若輩者である為、そこまで多くは知りませんが……かつて魔の森には闇の神と呼ばれる存在が居た事は知っております。そして闇の神の御声を届ける王がいたことも。確か女性の方でしたよね?」


「おぉ……そこまでご存知だとは。素晴らしい」


「この程度は常識ですわ」


「いえいえ。その様な事は。愚かなる者たちは誰のお陰で世界が今も存在しているのか知ろうともしません。まぁ、知ろうともしないからこそ愚かななのかもしれませんが」


「そうですわね」


僅かに、怒りか憎しみか、分からないが負の感情を零したモルガンさんにルークさんが警戒する。


だが、まぁ、神を崇めている以上その紙を侮辱されれば怒りの感情くらいは生まれるだろう。


まだ何もおかしな事はない。


「その点、聖女イザベラ様は大変聡明だ。どうでしょう? 闇神教へ入信しませんか? 聖女であるイザベラ様が入信されれば、信者たちもより安心される事でしょう」


「……考えておきますわ」


「是非とも」


「ただ、私の場合家の問題がありまして、良い返事を出来ない場合もございます」


「家の問題、ですか?」


「えぇ。私の両親は貴族、そして私も姉も貴族ですからね。特定の宗教だけを信仰すると私達を頼りにしている者たちが不安になるでしょう? 自分達は別の神を信仰しているが、貴族は自分たちを排斥しないか! と。ですから、皆さんを安心させる為にも神は信仰していないと表明する必要がありますわ」


「……なるほど、流石はイザベラ様。そこまでお考えとは」


「えぇ。私は貴族であり聖女ですからね。多くの方が心穏やかに生きてゆく事が出来る世界を望んでおりますわ」


ふわりふわりと上手く言葉をかわしながら私は微笑んだ。


まぁ、聖女という名や、イービルサイドという貴族家の名はそれなりに利用価値がある。


取り込む事が出来れば勢力を拡大出来るというのは誰でも考える様な事だろう。


故に私は未だ警戒し続けているルークさんに微笑んだまま首を振った。


「残念ではありますが、イザベラ様はまだ闇の精霊の力に目覚めてはいませんからね」


「まだ……というのは、どういう事でしょうか?」


「あぁ、そちらの方がご存知ありませんでしたか」


モルガンさんは穏やかに微笑むと、闇の精霊についての話を始める。


「そもそも闇の精霊と契約する事が出来るのは生まれてから数年経った後なのですよ」


「……そうなのですか?」


「えぇ。無論生まれてすぐに目覚める方も居るでしょうが、多くの魔術師がある程度成長してから闇の魔力を使える様になっています」


「なるほど」


「おそらく、子供の内は強大な闇の魔力を操る事が出来ず、自分を傷つけてしまうからかと思いますが……人によっては大人になってから得る事もあるらしく、詳細なよく分からないというのが実情ですね」


ふむ。と私はかつて読んだ文献を思い出しながら、モルガンさんの話を飲み込んだ。


おそらくモルガンさんの言っている事は正しい。


その上で、何故闇の精霊だけが後々に芽生えるのか。それが不思議ではあった。


「ふふ。イザベラ様も同じ疑問に至った様ですね」


「そうですね。精霊との契約が闇の精霊だけタイミングが違うというのは気になります」


「実はですね。我々は一つの仮説を立てているのです」


「それは?」


「闇の精霊と契約する為には心に闇を持たねばならない」


「……心に闇」


私は穏やかに微笑むオリヴィアお姉様を思い出し、まさかと首を振った。


だってあり得ない。


もし本当にそれが真実だというのなら、オリヴィアお姉様は……。


「そう闇です。闇の神を受け入れる為には、絶望を知らねばなりません。この世界の真実を知り絶望した者。その者だけが闇の神の信徒となる事が出来る」


「……」


「人は遥かな太古からこの世界に存在していました。しかし、彼らは皆光を求めるばかりで闇を受け入れなかった。それゆえに彼らは滅びの道を進んだ」


「人はまだ生きていますわ」


「えぇ。勿論。それはそうでしょうとも。しかし、過去にどれだけの国があったかイザベラ様はご存知ですか? そして、それらの国が今どうなっているのか」


私の頭に浮かぶのは世界の歴史書だ。


確かにモルガンさんの言う通り、今この世界に存在している国の殆どは近代生まれた国ばかり、それ以前の国はどこも衰退し、滅びるのは時間の問題であった。


しかし、それは人の生活様式が変わり、それを受け入れられなかった国が滅びているだけの事。


光や闇などは関係ない。


だが、自信満々で語るモルガンさんに何か異様な物を感じるのも確かだった。


「しかし、闇の神は慈悲深い存在です。その証拠に人間がかの偉大なる王を奪い、姿を消してからも、こうして精霊として戻ってきているのですから」


「……」


「一つ聞いても良いかな。モルガンさん」


「なんでしょうか。『勇者』ルークさん」


「闇の神に貴方は会った事がありますか?」


「えぇ」


「そうですか」


ルークさんはそのよく分からない質問をしてから納得し、また黙った。


なんだろうか。


いや、神を信仰している人たちなら、誰でも神に会った事があると言うと思いますけど。


それから、少しの沈黙の後、前と同じ調子に戻ったモルガンさんに、再び闇神教の建物を案内して貰い、特に怪しい所は無かった為、最後に御礼を言って、私たちは孤児院に戻るのだった。




しかし、教会に戻ってからルークさんは重い口調で語りだすのだった。


「オリヴィア。イザベラ。この件はもう忘れて欲しい」


「どういう意味ですか? ルークさん。私は」


「特にイザベラ。君は駄目だ」


「えぇ!?」


ルークさんのフォローをしていたというのに、突然の駄目だしに私は思わず震えてしまった。


私の方が、頑張ってたのに。


「何があったのですか? ルークさん」


「血の匂いだ」


「っ!」


「え!?」


椅子に座りながら、静かに燃える様な瞳でルークさんはとんでもない事実を口にした。


しかし、私には何のことやらサッパリ分からない。


「詳しく教えて下さい! ルークさん!」


「私からもお願いします。中途半端な情報だけではイザベラさんがかの教会へ一人で行ってしまうかもしれませんし」


「……そうだね」


ルークさんは大変失礼な事に私をジッと見ながらため息を吐いて、語る。


「僕らを案内したモルガンという男。彼の体からは消しきれない死臭がした。しかも一人や二人じゃない。相当な数だ」


「な、何故」


「さて。理由は確かじゃないけれど……あまり楽しい事では無いだろうね」


「やはりエースブさんを復活させようとしているのでしょうか」


「可能性としてはそれが一番高いだろうね」


また同じ名前だ。


私はその名前が誰なのかオリヴィアお姉様とルークさんに聞いたが、結局教えてもらえず、悶々とした夜を過ごす事になるのだった。

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