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第5話『私もその闇神教の調査に参加させて下さいな!』

フラーお姉様と共に孤児院へ向かった日から数日が経ったが、私は結局家出する事が出来なかった。


何故なら他でもないオリヴィアお姉様が反対したからだ。


両親やお姉様の説得も出来ない様な人が、世界を救う事なんて出来る訳がないと言って。


悔しいがその通りである。




という訳で、私は家とオリヴィアお姉様の孤児院を行ったり来たりしつつ、たまに聖女として難病に苦しむ方や、命が危ぶまれる様な怪我をされた方を癒していた。


少しずつ世界に聖女イザベラの名が広まって行き、私は非常に誇らしい気分である。


ただ、喜んでばかりもいられない。


何故なら聖女という名は非常に重い物だからだ。


初代聖女であるアメリア様は言うまでもなく、オリヴィアお姉様も大変素晴らしいお方だ。


お二人が私に託して下さった物を無駄にしない様に、日々精進しなくては……!




と、気合を入れていた矢先、オリヴィアお姉様の元にルークさんが中々重要そうな案件を持ってやって来た。


「闇神教……ですか?」


「あぁ。ほら、最近発見された闇の精霊がいただろう? アレの信奉者の集まりらしい」


「……エースブさんの」


「そういう訳だ」


見知らぬ名前が出て来たなと思いながら、私はベッドに座るお姉様とルークさんの会話に耳を傾ける。


「ではルークさんはそちらの調査に?」


「あぁ、まぁ、何もないとは思うけどね。闇の信奉者が増えると光聖教の力が弱まるんじゃないかって心配した光聖教の人に依頼されちゃったからさ」


「それはお疲れ様です。でも、生まれてくる子供の為にお金はいっぱい必要ですものね」


「そういう訳だ」


お金という言葉を聞いて、私はピーンと思いついた。


孤児院の運営資金が厳しいと言っていたし。私もそこへ行けば良いのでは?


「ルークさん。私もその闇神教の調査に参加させて下さいな!」


「イザベラが? 何でまた」


「お金ですわ! 孤児院の運営資金を稼ぎますの!」


「孤児院の運営資金……?」


ルークさんは怪訝そうな顔をしながらオリヴィアお姉様を見て、私もオリヴィアお姉様を見る。


「まぁ、確かに。お金は少々厳しいですね」


「その程度。光聖教でもどこかの国にでも言えばいくらでも出してもらえるだろう。聖女オリヴィア」


「元。ですよ」


オリヴィアお姉様はルークさんの言葉に苦笑しながら返し、更に言葉を続けた。


「それに、手を差し伸べる時は無償でと言っていたのに、後でお金を要求するのは図々しいでしょう?」


「確かに。そう言われるとそうだね」


「ですが、イザベラさんにお願いするのは……」


「何を仰っているのですか!? オリヴィアお姉様! 今は私が聖女。であるならば、この聖女様の孤児院は私が運営するべきですわ!」


という訳で、そこから長い時間を掛けてお姉様を説得し、私はルークさんと共に闇神教の支部に向かう事になった。




しかし、まぁ、当然と言えば当然ではあるが……そこは闇の精霊とその神様を崇めているだけの場所であり、おかしな所は何も無かったのである。


「いやーしかし驚きました。まさかあのルーク様と、当代聖女であるイザベラ様がいらっしゃるとは」


「あのルーク様? ルークさんは何かされましたの?」


「あーいやーまぁ、それなりにね」


「ふむ」


私はルークさんの胡麻化した様な物言いが気になり、闇神教の神官さんへと目線を移した。


その目線の意味に気づいたのか、神官さんは朗らかな笑みを浮かべながら話をしてくれる。


「聖女様はご存知ありませんでしたか。少し前の話です。この世界を破壊する為に現れた強大な存在『魔王』を『勇者』であるルーク様が打ち倒し、世界を平和に導いたのですよ」


「へー! そうだったのですね! まったく知らなかったです!」


「まぁ、公にはされていない事ですからね。しかし、その『魔王』が討伐される事で、闇の精霊は生まれ、我ら闇神教も始まったのですから、ルーク様は教祖の様なお方ですね」


「いや、その……お恥ずかしながら、それほど優れた人間でも無いので……」


「ルークさん! それは、いけませんわ!!」


私は謙遜するルークさんの言葉に待ったを掛けた。


そして、目を丸くしている二人に大事な事を語る。


「良いですか? ルークさん。自らの偉業をそんな事、等と言ってはいけません」


「そうなのかい?」


「えぇ。謙遜は確かに大事な事ですが、ルークさんが世界を救う様な事をしたという事を誇らねば、ルークさんに憧れた子供たちはどうなります。情けない者に憧れていたと恥ずかしくなってしまうでは無いですか!」


「……確かにね」


「ですから、これは素晴らしい事なのだと自分で誇るのです。そうすれば後に続く者も、自らの行いは素晴らしい事なのだと自分を誇れるではないですか!」


「……」


私は自分の胸に手を当てながら、私の信念を掲げた。


聖女というお役目をいただき、誇る私の信念だ。


「いやいや。素晴らしい。流石は聖女様ですね。このモルガン。感動しました」


「えぇ。えぇ。ありがとうございます。ですが、その称賛も当然の事ですわ。何故なら私はアメリア様とオリヴィアお姉様から名を授けられた聖女なのですから!」


「おー」


パチパチと手を叩きながら、喜ぶモルガンさんに私は喜びを覚えながら、やや恥ずかしそうにしているルークさんを見た。


そして、笑う。


「そういう訳ですから。ルークさんもどうぞ自分の偉業は誇って下さいな!」


「……まぁ、そうだね。じゃあ今度自伝でも書くかな。旅人ルークの冒険ってね」


「ほう! 良いのではないですか?」


「これでも色々な場所で魔物退治なんかはやってるからね。未来の子供たちが憧れる様な本を書くとするよ」


「えぇ、えぇ。そうなさってください。完成した際には私も購入させていただきますわ」


私は微笑みを浮かべながら、ルークさんの手を握り、ルークさんもまた私の手を強く握るのだった。


そしてモルガンさんへと視線を戻し、軽く謝罪をする。


「申し訳ございません。モルガン様。お話が逸れてしまいましたわ」


「いえいえ! 気にしないで下さい! 聖女様と『勇者』であるルークさんのお話は貴重ですからね。私も楽しく聞かせていただきましたよ」


「お心遣いありがとうございます」


「お気になさらず……では、そろそろ当教会の案内をさせていただきましょうか」


「はい」


そう言いながらモルガンさんは再び歩き出そうとしたのだが、ふと思い出した事があったとばかりに立ち止まり、振り返る。


「そういえば本日、オリヴィア様はこちらにいらっしゃるのでしょうか?」


「いえ。オリヴィアお姉様は、少々用事があり、こちらへはいらっしゃいませんわ」


「そうなのですね。それは残念です」


本当に残念だとばかりに肩を落とすモルガンさんを励ましながら、私は微笑んだ。


「その代わりと言っては何ですが、私がここで見て聞いた事は全てオリヴィアお姉様にお伝えさせていただきます」


「おぉ。それはありがたい。感謝します。聖女イザベラ様」


「この程度。大した事ではありませんよ」


私はにこやかに微笑んで、モルガンさんの言葉を受け止める。


そして、いよいよ実際に教会の中を案内してもらう事になるのだった。

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