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第13話『ルークさん? 緊張されているのですか?』

王都より騎士団の方と共に闇神教の本拠地へと踏み入った私とルークさんは、教会で多くの方を捕縛しながら、奥へ奥へと進んでいった。


しかし教会に居る闇神教の方々は基本的に何も知らない末端の人たちであったので、私たちは保護という名目で彼らを捕縛してゆく。


目的はあくまで惨劇を引き起こした者たちだ。


そして本拠地を制圧しつつ、証拠を集めて罪状を纏めてから支部も制圧してゆく。


これが作戦だ。


「ルークさん!」


「っ!!」


私は、物陰から剣を振りかぶって襲ってきた人を警戒させる様にルークさんの名を呼んだ。


ルークさんはその剣の軌道を見極めたのか、ギリギリの所でかわし、そのまま相手が握っていた剣を踏みつけて、切りつけてきた人を殴りつける。


そのあまりの早業に、私は思わず唖然としてしまったが、ルークさんは何事も無かったかの様に騎士さんに気絶してしまった奇襲者を渡すのだった。


「……手慣れてますわね」


「ん? 何がかな」


「いえ。随分とこういう荒事になれているのだなと思いまして」


「まぁ昔は結構荒事も多かったからね。最近は平和だけどさ」


「そうなのですか?」


私は教会の奥を目指しつつ、ルークさんと歩きながら話をする。


「あぁ。闇に覆われていた時代は人の心も闇に染まっていたからね」


「なるほど。人間を裏切り、魔の側についた者が居たのですね。自分だけでも生き残ろうとしたという事ですか?」


「……」


「どうしました?」


呆れた様な顔で私を見つめるルークさんに私は首を傾げた。


「いや、随分と真っすぐに聞くんだなって思ってね」


「別に隠す様な事でも無いでしょう。危機的状況になれば生き残りたいと思う方もそれなりに居るでしょう」


「うん……まぁ、そうだね」


「何か妙に歯切れが悪いですね」


「まぁ、何だろうね」


ルークさんは不意に言葉を途切れさせると、走り出し物陰に隠れていた敵を掴み空に投げる。


私は空を舞う刺客を水の魔術で拘束すると、それをクッションにしながら地面に落とし、騎士さんに引き渡す。


「ルークさん?」


「いや。イザベラは純粋だなと思ってな。人の悪意をイザベラは知らないみたいだね」


「……ルークさんも私にそう仰いますのね」


「僕も?」


「以前お父様にも似た様な事を言われましたわ。人の悪意を私は知らないと」


「……そうか」


ルークさんは私を見て、何かを納得したように頷いてから足を止めた。


そして、私の方を見ながら表情を引き締めて口を開く。


「イザベラ」


「なんでしょうか」


「君にはここで引き返し、全てが終わるまでオリヴィアと共に待っている事も出来るけど……」


「お断りしますわ。私はただ守られるだけのお嬢さんではありませんので」


「しかし、ここから先に進めば、おそらく人の最も汚い物を見る事になるよ」


「構いませんわ。それが私の知らない現実だというのなら、私は聖女として、貴族として見なければいけません。そうでしょう?」


「……まぁ、そうだね」


ルークさんは少しだけ寂しそうな顔をしてから顔を正面に向けた。


「君たちもずっと子供のままではいられないからね。仕方ない事なんだろう」


「その通りですわ!」


私は自信満々に頷き、ルークさんと共に再び最奥を目指して駆け始めた。




それから、見つけた闇神教の方々を皆捕縛し、私たちは順調に教会内部を制圧していった。


そして、遂に最奥にあった祈りの間を残すのみとなったのだが、ルークさんが妙に緊張している事に気づいた。


「ルークさん? 緊張されているのですか?」


「まぁ、ね。正直気分は最悪だよ」


「であれば、ルークさんこそ休んでいた方がよろしいのでは? ここまで来れば私と騎士の方々だけで十分ですわ」


「冗談が上手いね。イザベラ。悪いけど君たちに任せる事は出来ないよ」


「お言葉ですけど、転移で逃げてもその足跡を追う事は可能です。逃亡した者たちを追うことくらい私でも……」


「違うんだよ。イザベラ」


「え?」


「連中は逃げない。逃げる訳がないんだ」


「何を言ってますの? もう闇神教の教会はほぼ制圧されています。この場所に立てこもって籠城しても意味はありませんわ。罪を重ねるだけです。ならば」


「そうだね。頭の良い君ならそう考えるだろうね。でもね。それは頭の良い君の理屈だよ」


ルークさんは私の言葉を遮ると、ここにきて初めて腰の剣を抜き、小さく息を吐く。


「行くよ」


そして勢いよく扉を蹴り開けると、中に飛び込んだ。


私もルークさんに続いて中に入り……その異変に気付いた。


匂う。


部屋の中は背筋が凍り付く様な匂いで満ちていた。


「ひっ!?」


「総員! 聖女を守れ!!!」


足元に落ちていた、おそらくは人の一部であった物を見て悲鳴を上げながら固まってしまった私を騎士さんたちが盾と剣を構えながら囲む様に立つ。


ルークさんの言葉通り守ろうとしてくれているのだろう。


しかし、その意味も理解出来ないまま私は周囲を見渡した。


まるでこの部屋の異変を探そうとするかのように。


「見るな。イザベラ」


「な、なんですの? この部屋は……! 何故、こんなにも」


「命の気配に満ちていますか? 聖女イザベラ様」


こんなにも異常な空間で、酷く落ち着いた声が響き、私はそちらに視線を向ける。


そこには、かつて闇神教の調査を行った時に出会ったモルガンさんと同じ服を着た男性が立っていた。


そして、暗闇の中から私を静かな目で見つめる。


「あ、あなたは……」


「私はゴスティ。闇神教の全てを管理している人間です。どうぞお見知りおきを」


ゴスティという男が自己紹介をした瞬間、彼の背後にあった光台に火が付き、そのまま周囲に伝わって部屋全体を照らし出した。


おびただしい数の死を撒き散らしている部屋の全体を。


「っ!!?」


「見るな!!! イザベラ!!」


「る、るーく、さん」


私はお腹の奥から湧き上がってくる吐き気を何とか抑えながら、震える体を何とか真っすぐに立たせ、ルークさんを見つめる。


しかし、ルークさんはこちらを見る様な事はせず、ジッとゴスティを見たまま戦意を高めていた。


「ゴスティ司祭だな。大人しく投降しろ。教会は既に包囲されている」


「おやぁ? なんですか。私と聖女様がお話をしているというのに、それを邪魔するのは」


「僕はルーク。ただのルークだ」


「ルーク……ルーク、ルーク!! あぁ、あぁ、あぁあぁ!! よく知っていますよ! 貴方の事はねぇ! 我らの神を殺めた! この世界で最も邪悪なる者!!」


「何が邪悪だ。君たちの行いの方がよほど邪悪だ。こんなにも多くの人の命を奪って……」


「黙れっ!! 我らの神を殺し、アメリア様を貶めたお前たち光の奴隷なぞ、いくら殺そうが何の罪にもならんわ! 自惚れるな! 罪人が!」


「まともに会話も出来ないか。このまま捕縛する」


「くははは!! 自惚れるなと言っただろう!! 既に儀式は完了している! さぁ、闇の世界に生きる獣よ!! 今こそ蘇り! 光の奴隷どもを喰らい尽くせ!!」


ゴスティが叫んだ瞬間、血だと思っていた黒い物は巨大な犬の姿となり空中に……。


「光よ!! 奴を切り裂け!!」


現れようとしていたが、既に獣に向かって飛んでいたルークさんによって切り裂かれ、再び闇の中に消えてしまうのだった。


そして、ルークさんはそのまま地面に着地するとゴスティを殴り倒し、騎士さん達に捕縛する様に言う。


「……イザベラ。大丈夫かい?」


「っ、え、えぇ」


涙で視界を滲ませながらも、私はルークさんに怪我が無いかを確かめて、無事だった事に安堵する。


「すまない。君にはまだ……」


「ルークさん……!」


「……何かな」


「これは、いったい、何なんですか!? 追い詰められたら、逃げるって……」


「これが、人の闇だよ。イザベラ」


「やみ」


言葉に出来ない恐怖から自分を守る様に抱きしめるが、恐怖は消えなかった。


「彼は選択したんだ。逃げるよりも僕たちの命を奪う為に、より多くの命を奪う選択を」


「……あり得ない」


私はうずくまり、見たくない物を見ない為に目を閉じるのだった。

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