第10話『では、またお会いしましょう!』
お姉様とウィルお義兄様の結婚式が盛大に行われた。
まず初日は貴族や王族を招いてのパーティー。
そして二日目は領地に降りて、領民の方々へのお披露目を兼ねたお祭り。
最後に三日目は家族や親しい者達での静かな儀式だ。
とんでもないスケジュールであるが、愛に生きる二人に不可能はなく、最後の最後まで楽しそうな笑顔で過ごしていた。
まぁ、領民は勿論の事、貴族王族にお姉様の事が好きな方は多いし、多くの方に祝って貰えたのは素敵な事だろう。
収支お姉様が笑顔であったのも、とても素晴らしい事であった。
ただ、まぁ。
だからこそ。という訳ではないが、お義兄様の暴走はやや目立つ訳で。
「イザベラちゃん! 聞いてください! 家族が増えますよ!」
「えぇ。知ってますよ。三日間もそれを世界の方々へお知らせしていたではないですか」
「ウィル様の事ではなく!」
「ん?」
「子供が出来たのです!」
「は?」
「素敵ですね。結婚したら出来るとは聞いていましたが、まさかこんなに早いなんて!」
私は思わずキラキラとした笑顔を向けてくるお姉様からお義兄様へと鋭い視線を向けた。
結婚した翌日に子供が出来たと分かるだと?
あり得ない。
万が一にもあり得ない。
もしそれが真実であるならば、不貞を疑われてもおかしくない様な状況だ。
だというのに、余裕の笑みを浮かべているお義兄様を見れば、全ての真実が分かるという物だ。
「お義兄様……!」
「そんな怖い顔を向けないでくれ。イザベラ」
私は何も分かってない、ふわふわのお姉様を抱きしめながらお義兄様からちょっと遠ざける。
「随分と前からお姉様に手を出していたのですね。お義兄様。無垢なお姉様を騙して」
「別に騙していた訳じゃないよ。ちゃんとフラーには結婚式の予行演習だよって伝えていたからね」
「行為の意味を伝えなければ意味がありません! もしお姉様が心変わりしたらどうするおつもりだったのですか?」
「それをさせない為の、行為だよ。イザベラ」
「……っ!」
信じられない!!
確信犯だ! この男!!
笑顔でとんでもない事実をこの段階で打ち明けて来た!!
「お姉様! 子供の事は!」
「なんでしょうか? イザベラちゃん」
「いや、その……」
衝動でお義兄様のやらかした事を伝えようとしたが、どの様に伝えれば良いか分からず詰まってしまう。
いや、愛はあるのだ。
間違いなく。
少々面倒な形で重々しい愛が。
だから、お姉様が幸せであればそれが全てだろう。と言われればそうだと頷いてしまう。
「お姉様! その……まずはおめでとうございますと言わせてください。きっと素敵な子が生まれますね」
「はい! ありがとうございます! イザベラちゃん!」
お姉様にぎゅうぎゅうと抱きしめられ、私は深いため息を吐いた。
きっとお父様もお母様も何も言えまい。
というか、よくよく考えればお姉様は基本的にこの家を出ないし、外泊などした事がない。
お義兄様が何度もこの家に泊まっていた事を考えると、二人も共犯者なのだろう。
「……まったく、この人たちは」
「流石はイザベラ。素晴らしい察しの良さだね」
「その言葉、今は嬉しくありません」
「そうかい? なら、今度何か頼んでくれ。きっと私の父上も母上も喜んで用意してくれる筈さ」
「貴方方の家も……! くっ!! 私に隠れてよくも!」
「もー。イザベラちゃんったら、自分だけ仲間外れにされて悲しかったんですね? でも大丈夫ですよ」
突然、よく分からない事を言ってくるお姉様に私は疑問を返す。
そして、衝撃的な言葉をお姉様は私に投げつけてくるのだった。
「殿下とイザベラちゃんの結婚準備も進んでいますからね」
「は」
「そういう事だ。イザベラ。残念だ。まさか王宮に君が行ってしまうとは」
「っ!? 謀りましたね!? お義兄様! それに、お父様!も お母様も!!」
「イザベラちゃんのドレスは私が発注してるんです。きっと良いドレスになりますからね」
「王家の方々も非常に喜んでいたよ。イザベラ」
「くっ!!」
この家には敵しかいない!!
何故だ!? 何故こんな事になってしまった!!
いや、分かっている。お義兄様たちの策略だ。
お姉様とお義兄様を結婚させる為、そして私と殿下を結婚させる為の!!
「残念ですが! お断りします!」
「あぁ! イザベラちゃん! 逃げちゃ駄目ですよ!」
私はお姉様の腕の中から転移魔術で脱出すると、やや離れた場所でお姉様のと話をする。
そう。私には私の役目があるのだ。
聖女としての役目が!!
「改めてとなりますが、フラーお姉様。ウィルお義兄様。ご結婚おめでとうございます。そしてご懐妊おめでとうございます。結婚祝いとして渡した物は転移魔術をすぐ使う事の出来る道具です。二人分ありますので、家出をしたい! という時にはお使い下さい。お姉様」
「その様な時は来ないと思いますが」
「あー。ただ、子供の重量までは考えていなかった為、もし子供と一緒に逃げたい時は、子供達で一つ。お姉様が一つお使い下さい。孤児院で何年でも受け入れますからね」
私は話すだけ話して長距離転移魔術を起動した。
構築式を展開し、転移魔術の準備に入る。
「ではお姉様。どうぞお幸せに。私は孤児院におりますので、何かあれば殿下やお義兄様を連れずに来てください」
「イザベラちゃん! 結婚式はどうするのですか!?」
「先ほどもお伝えしましたが、お断りします!」
「イザベラちゃん! ワガママは駄目ですよ!」
「では、またお会いしましょう!」
「イザベラちゃーん!」
私に向かって手を伸ばすお姉様をそのままに私は孤児院へと転移した。
まったく。やれやれである。
孤児院に転移してきた私はまずオリヴィアお姉様に挨拶するべく、お姉様のお部屋に向かった。
そしてノックをしてから返事を待ち、部屋に入ってから一礼をする。
「急な訪問となり、申し訳ございません」
「いえいえ。ここはイザベラさんにとっても家の様な場所ですからね。その様な固い挨拶は不要ですよ」
「ありがとうございます。お姉様」
「ふふ。しかし、イザベラさんにしては珍しいですね。またお姉さんと喧嘩でもしましたか?」
「あ! いや、その……お恥ずかしながら」
「まぁまぁ。それは困ってしまいましたね。早く仲直り出来ると良いのですが」
「いえ! 良いんです! 今回の件は全部お姉様たちが悪いんですから!」
「あら。そうなのですか?」
「はい! だって、お姉様ったら、私に黙って結婚の準備を進めていたんですよ!? 信じられますか!? 本人の知らない所で進んでいる話なんて!」
オリヴィアお姉様は私の話を静かに微笑みながら聞き、頷く。
そんなお姉様を見ていると、何だか少しずつ心が落ち着くのを感じるのだった。
「それで、私怒ってしまって」
「飛び出してしまった訳ですね」
「……はい」
私は落ちていった気持ちと共に肩も落として、お姉様の言葉に頷く。
「イザベラさんは……もうお姉さんと顔も合わせたくないと思ったのですか?」
「いえ! そういう訳では無いんです。ただ、その勢いで」
「そうですね。では、イザベラさんの願いはお姉さんと仲直りをする事。という事で、私も協力させていただきますね」
「……ありがとうございます。オリヴィアお姉様」
「構いませんよ」
穏やかな微笑みを浮かべるオリヴィアお姉様に私は安心しながら小さく頷くのだった。