【第八十話】ブラックファルコン事変の事後処理
翌日。
あの後ダンジョン内にて丸一日を過ごし、スタンピードが落ち着いたタイミングで防御を解除。そして間も無く全員でダンジョンの出口へと辿り着く事が出来た。
結果として今回の作戦における損失はゼロ。
金持ち連中の動向が気になる所ではあるが、出入り口に見張りの様な存在の気配は見受けられず、我々は予想通り何の問題も無くダンジョンを後にする。その辺りから察するのであれば、シンプルに【不運】で流してくれた可能性が高いだろう。
そして一先ずブラックファルコンの隊員には解散して貰い、ヤマナとフィオ、そして俺たち四人と、ライリスの総勢七名を以って我が家へと帰還する。
「お茶の準備をしますね」
「頼む」
ルクレティアが直ぐ様客人を迎える準備に取り掛かる。リーシャンとローメイは疲労の観点から一先ず自室での待機を言い渡した。多分、直ぐに眠るだろう。かなり疲れた顔をしていたからな。
「さて、今後について少し話そうか」
「私から良いだろうか?」
「勿論です隊長!」
「異論はありませんとも」
この話の本筋はライリスの身の振り方にあり、それはブラックファルコン隊長の奪還として状況に参加していた彼らにとっては、隊長として復隊して貰う事こそがベストと言えるだろう。
そんな彼らを目の前にし、ライリス本人が語るというのだから、聞く他あるまい。
「私はこのまま彼に奉仕する道を行こうと思う」
「なっ!?」
「ライリス隊長!?」
……まぁ、実際の所を考えると、総合的な判断としてはそれが最も丸いだろう事は理解できるが、直球過ぎてフィオに睨まれている。「この変態!」とでも言いたげな視線だ、勘弁して欲しいのだが。
「いや、落ち着いて聞いて欲しい。私がどんな目に遭っていたかを語るには、余りにも言葉の選択が難しい内容なのだが、恐らく察しはついているだろう」
「た、隊長……」
「その上で、私は陵辱の果ての惨めな死を待つばかりの身として、あの場で弄ばれていた。そこから救い出してくれたのは彼以外の何者でも無い。この身この命の全てを彼に差し出したとて、私には有り余る程の大恩が残ってしまうだろう」
「で、ですが隊長……」
「因みになのだが。君たちは、今回の騒動の報酬として、彼に何を提供するつもりだったんだ?」
「え?」
「あ、そ、それは……」
袖触れ合うも何とやらで、俺は何だかんだと見返りは求めていなかった。筋を通す事を考えるなら、確かにそこがそのままというのもおかしな話ではあるだろうな。
「関係者となったが最後、命の危険に晒される事となる本件、そしてその成功率は限りなく低かっただろう。そんな大任務を完遂させた彼への報酬、金に換算したとして、君たちは払えるつもりなのか?」
「……」
「一つ、案はありました」
「ヤマナ君か。君はブラックファルコンの副隊長だったからね、そりゃ考えくらい持っていて貰わなければ私としても悲しいくらいの話だ。それで、それはどんな案かな?」
「我らブラックファルコンを彼の傘下に加えて頂き、一蓮托生の覚悟で行動を共にさせて頂くというのを、提案するつもりでした」
「ふむ」
それもまた一案だろうな。
とは言え、俺がそれを望むかと言えばー
「で、主人君はそれを望むかい?」
「いや、必要ない」
「……そう、ですか」
要らないな。俺たちは俺たちのペースでやれていればそれで良い。そんな大規模な状況は求めていない。そんな中、意を決した顔のフィオが、
「な、なら!」
「何かなフィオ。君も案があるのかい?」
「私も! 私も貴方の奴隷になるから、それで……」
「で、主人君はそれを望むかい?」
「いや、必要ない」
「何でよ!?」
いやいや別に俺は奴隷コレクターって訳じゃないんだぞ?
誰彼構わず奴隷にして色にボケる生活を求めている訳でもない。ただ気が付いたらこうなっていただけなのだからな。断じて違うからな。
だがまぁ……
「ならフィオ、お前は今日うちに泊まっていけ。それでチャラだ」
「は? 今日?」
「そうだ」
「い、良いわよ。それでチャラなんだからね!」
「二言は無い。ヤマナもそれで良いな?」
「無論我々としては、むしろその様な事で済まされるというのは……」
「俺が構わないというのだから、問題あるまい」
「ならば、私に異論はありません」
散々、悪態ついてくれたフィオをそのまま無罪放免というのも罷り通るまいて。落とし所としてはかなり甘いのだろうが、せめて少しくらいは社会の厳しさを学んで貰おうじゃないか。
「さ、つまりだ」
ここで、ライリスが状況を仕切り直す。
上手いな、流石元隊長だけある。
「私一人の恩ですら返しきれぬと言うのに、本件のブラックファルコン全体の借りさえも温情による沙汰を下して頂いている。私の件、奉仕の道を選んだ私の選択に、これ以上何かあるのかい?」
「……いえ」
「私はライリス隊長が無事であるなら、構いません」
「あの、せ、せめて」
「何だ?」
「たまに会いに来ても、良い、かしら?」
「好きにしろ」
「……ありがと」
この流れになる事は想像がついていた。
彼女の身の救い方に心当たりが浮かんだその時点で、彼女は恐らく俺の支配下に入る他ないだろうなと考えていたからな。そこは打算的であった事は間違いないが、彼女を奴隷として支配したかった訳ではない。落とし所というのは、本当に難しいな。
ま、しかしながら……。
「よろしく頼むよ、ご主人くん」
「お手柔らかにな」
「君がそう言うのかい? 控え目なんだね、とても私の胸を躊躇なく貫いた人だとは思えない。ハートブレイクとは正にあの事だろうさ」
「やめてくれ」
俺と同じか、やや高いくらいの身長。
そして誰よりも大きな胸。
鍛えられた身体に、腰まである長い髪。
引き締まった太もも、瑞々しい唇。
秀麗な顔立ちで、こうも妖艶に微笑まれては。
……先が思いやられるばかりだ。




