【第七十五話】壊された女戦士act5
最初に気が付いたのはやはりベサイルであった。
「拙い! スタンピードだ!」
「チッ、どうする?」
「コイツらに何かあったらやべぇ。どうせ別の身内が権力で罪を振り翳して来るに決まってる。生き残っても地獄、どう考えても賠償金の方がまだマシだ!!」
「そりゃそうか。ゲンマ! 撤退だ!」
「馬鹿言え!! ならんぞ!! 今からが一番面白い……」
「死にてぇのか!!」
「っ!!」
その場にいた全てが一時に行動を止め、そして改める事となったその原因である【スタンピード】。
これまたダンジョンにて稀に起こる魔物の大量発生であり、その特徴としてどれだけ倒そうとも一定時間際限なく魔物が出現するという物があった。
故にそれを知る者達にとって取るべき選択など一つでしかなかった。即ち、撤退である。
「俺とゲンマが殿を務める、お前は前を切り拓いて可能な限り最速で脱出しろ!!」
「俺に命令すんじゃねぇ!! 行くぞ野郎共!!」
「「「へい!!」」」
まだ距離のあるタイミングでこれに気が付き、そして即座に撤退を指揮したベサイルとロウガは流石である。彼ら二人の判断の早さによって敵の到達よりも僅かに余裕が作れていた。
この僅かな余裕さえあれば、彼らであれば活路は見出せる。
「兎に角遠距離攻撃で死体と手負いの数を増やすんだ。それが敵の進行を鈍らせる」
「了解ッス。こりゃ、久々にヒリつきそうッスね」
魔力を込めた斬撃を飛ばす双狼の二人。彼らはその技術力の高さから魔力の扱いにも長けており、斬撃を飛ばす事を可能としていた。
だがそれらの威力は直接攻撃に劣る上、魔力消費も大きく、多用して良い様な代物では無かった。それを差し引いてもこの時点では足止めとなるキッカケを先頭に作っておきたいというのがロウガの判断であった。
そしてそれは見事に功を為す事となる。
「ちょっと遅くなったッスね」
「次に道が狭くなる所で俺たち二人は立ち止まって足止めを図る。恐らく、これで間に合う筈だ」
「了解ッス」
撤退する一団の先頭ではベサイルがその魔力を惜しみ無く奮っており、観覧車の引き手も二名に増やして爆走を続ける。ベサイルの懸念は後方からの接敵であったが、そこは双狼の二人に託すしか無く、兎に角前だけを見て斬り進んでいた。
「お頭! 双狼の連中が列から離脱しました!」
「何だと!?」
「さっきの曲がり角で敵を押し留める目的っぽいです」
「チッ、そういう事か。今の内に進めるだけ進むぞ!」
「「「へい!!!」」」
後方の憂いはこれで一旦気にしなくても良くなったベサイルは、四階層から三階層へと渡ろうとする坂が間も無くという地点にまで辿り着いていた。
このまま行けば振り切れる。そう気持ちが緩みかけていた、その時だった。
「なっ!?」
眼前から、スタンピードが迫ってきたのは。
━━━━━
何故こうなってしまったのだろう。
朧げに意識が取り戻せたのは、檻の中で手足を固定された状態の時だった。顔も腕も動かせず、尻を後ろに突き出す様な形で固定されていた。見覚えの無いシルクの衣服に身を包み、まるで舞踏会のドレスか花嫁の様な有り様で。
柄の悪い連中が私の檻と前を行く人を乗せた馬車を警護しており、何処かを目指している様だった。
そうして頭が働き始めると、下半身に強烈な疼きを覚え始めた。兎に角もどかしくて仕方がなく、触りたい衝動に駆られるのだが、腕が固定されており何も出来ない。己が下半身から絶え間なく体液が溢れており、衣服を濡らす事でその衝動の強さを物語っていた。
気が狂いそうだった。
誰かに触れて欲しくて意に反した言葉が口をついて出てしまう。誰か触って欲しいとそう望んでしまう。まるで言い慣れた言葉であるかの様にはしたない言葉を口から漏らしてしまう自身に困惑していると、やがて少しずつ記憶に異変が起こり始めた。
今日ここに至る迄の日々を少しずつ思い出し始めたのだ。
そうだ、私の手も口も下半身も、既に穢れに穢れ尽くした後なのだ。この程度に留まらない下品な言葉の数々をこの口から吐き出しては他者に我が身から溢れる欲求を鎮めて貰っていたのだ。
投与された謎の薬品によってそんな身体に作り替えられてしまった。私はもう……ライリスたった自身では無いのだろう。
そんな事をぼんやりと考えながら下半身の疼きに耐えていると、景色は一転し辺りは熱に帯びた空間へと様変わりしていた。意識が飛び飛びで、気を抜くと景色ごと変わっているから如何ともし難い。
そして、一団はある地点で立ち止まった。そんな事に気を掛けている余裕もなく、ただ只管に湧き上がる下半身の疼きに耐えていると、私を乗せた車だけが動かされ、そしてそこにそっと放置されてしまった。
同時に気が付いてしまう。何かがこの奥にいる。勝てるか? いや、無理だろう。そもそも手枷首枷が付けられたこんな磔の様な状態で何が出来ると言うのか。
私も間も無く死ぬのかと、まだダンジョンの中で魔物に殺されるのならマシな方かと浅はかな事を考えていた。
そんな私の眼前に現れたのは血の色に塗れた巨大な魔物、ブラッディオークだった。そして、大きな歓声が遠くから響いているのが聞こえてしまう。
その瞬間、私は全てに合点がいってしまった。これはショーなのだ。私はこれからコイツら魔物共に嬲られるだけ嬲られ、その果てに殺されるのだろう。隣に居た男に縋り付くも、取り付くしまもなくただ剣を残して行くのみで。
こんな枷の取れぬ手で剣を置いて行くなど、いっそ鬼畜の所業かとも思えたが、それは私の勘違いであった。
ブラッディオークの一撃によって檻が壊された。
それと同時にに枷から解き放たれたのだ。どうやらそういう仕様だったらしい。今なら逃げられるかもしれない、などという甘い考えが一瞬頭をよぎったものの、この手練れを前にこんな鉛の様な身体で逃げ切るなど死期を早めるだけだと、私は剣を握った。
戦った方が遥かにマシだろう。
だが、こんな身で敵う訳がないのだ。
私は無様に剣を振った。数匹のオークを制するも、衣服は次々に破られ、やがて強打を貰い、剣も奪われ、抵抗する力も残されておらず、身体の悉くをオークに掴まれてしまった。あぁ、もう私は……
皆は無事だろうか。
私一人が犠牲となることで、皆はちゃんと救えたのだろうか。馬鹿なアイツらの事だ、どうせ私をどうにか助けようなどと考える筈だ。だからこそ、極力痕跡も残さずに奴の屋敷へと向かったのだ。手の打ち用が無くなれば、如何な黒鷹のメンバーと言えど、諦めてくれるだろう。
父母は元気に過ごしているだろうか。
ドルイドの末裔に産まれた私だったが、自然系の能力に乏しく、剣に才を見出してしまった。馬が合わない里の皆の静止を振り切り、里を飛び出して幾年月。謝りに……行きたかったな。
こんな、こんな所で死ぬのだろうか。
オーク共にこの身を穢され、奴らの欲望が果てるまでボロ雑巾の様に使われるのだろう。我が身は頑丈故に、中々死ねぬだろうな。犯されて、犯されて、犯されて、もしそれでも私が死ななければ、奴らの子を生まされるのだろうか。こんな地でオークの慰みものとなり、死ぬまでを過ごすしかないのだろうか。
これが……私の人生の最後なのだろうか。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
もう叶わぬとは知っている。
だけれども。
お願いだ。
お願いだから。
「だれか……たすけて……」




