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第12話『私は聖女。聖女イザベラ。清く正しく、生きてゆきますわ』

滅ぼされた村で、何とか助け出した二人は双子だったらしくお兄ちゃんがトーマス君、妹がシンシアちゃんという名前らしい。


二人は酷く傷ついていて、夜寝る時も私が傍に居ないと眠れないくらいであった。


そして、二人がすっかり寝たのを確認してから私は、二人の傍に座り火の番をしているルークさんに話しかける。


「もう大丈夫ですよ。ルークさん」


「ん? そうか。でも、良かったよ。イザベラが居て」


「ふふん。そうでしょう。そうでしょう」


「あぁ、そうだな」


私は胸を張りながら誇り、そんな私にルークさんは苦笑しながら頷く。


そして、私はこれからの話をする事にした。


「ルークさんは闇神教についてどの様にお考えですか?」


「難しいね」


「……」


ルークさんは火を見つめながら、淡々と語る。


「今回、彼らは人として踏み越えてはいけない一線を踏み越えた」


「はい」


「それは決して許してはいけない事だ」


「そうですわね」


「でも、僕は彼らと因縁がある訳じゃない。僕の立場で考えれば彼らが次の罪を犯さない様に止める事くらいだ」


「……」


「だから、彼らのこれからは、子供たちに託すよ。許すか、許さないか」


火の中に木の枝を入れながらルークさんは独り言の様に呟く。


その顔は少しだけ怖さを感じる物だった。


「私はこの子達に聞くことは残酷な事だと思います」


「だろうね。でも、向き合わなきゃいつまでも闇の中にいる事になるよ」


「なら! 私が彼らを……!」


「イザベラ」


「っ!」


「もし、彼らを消す事になるとしても、君は絶対に手を出すな」


ルークさんの真っすぐな瞳は、私を貫き、その強さに私は思わず息を呑んでしまう。


「ルークさん……!」


「君が子供たちに手を差し伸べた時、僕はようやく理解したんだよ。師匠が言っていた事を」


ルークさんは炎に照らされたまま空を仰ぎ見た。


「聖女とは世界の光だ。この闇に覆われた世界で、人々が安心して暮らす為に必要な光なんだよ」


「……」


「同じ世界で生きる存在が、同じ人が、信じられぬ中、聖女だけは人を傷つけず、人を慈しみ、癒す。君たちが居るからこそ、世界は、人は誰かと共に歩むことが出来るのだと、僕は思う」


「……ルークさん」


「イザベラ。君は血に汚れるな。その清廉な姿にこそ、人は心を預けられる」


ルークさんの話は酷く悲しい話であった。


しかし、理解は出来る。


そうでなければならないのだと分かる。


フラーお姉様たちが笑って生きていける世界。


オリヴィアお姉様が心穏やかに終わりを迎えられる世界。


そんな世界に必要なのは力じゃない。安心なのだ。


明日を信じられる希望なのだ。


「……しょうがないですわね。私は聖女。聖女イザベラ。清く正しく、生きてゆきますわ」


「そうしてくれ」


「ですから」


「ん?」


「ルークさん。終わりの時が来たら、私が貴方を癒しますわ。その心を、気高き魂を。勇敢なる精神を」


「……」


ルークさんは驚いた様な顔で私を見ていたが、やがてフッと笑って頼む、と頭を下げたのだった。




そのままルークさんと他愛のない話で盛り上がり、朝になって子供たちが目を覚ましてから私たちは孤児院へと向かう事にした。


転移で行けない事もないが、魔力の痕跡を辿れば孤児院の居場所がバレてしまうし。


何かの拍子に魔物が使ってしまうかもしれない。


そういうリスクを考えれば歩いていくのがベストという訳だ。


そうやって、のんびりと進み続ける旅の中で、トーマス君もシンシアちゃんも、私やルークさんに慣れ、段々と落ち着いて話せる様になってきたのだった。


そんなある日。


「ルークさん! 俺、強くなりたい!!」


「お姉ちゃん。私、お姉ちゃんの傷を治したい」


と、二人は胸いっぱいの決意を秘めて、私たちに願ってきたのだった。


まぁまぁ、なんて可愛いらしい子達なんだろうと思いながら、ルークさんは戦う訓練をトーマス君に、そして私は傷を手当するやり方をシンシアちゃんに教えるのだった。


トーマス君はルークさんの強さに、驚き、震えていたし。


シンシアちゃんは癒しの魔術を教えられないと言ったらどこか不満げであったが、それでも二人は自分に出来る事を一生懸命にやっていた。


強くあろうとしている。


小さな体で、絶望に立ち向かっている。


それは間違いなくこの世界の光であると、私は静かに確信するのであった。




それから私たちは時間を掛けて歩き続け、孤児院にたどり着いた。


既に子供たちの非難は終わっているらしく、すっかり静かな場所になっている。


そんな中、私たちはオリヴィアお姉様の部屋に向かい、まずは帰還の挨拶をするのだった。


「オリヴィアお姉様!」


「……っ! イザベラさん! 良かった! 無事だったんですね!?」


「はい。とは言っても危険なことは何もありませんでした」


「そう……それは良かったです」


オリヴィアお姉様は本当に心から安堵したという様な笑みで肩の力を抜くのだった。


かなり心配を掛けてしまったみたいだ。


申し訳ない。


「それで、オリヴィアお姉様。子供たちは」


「はい。もう国の施設に移動して貰いました。私も長時間立ち続ける事は難しいですからね。ちょうど良い機会だったかもしれません」


「そうですか」


「向こうの施設の方とも話しましたが、とても良い方ばかりでした。子供達の事は心配要らないでしょう」


「……」


どこか寂し気な微笑みを浮かべるオリヴィアお姉様に私は頷きながら、そうだと手を叩いた。


「オリヴィアお姉様。実は折り入って相談がありまして」


「相談、ですか?」


私は一人で寂しいであろうオリヴィアお姉様の寂しさを埋めつつ、二人を安心して預けられる場所だとトーマス君とシンシアちゃんの事を紹介した。


そして、二人にはオリヴィアお姉様とここで待っていて欲しいと告げる。


「お姉ちゃん。どこかにいっちゃうの?」


「また帰ってきますわ。ただ、これからえらーい人に会うので、二人を連れて行ったら疲れてしまいますからね。ここでオリヴィアお姉様のお手伝いをしていただけると嬉しいですわ」


「おてつだい……?」


シンシアちゃんが私の服を掴んだまま不安そうにオリヴィアお姉様を見る。


「シンシアちゃん。でしたね」


「うん。シンシアちゃん」


「実は私は歩くのが大変なので、シンシアちゃんにお手伝いしていただけるととても嬉しいです」


「……お姉ちゃんも、うれしい?」


「えぇ。とてもとても嬉しいですわ」


「なら、がんばる」


両手を握りしめて気合を入れるシンシアちゃんに、私とオリヴィアお姉様は目を合わせながら笑い、ルークさんもまた出かけている間の修行方法をトーマス君に告げた。


そして、私たちは王都へ向け長距離転移を行うのだった。


「イザベラ。お願いできるかな」


「はい」


「ではお気をつけて」


「はい!」


「ぜったいに、かえってきてね」


「えぇ。お任せください」


「師匠……!」


「僕らが居ない間、二人の事は任せたよトーマス」


「うん!!」


オリヴィアお姉様とトーマス、シンシアに別れを告げて、次の瞬間には王都の入り口に降り立つ。


「ルークさん」


「うん。じゃあまずは王様の所へ行って、騎士団を動かして貰おう」


「えぇ。闇神教の捕縛作戦開始ですわね!」


私は気合を入れ、ルークさんと共に王都に入るのだった。

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