三日月
マスターは別れを学ぶために学校に行けと言った
そしてそこで出会った人達はみんな僕を受け入れた
「おはよう。」
「また、明日。さよなら。」
そう元気に声をかけてくれる人達
ある日マスターは言った
「色んな人と平らに付き合うんじゃない。大切な人と深く付き合うんだ。」
僕は特別を作った
マスターと教室の人たち
いつも誰かと一緒で、移動も、ご飯も、登下校も
するとマスターは言った
「特別っていうのは沢山持っていない方がいいんだよ。」
だから特別を減らした
そうしたら、
「なんであいつらだけ特別扱いするんだよ。」
「私達と一緒にいるの嫌だったの?」
と、教室の人たちは言った
特別な人たちも、
「なんであの子達だけ仲間にしないの?」
「お前、自分勝手だよ。」
と、口を揃えて言った
僕はマスターに言われた通りにしただけなのに
その日マスターは言った
「そうだな、特別っていうのは見えない方がいいときもあるんだ。明日、皆に謝ってきなよ。」
どうして、と問うと
「君がしたことは、彼らにとって辛いことだったんだよ。もしかしたら必要とされなくなったと感じてしまったのかもしれないね、」
そう言われて、僕は何も言えなかった
「まだ難しかったかな。いつか分かればいいから。少しずつ慣れていこうね。」
そのいつかは訪れなかった
卒業するという時期にマスターは病に侵されていた
「きちんと友達に別れを告げてくるんだよ。」
起き上がることすらできない身体の力を振り絞って、手を握りながらマスターは話した
分かったと言い、学校に向かう
式は滞りなく終わり、教室の人たちでの歓談が始まっていた
涙する者、満面の笑みの者、今更少し素っ気無い者
その全てに僕は別れを告げる
すると、
「そんな悲しいこと言うなよ。」
「そうだよ。こういう時はこれから頑張れよ、とかのほうがいいかな。」
と、誰も僕に別れを告げる人はいなかった
そして口を揃えて
「永遠の別れでもないし。」
と言った
それなのに、帰りの挨拶でさよならと言うのだ
その時僕は何となく納得したことがあった
人間は本当に会えなくなる別れのときには、別れを告げないのだと
卒業式のあと病院に戻ったときマスターは意識がなかった
震える手をそっと添えると確かに反動を感じた
奇跡のように放たれた言葉は
「ちゃんと学べたんだな。」
という言葉だった
そうなのだろうか
本当に学べたのなら、マスターに確認してほしいのに
その手は二度と握り返されなかった
フィーリングで読むものです
彼はこの後共生していきます