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第18話『オリヴィアお姉様。私、全てが理解出来ました』(オリヴィア視点)

(オリヴィア視点)




「オリヴィア!! しっかりしろ! オリヴィア!!」


「……っ! イザベラさん!」


「くっ!」


ルークさんは動けずにいる私の前に立って、瓦礫や暴風を切り裂いて私を守ってくれる。


このままではいけないと分かっているのに、私は立つことが出来なかった。


どうしてこんな事になってしまったのか。


そんな疑問ばかりが頭に浮かんでは消えていく。


初めて会った時から、イザベラさんは純粋な子だった。


フラーさんという光の近くで生きて、純粋に世界を信じて、真っ白な心で世界を見つめていた。


だからこそ、彼女にとっての光であるフラーさんを失った事で、イザベラさんは闇に染まってしまったのだろう。


悪意を受け流す事が出来ず、正面から人の痛みを受け止めてしまうイザベラさんだから。


「泣いている」


「オリヴィア!?」


闇の砲風を生み出しているその中心で、イザベラさんは涙を流していた。


当然だ。


あの子は、昔からずっとそうだった。


人の痛みに敏感で、誰かが苦しんでいると自分も一緒に苦しんでしまう様な子だった。


だから、自分の大切な人を殺され、自分も殺し、その痛みに苦しんでいるのだ。


「ルークさん」


「あぁ!」


「助けましょう。あの子を、暗闇で独りぼっちで泣いているイザベラさんを!」


「当然だ! やろう! 僕たちで!!」


私はソフィアさんから借りて来た杖を構え、ルークさんは剣を構え、イザベラさんを見据える。


「……行きます!!」


私の声を合図として、ルークさんは駆けだし、私は闇の魔術でイザベラさんの魔術に干渉し始めた。


つい数刻前から闇の魔術を使い始めたイザベラさんと違って、私の方がずっと先輩だ。


相手の力を利用し、自分の力の様に使う事だって出来る。


しかし、イザベラさんの魔力量は私よりも遥かに大きく、私の腕は風に切り裂かれ表面から血が溢れた。


「なんて、魔力量……!」


「無理をするな! オリヴィア!! 僕が! 気絶させる!!」


「ルークさん!」


ルークさんは叫びながら風にのり、イザベラさんに近づくが、イザベラさんの周囲には闇の魔術が生み出した暴風の本体があり、ルークさんはそれを切り裂こうと剣を振り下ろすが、切り裂く事は出来ず弾かれてしまうのだった。


「これほどかっ!」


ルークさんは空中を蹴りながら、私のすぐ近くまで降りてきて、追撃の様に飛んできた暴風を剣で切り裂く。


「あれから僕も結構鍛えてたんだけどね」


「それだけイザベラさんの想いが強いのでしょう。それに、おそらくはこの場所で命を落とした全ての想いを取り込んでいる可能性があります」


「その場合、どうなる?」


「想いが集まれば、最悪エースブさんの力だけが復活する可能性があります」


「それは最悪だな!!」


意思のないエースブさんは、その力のままに暴れまわり、世界を破壊するかもしれない。


そうなれば、アメリア様の願いも、エースブさんの願いも、そしてイザベラさんの願いも全てが無になってしまう。


「だから、ここでイザベラさんを何としても止めるんです!」


「そうだね!」


しかし、私たちのそんな決意を嘲笑うかの様に、イザベラさんは私達の方へ視線を向けると、その手を翳した。


「まずい!」


「防御魔術!!」


瞬間、イザベラさんの手から放たれた一撃は、闇神教の本拠地である建物を全て破壊し、私達の立っている場所も足元から崩壊してゆく。


「オリヴィア!!」


「ありがとうございます。ルークさん!」


全てが壊れてゆく中、私はルークさんに抱えられ、崩れてゆく瓦礫の上を飛んでいたのだが、そんな中、転移魔術で目の前に現れたイザベラさんが続く一撃をルークさんに放ち、私たちは崩壊する建物と共に地面に叩きつけられてしまうのだった。




地面に落ちた瞬間、激しい痛みが私を襲い、立つことすら難しい様な状態になるが、それでも立つ。


イザベラさんをこのまま放置出来ないと。


しかし……。


「イザベラさん……その姿は」


全てが遅かったのか。イザベラさんは先ほどまでの苦しんでいた顔とは違い、酷く落ち着いた顔で空を見ていた。


血で汚れたシンプルなデザインの洋服は、漆黒のシンプルながらどこか異質なドレスに代わり、冷たいイザベラさんを彩っている。


そして、全身に溢れる魔力はフラーさんの様な温かい光ではなく、どこまでも暗い深淵の様な闇の魔力だった。


「あぁ……良い夜ですね。夜の闇も、月が照らしてくれる。フラーお姉様の様に」


「……イザベラ、さん?」


「オリヴィアお姉様。私、全てが理解出来ました」


「……」


「この世界は初めから全て……間違っていたのです。人は愚かで、悲しい生き物でした」


イザベラさんは静かな夜の中、溶けてゆきそうな声で語る。


「だから、私はこの世界から全ての自由を破壊します。もう誰も傷つけない様に。もう誰も、傷つかない様に」


「それを誰が望むというのですか! フラーさんがそれを望んだとでも言うのですか!!」


「いいえ。フラーお姉様は決してその様な事を望まないでしょう。だから、この願いは、私の願い」


「……イザベラさん」


イザベラさんの頬に一筋の涙が流れる。


震える唇から零れ落ちるのは、出会った時から変わらない純粋で、真っすぐな願いだった。


「ただ、私が、ずっと願っていたのです。オリヴィアお姉様が心安らかに生きていける様にと、フラーお姉様の未来に幸せが溢れている様にと、ただ、ずっと……そう願っていたのです」


「っ! 生憎ですが! 私は貴女が戦いを止めない限り、戦い続けます! 例えこの命が戦場で消えるとしても……! 悔いは無い!!」


「オリヴィアお姉様……」


「私はずっと自由の為に戦ってきました! 自らの宿命に囚われ、自分を殺し! それでも誰かの為に生きた人を知っているから!! もう二度と!! あんな悲しみを繰り返したくないから!! 私は聖女として、戦ってきたのです!」


私はソフィアさんから託された杖を震える体で正面に向け、アメリア様とリリィ様の最期に感じた無念と共に、戦いの意思を示す。


「イザベラさん。貴女を縛る宿命から……解き放ちます。これが私の、この残り少ない命を燃やし、この世界に残す願いです!!」


「私は、何にも縛られてなど、いない! これが私の、望んだ事なんです!!」


イザベラさんは私を見据え、戦う意思を示した。


私は笑みを浮かべながら魔術を準備し、イザベラさんの隙を伺う。


もう心の準備は出来た。


この命、ここで失おうとも構わない。


イザベラさんを取り戻す為なら。


私の命くらい安いものだ。


そう。イザベラさんにはまだ心が残っている。


闇に飲まれてはいない。


なら、まだ間に合うのだ。


闇の魔力は制御する事が出来る。


だから、今日、この日、この一瞬にイザベラさんの足を止める事が出来れば……!


聖女というイザベラさんの憧れを再び示せば、きっと。


貴女は戻ってきてくれる。


そう信じている。


「……未来を任せます」




私は殆ど使い尽くした魔力で、魔術を発動するフリをしながらイザベラさんに迫った。


全身を痛みが襲うが、関係ない。もう何も、気にしなくていい。


そうだ。


イザベラさんは優秀な子だ。


こうやって敵意を見せれば反撃せずに受け入れることは難しいだろう。


そして、私の読み通り、イザベラさんは反撃の魔術を使おうとしているようだった。


これで良い。


全て、これで上手くいく。


私の命を全て使って……! 貴女を取り戻す!!


「イザベラさん!!」


「……っ! オリヴィアお姉様!」


そして、私とイザベラさんは魔術を展開しながらぶつかり合った。




あぁ。


もし、この世界に運命という物があるのなら、私はその運命を呪うだろう。


どうして世界はこんな終わりを私に……見せつけるのだろうか。

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