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第19話『この世界から、光を……消さない為に』

『闇の魔術は、人の心に作用する魔術だ』


『流石は闇の精霊さん。詳しいですね』


『まぁな』


『それで? このまま闇の魔力を放置するとどうなるのでしょうか?』


『どうにもならん。お前は既に闇の魔力を受け入れている。ここから何かが変化する事は無いだろう』


胡麻化された。


私は闇の精霊をジトっと見ながら、光の魔力を手のひらに収まるくらいの大きさにして、投げつける。


『いだっ! やめろ! やめんか!!』


『答えるまで投げ続けます』


『なんだその態度は! せっかく我が答えてやっているというのに!!』


ここは私の中に広がる世界だ。


どんなことも自由自在。


という事で闇の精霊さんが真実を吐くまでソレを続けていたのだが、どうやっても闇の精霊さんは何も吐かなかった。


『はぁ……強情ですね』


『当たり前だ! 言えば、お前はおそらく最悪の決断をする』


『……なるほど。そういう事ですか』


『ん!? 待て! イザベラ!! お前! 何を理解した』


『今ここには人の憎しみと絶望が満ちています。それは闇の魔力となり、集まって人の願いを具現化する。ここが闇神教の本拠地である事を考えれば、生み出されるのは災厄。つまりは魔王の復活ですね』


『……違う』


『ありがとうございます。正解を教えて下さって。ならば私のやるべき事も分かるというもの』


『違う!! お前の考えは全て間違っている!!』


『なら……正解を教えて下さい』


『それは……』


何も語れない闇の精霊さんに、私はフッと笑みを零した。


まったく、フラーお姉様と同じお人好しの魔王様だ。


『では、短い間ですが、ありがとうございました。これからもオリヴィアお姉様や優しい人を見守って下さるとありがたいです』


『待て! まだ、他にも手段はあるはずだ! お前が犠牲にならずとも!!』


『その僅かな可能性しかない奇跡に、オリヴィアお姉様やルークさんの命を賭ける気は……ありませんよ』


『待っ!!』


私は魔王様との会話を打ち切って、現実に帰ってきた。


そして、まだ抗っているルークさんとオリヴィアお姉様の気配を感じながら闇の魔力を集め続ける。


この世界を……終わらせない為に。




「あぁ……良い夜ですね。夜の闇も、月が照らしてくれる。フラーお姉様の様に」


この場所にある全ての想いを集め、私はオリヴィアお姉様と話をしていた。


オリヴィアお姉様の注意を全て私に向ける。


私だけに。


決して気づかれない様に注意しながら、静かに、私はその時を待った。


そして……!


「イザベラさん!!」


「……っ! オリヴィアお姉様!」


オリヴィアお姉様が突っ込んできた瞬間に、ルークさんを拘束していた魔術を解き放った。


拘束から解き放たれたルークさんは、私が見せている幻を斬ろうと剣を真っすぐに『私へ』向けながら走ってくる。


今、ルークさんの目には、私が魔王さんに見えているはずだ。


ルークさんは迷わない。


私とオリヴィアお姉様を救うために、風よりもオリヴィアお姉様よりも速く、駆けて……闇の存在を貫いた。




あぁ。


ずっと痛かった胸の奥が静かだ。


痛みを感じない。


「っ! オリヴィア! イザベラ!! 大丈夫か!?」


「るーく、さん……どうして」


「え?」


闇の魔力に耐性のあるオリヴィアお姉様に幻は見せられない。


だからルークさんに私が敵である幻を見せた。


ルークさんが倒さなければならない敵の姿を。


「な、なぜ……イザベラが」


「イザベラさん! 貴女最初から……!!」


「ふ、ふふ。しょうぶは、私の、勝ち……でしたね」


「どうして、どうしてこんな!!」


瓦礫の上に倒れていた体を、オリヴィアお姉様が抱き上げて、涙を零す。


ポロポロと零れる涙を拭って差し上げたいが、生憎ともう体は動かなかった。


「闇神教の者たちは、放置出来ません。放置すれば、このせかいに……災厄を、よぶ」


「なら、だから私たちが」


「できませんよ。ルークさんも、オリヴィアお姉様も、お優しい。命をうばう、決断は……出来ないでしょう?」


あぁ、そうだ。


二人が見えない壁を通り、この中に入ってきたのが全ての証拠だ。


オリヴィアお姉様もルークさんも、一度だって悪意をもって人を傷つけた事も、命を奪った事も無いのだ。


だから、私がやらなければならなかった。


悪意をこの世界には残せないから。


「せかいには、優しい人が、ひつようなんです。誰かの為に、涙を流せる、ひとが」


「だれかのしあわせを、願う事の、できる人が」


「ひとの痛みに、よりそう事の、出来る人が」


「だから……」


私は胸を貫かれても、未だ命を繋いでいる光に心の中で触れた。


アメリア様が。


オリヴィアお姉様が繋いでくれた命の光。


誰かの傷を癒す事の出来る。


願いの形。


「わたしは、なにも出来ませんでしたが、一つだけ……この力に願いを、託します」


「この世界から、光を……消さない為に」


癒しの魔術の使い手が命を落とした時。


誰かを想う強い人の元へ、この力が届くように。


癒しの魔術に手を加えた。


「……あぁ、わたしも、おねえさま、みたいな……せいじょさまに……なりたか、ったな」


もう何も聞こえない。


世界の音も。


私の中から聞こえる憎しみの声も。


何も。




『……イザベラちゃん』




え?


なんだろう。


この声は。


誰かが私を呼んでいる。


誰か……。


酷く懐かしい。


誰かが……。




暗闇の中で、私は何かを求めて手を伸ばした。


そして、強い風が吹いて。


私はどこまでも遠く広がる草原の上に立っていた。




「……? ここは」


「イザベラちゃん!!」


「わぁ!? ビックリした!?」


キョロキョロと周囲を見渡していた私は背後から声を掛けられ、ビックリして跳び上がってしまった。


振り返ってみれば、そこに立っていたのはフラーお姉様で。


何故か酷く怒っている。


「どうしたんですか? フラーお姉様。またお父様かお母様と喧嘩でもしましたか?」


「私が怒っているのはイザベラちゃんに対してです!!」


「私に、ですか? 何故?」


「それは! イザベラちゃんが!! イザベラちゃんが!!!」


フラーお姉様は私の名前を叫びながらボロボロと涙を流し、結局理由を言わないまま私に抱き着いて泣き始めてしまった。


私はよく分からないままフラーお姉様の背中を撫でる。


「イザベラ」


「イザベラさん」


「お父様。お母様もこちらにいらっしゃったのですね。となると、ここはいったい?」


「お嬢様」


「イザベラ様」


「クロードに、ナンシーまで! というか皆さん集まってどうしたんですか? え? 本当に、何が起こってるんです?」


私の問いかけに誰も何も答えてくれず、ただ黙って私とフラーお姉様を見つめている。


酷く不気味な光景だ。


いや、違うか。


皆、待っているのだ。私の事を。


終わりの世界へ向かう前に、私が来るのをただ待っていたのか。


「フラーお姉様」


「……っ、イザベラ、ちゃん?」


「私、フラーお姉様方と同じ場所には行けません」


「っ!! そんな! こと!!」


「この手はもう、血で汚れている。お姉様たちと同じ世界には行けません。罪を償わなければいけない」


「私は、離しません!! だって、だって!! 貴女が護ってくれたのでしょう!? ウィル様とハンナの未来を!! 二人が幸せに生きていける場所を!」


「私は自分の欲望に身を任せただけですよ。憎しみのままに、ただ壊し、ただ殺した。それだけです。誰かを救おうだなんて、考えてはいませんでした」


「嘘ばっかり! どうして、どうしてイザベラちゃんはそんな風に、自分ばかり……!」


「私が私を許せないのです。こうしてフラーお姉様とお話している事すら、私は自分を許せない。このまま消えてしまう事が、一番良いんです」


「イザベラちゃん!!」


私はフラーお姉様を突き放して、闇の世界へ落ちてゆこうとした。


光の届かない世界で、闇の中に消えて行こうとした。




しかし、フラーお姉様から離れた私の体は何かに受け止められる。


フラーお姉様の様な。


オリヴィアお姉様の様な。


温かい、陽だまりの様な誰かに。


「あまり、大切な人を泣かせてはいけませんよ」


「お姉ちゃんがそれを言う?」


「あー、たはは。それを言われると弱いですね」


私はその温かな声に振り返って、目を見開いた。


そこに居たのは……。


「イザベラちゃん。罪を償うという事は消えるという事ではありません。厳しい事を言う様ですが、それは逃げる事と同じです」


「……っ!」


「世界の為に、まだ出来る事があります。私も、貴女にも」


「私にも、まだ」


「はい。だから、いつか自分を許せる様になるまで。私達と共に世界を見守って下さい」


まるで日の光の様な笑顔を私に向けるその人は、その人達は。


何度も何度もオリヴィアお姉様に聞いた人で。


私は……。


「イザベラちゃん! 私、向こうで待ってます!! だから! イザベラちゃんの事! お願いします!!」


「……っ! フラーお姉様」


「だから、だから!! いつかまた会いましょう。あの空の果てで。いつか。イザベラちゃんが私達と会いたいって思えた時に!」


「……っ」


フラーお姉様の言葉は私に真っすぐ突き刺さって、消えない棘を心に残した。


私は涙を拭いながら、空の向こうに向かうフラーお姉様達を見送る。


その姿が消えるまで、ずっと……。




そして……。


「何も出来なかった私に、それでもまだ何か出来る事があるのなら、ご協力させて下さい。アメリア様」


「様は要りませんよ。それに……貴女が何も出来なかったなんて事はありません。貴女の行動は確かに世界の闇を照らしました。誇りなさい。それが貴女の後に続く者の為でもあります」


「……はい」


「聖女イザベラ。貴女がオリヴィアちゃんの意思を継ごうとしてくれた事、私も誇りに思います。ありがとう」


「っ!はい!」


私はアメリア様の手を取り、再び世界へと戻って行くのだった。




「あ、そうそう。はじめましてだね。私、リリィ」


「これは丁寧にありがとうございます」


「んー。ちょっと固いな。もっと友達みたいに話してよ」


「え!? いや、それは失礼なのでは」


「じゃあ命令ね。よろしくー」


「リリィ様!? あの! リリィ様ー!?」


「リリィも悪い子ですねぇ」


「へっへっへ。オリヴィアちゃんは多分変わらないからね。イザベラちゃんに期待だよ」


「友達、ですか。それも良いかもしれないですねぇ」

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