【第七十四話】壊された女戦士act4
「ブィィイイイイイイイイ!!!!!」
「素晴らしい、素晴らしいぞ! さぁやれ! 餌は目の前におるのだぞ!」
鼻息荒く、しかしてゆっくりと前進するブラッディオーク。そしてその姿を同じ様なレベルの鼻息で見やるマッケンとその一行。彼らは十分に距離を取っており、更に護衛連中はオークらに敵意も極力向けぬ様に努めていた。
ブラッディ種の魔物は、何故か女性を好む傾向にあった。その上で、彼らは獲物と決めた対象を死ぬまで犯し続けるのだ。最早種族としての繁栄などお構いなしのただ快楽的な欲求を満たすだけのその行為は、本来であればパーティに絶望を齎す恐怖の対象でしかない。連れ添ったパーティメンバーが無惨に犯され、そしてそのままその暴力によって絶命する。これ程の地獄は早々拝める物では無いだろう。
ましてや、今回はそのブラッディ種のオークである。只でさえ他種族への性的欲求を持ち、それによって子を産ませる性質を持ったオークが、性欲の権化たるブラッディ種にて出現したとあれば、何を考えているかなど火を見るよりも明らかであろう。
「やだ……そんな……」
ニジリニジリとライリスの元へと歩み寄るブラッディオーク。そして獲物が煩わしい籠に入れられていると気が付いたオークはー
「ブィィイイイイイイ!!!」
「キャッ!!?」
ライリスを封じていた檻を力任せに破壊してしまった。そして、その檻の破壊と同時にライリスを固定していた枷が解錠されたのだ。
「くっ」
その事に気がついたライリスは直ぐに体制を整え、自身の隣に置かれていた一本の剣を手に取った。そしてオーク達を睨みながら構えを取る。
「始まった、遂に始まったぞぉぉ!!!」
興奮を抑えきれないマッケン。そして同じくオークとライリスを見守る闇蜘蛛の面々。時折出現するブラッディオークと無関係な魔物は彼らや双狼の二人に斬られ、観覧者達が心置き無くこの時を愉しめる様にと配慮されていた。
「ハァァ!!」
「おぉ! まだやりおる!」
ライリス目掛けて飛びかかったオークキングを一閃の元に切り伏せた彼女だったが、その顔には夥しい汗が浮かんでおり、解き放たれど身体のコンディションが最悪である事に変わりはなかった。
「キャァァァ!!!」
「おぉ!! たまらんなぁ!!」
故に一匹を斬り伏せたとて、その隙にもう一匹のオークに衣服を引きちぎる様に壁に向かって振り回されるライリス。
まるで花嫁衣装の様な美しい様相の女性が純粋な暴力に只管背徳的に穢されていくという悪魔の様な絵面であった。千切れたスカートの隙間から僅かに下着が見えており、それによって彼ら観覧者たちは大いに賑わっていた。
女性の下着など見飽きるほどに見て来た筈の連中が、血疾る眼でライリスのショーツに釘付けになっていた。
「ブィィイイイイイイ!!!」
「くっ、こ、こいつのこうげきだけは……」
ブラッディオークはその手に握っていた斧を地面に落とすと、大きな掌でライリスを捕獲せんと手を伸ばした。だがそこから必死に逃げ惑うライリス。気がつけば彼女の周りには更に四匹のオークキングが出現していた。
だがそんなオークキングの脅威を無視してでも回避すべき存在が眼前に迫っているライリス。この様な状況でまともに立ち回れる訳も無く、
「ギッ!?」
「ブィィイ!!」
衣服は段々と細切れにされ、最早露わになった下着を隠す布は残されていない程に追い詰められていた。だが問題は布面積の少なさでは無い。
「ハァハァハァハァ、ど、どうれば……」
全身から噴き出す汗と意に反して滴る下半身の体液。更には蒼白となった表情が物語る状態異常の深刻さと体力的な限界。それらが間も無く彼女の自由な行動を奪いかねないという所に迫っていたのだ。斬り伏せたオークは全部で三体。たった三体である。
本調子の彼女であれば僅か数秒の内に全て斬り伏せ、ブラッディオークと対峙する形となっていただろう。その上で、斬り勝ったであろう。だが今の彼女の儘ならぬ身体は、彼女の思う通りに動いてはくれなかった。
そしてー
「しまっー!?」
「ブィィイイイイイイ!!!」
「ぐぁっ!!?」
未だ抵抗の可能性を残すライリスに対し、ブラッディオークがその大きな手を横薙ぎに払ったのだ。背後から迫ろうとしたオークキングに一瞬意識を奪われた隙を狙ったブラッディオークによる的確な攻撃は、まるで大木と衝突したかの様な勢いで壁面へと打ちつけられる結果を招いた。
だが頑丈な彼女の身体は、早々に死ぬ事を許してはくれなかった。崩れる壁面から震える手で剣を握り立ち上がったライリス。
「くっ……」
そんな彼女に群がるオーク達。
「いよいよじゃ、遂にこの時が!!」
そしてオークの一匹が、
「なっ!? け、けんが……」
彼女から剣を奪い、それを背後に投げ捨てる。これにより、遂に対抗する可能性の全てを失ってしまったライリス。
「や、やめ……」
迫り来るオーク。
「キャァァァァァァやめてぇぇぇぇぇぇいやだあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
身体の部位の各所をオーク達に掴まれ、身動きも取れぬそのままに、最後の砦であった下着も剥がされ様としていた。
絶望の表情の中、僅かに取り返した理性のせいでライリスは、死の淵で様々な事が頭を過っていた。仲間達は無事だろうか、父や母はどうしているだろうか、自分はこのまま死ぬのだろうか、死ぬのならせめて、冒険者として死にたかったー
「いやだいやだいやだいやだ……」
美麗なその頬を幾度となく伝う大粒の涙。訳もわからずただ只管に男に媚び続け、そして犯され続けた日々の果てに漸く取り戻した僅かな理性。未だ飲み込めぬ訳もわからぬ状況の中、必死の抵抗も虚しく彼女は死を悟っていた。
そしてその死は誇り高い戦士それではなく、軟弱な服装に身を包み、まともな抵抗も出来ぬままただ魔物の慰みものにされた挙句の惨めな死でしかなく、忌むべき連中の愉悦の為の死でしかなかった。
悔しかった、悲しかった、そして寂しかった。
彼女が生きた冒険の果てがこれなのだとしたら、どれだけ残酷な運命だろうか。
そんな彼女の悲痛な叫びはマッケン達の悦びの糧にしかならずー
「だれか……たすけて……」
四肢をオークに掴まれ、彼女を守る最後の衣が剥がれようとするその間際、ライリスは祈る様に、誰ともしれぬ誰かに助けを求めた、その瞬間。
その場に異変が起こった。
「……何だ?」
最初に眉を顰めたのはベサイルだった。だが間を置かずロウガもまた、
「ダンジョンの奥がおかしい。六階層の方だ」
「何ッスかね」
「分からん。だが構えておけ、良い気配ではない」
「……ッスね」
何かが起こった。そしてそれにより、狂気の愉悦に浸る金持ち連中を尻目に、護衛の面々はただダンジョンの奥を険しい表情で見つめていた。




