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15. ついてきて!


 「え…………結衣里、ちゃん……?」

 「え……っ……あっ!?」


 目を白黒させている羽畑さんを見てようやく気付いたのか、結衣里があわてて手で角を覆い隠す。

 しっぽもすぐにスカートの中に隠したが、羽だけはすぐには仕舞えず、かえって目立つように羽ばたいてしまっている。


 「え……え? 水野くん……ねえ、これって……」

 「え、ええっと。なんて説明したらいいのか」


 元々羽畑さんには相談しようとも思っていたが、いくらなんでもいきなり「妹が悪魔になってしまって」なんて言って、まともに取り合ってくれるわけがないと思っていた。

 だから、相談するにしても、どう切り出したらいいのかと悩んでいたのだ。


 それをいきなり、しかもよりによってロクな説明もせずに実物をお見せする形になってしまった。


 「え、あの、これってどういう状況? コスプレ……だよね?」

 「……うーんと」


 ふと、コスプレで押し通した方がまだ楽かという思考が脳裏をかすめる。

 ある日突然悪魔の羽が生えたなどと、説明したところで普通は信じてもらえそうにないからだ。


 「……正直、ただのコスプレであればどれほど良かっただろうな……」

 「え? それって」

 「ううん、話すとそれこそなが〜くなっちゃうんだけどさ……」


 だが、こうして現物を見られてしまった以上、誤魔化し切れるものでもない。

 神社の家の子なら、少なくとも端から馬鹿にして取り合わなかったり、頭ごなしに拒絶したりはしないだろうと信じ、なんとか説明することに決めた。


 「って、待って! 他の参拝客の人たちに見られてるっ」

 「っ!? きゃっ、お兄ちゃん!?」


 この神社はそこそこ大きいだけに、平日の夕方にも関わらず参拝客は皆無というわけではない。

 そんな中で、巫女さんと一緒に羽の生えた美少女がいたら否応なしに注目も集まろうというもの。


 司は咄嗟に結衣里を背中から抱き寄せ、衆目から庇うように自分の身体で覆い隠した。


 「結衣里、とりあえず羽だけでも隠せない?」

 「それが……どうしても消せなくてっ……!」


 数日間に現れたばかりの時のように、どうやら自分の意思で消せなくなってしまっているらしい。

 どうしたものかと、司は手立てを探るように周囲を見回す。


 幾人かは司の身体では隠しきれない結衣里の羽に気づきつつあるようだ。

 このままだと騒ぎになりかねない。


 「…………こっちっ!」


 騒ぎにしたくない司の意図を汲み取ったのか、羽畑さんが結衣里の手を取って裏道の方へ駆け出した。


 「ついてきてっ! とりあえず、ウチに案内するからっ」

 「えっ、あのっ!?」

 「……ありがとう、助かる!」


 結衣里を引っ張っていく羽畑さんの先導を頼りに、司も走り出す。


 「ほら、遅れるぞ結衣里」

 「あっ、ちょっとっ!」


 結衣里は初対面の相手に手を引かれることに戸惑っているのか遅れそうになるが、司が並んでもう一方の手を引き始めたことで気を取り直し、不安そうだった表情をゆるめて走り出した。


 「……ふふっ。やっぱり“お兄ちゃん”なんだね」

 「うっせ。それより、このまままっすぐでいいのか?」

 「うん。裏道から駐車場に出て、右に曲がってすぐの所にある家が私の家。そこならとりあえず人目には付かないと思う」

 「了解。頼りにしてるよ委員長」


 やはり持つべきものは友達だと、司は改めてクラスメイトに感謝の念を持った。


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