【第七十二話】壊された女戦士act2
ダンジョンの入り口は鬱蒼とした森の中にひっそりと存在していた。だがその場所の厳かな雰囲気とはかけ離れた異質な圧力を放つダンジョンの入り口は、その場に近付いてきた実力者達に確かな熱を与えていた。
「嫌な気配ッスね」
「あぁ、こういう場所では良く人が死ぬ。浅い層だからと言って油断は出来んな」
「油断なんて無理ッスよ」
額から冷や汗を流すゲンマが眉間に皺を寄せながらパーティ全体を見渡す。そして心中にて考える、これらを守りながらこの圧力の中で過ごすのかと。成る程これは莫大な報酬が頷けると彼は生唾を飲み込みながら顳顬を通過しようとしていた冷や汗を指で拭った。
「間も無く、か」
目的とする場所は聞いていたが、それが何処にあるのかは知らない筈のロウガがそう呟いた時。
「止まれぇぇ!」
全体を指揮していた闇蜘蛛のベサイルが大声を張り上げてその場を制した。そして、ゲンマもまたここがその場所である事を悟っていた。
「あぁ……見なくても分かる感じが本当に嫌ッスね」
「全くだ」
辿り着いたその場所にて簡易的な野営地を建設する闇蜘蛛の面々。彼らはこう言った請負の仕事を生業としており、団体での行動に慣れているギルドである。岩場を背にしつつ金持ち連中のテントを設置すると、そこからそれを覆う半円形に自分達の荷物から馬の待機所や荷馬車を設置しながら野営地を形成していく闇蜘蛛達。
そこでダンジョン突入の準備を整えつつ、金持ち連中を一旦休ませ、先遣隊が内部の様子を簡単に確認する。周囲に異変は見られず、ダンジョン内も極めて平穏であると確認が取れると、後は金持ち連中のゴーサイン待ちとなる。
「おいベサイル! 皆がそろそろだと言っている。準備は出来とるだろうな!」
「勿論です、お客様方は観覧用の押し車へと乗り込んで下さい」
「よろしい。フヒヒヒヒこのスリルたまらんなぁ!」
「全く、マッケン殿も人が悪い」
不気味な笑顔を浮かべるマッケンに対して、その後ろに続いていたこれまた高価な衣服に身を包んだ男が声をかける。そんな男に対してマッケンはより笑みの醜悪さを増しながら言葉を返した。
「だが君も来たじゃないか」
「そりゃねぇ。我々クラスともなると娯楽が尽きて生活にハリを出すのに苦労するというもの。こんな機会に便乗しなくてどうしますか」
「んふふふ、分かりますとも」
金持ち連中が観覧用の押し車へと乗り込むこと幾数名。その車の引き手として闇蜘蛛から二名が前に付くと、ゆっくりとそれを動かし始める。
「気を付けろよ、何にクレーム付けられるとも分からねぇからな」
「勿論ですお頭。言葉を返す様でアレですが、何が聞こえるとも知れないので会話も控えておきましょうぜ」
「おっと、確かにな。そりゃ良い心掛けだ」
そして、その荷車の後ろには檻の様な荷馬車が続いており、その中にはライリスの姿が見えていた。
「ハァハァ、どうして、なんでだれもふれてくれないの……」
この日は催し事の為美しい衣服を着せられ、これまでに無い程に煌びやかに仕立てられていたライリス。だがその両手両足はそれぞれ枷で固定されており、そのアンバランスな光景が事の淫猥さを一層引き立てていた。
そしてそんな彼女の下半身からは絶えず体液が溢れ出している様で、股から下は水分による衣服の変色が確認出来る様相を呈していた。
「堪らねぇなぁオイ、何なんだよこの雌野朗。コイツの臭いだけでおっ勃っちまうぜ」
「服も着ていてエロい様子なんて何処にもねぇってのに、臭いとあの表情だけで発情させらちまう。ありゃ一種の魔物みてぇなもんだな」
「サキュバスってのはあんな風に生まれるんじゃねぇのか?」
「違いねぇ」
全体の先頭にベサイル、そしてそこから押し車を囲う様に闇蜘蛛の面々が脇を固め、そして後ろを任されているのが双狼の二人。
それぞれが表情硬く、ライリスと距離の違いロウガとゲンマの二人は特に険しい顔をしていた。
「ヤベェッスね。気を張ってないと淫気に当てられて持っていかれそうッス」
「どんな使い込まれ方をすれば、あの気丈な戦士があの様な姿にされてしまうのか。他人ながら同情の念を禁じ得ない」
「明日は我が身ッスね」
「やめろ。そも、男に生まれた事に感謝するんだな」
「ッス」
余りにも催淫が過ぎればライリスとて動けぬままつまらぬ絵面となりかねない。故に今日の彼女は浅い催淫状態に留められていた。より、獲物がエサとして美しく機能する様に。
こうして、一行はダンジョン内へと足を踏み入れた。
*
ダンジョン内は外に比べると気温が高く、またそれは歩みを進めれば進める程に加速していき、三階層を越える辺りで既に汗を流す程の熱気を帯びていた。
出現する魔物達は全て闇蜘蛛のメンバーによって処理されており、双狼の二人はそれを背後から眺めているだけの時間が続いていた。
そして、チラホラとゴブリンの出現が確認され始めた。
「まだじゃ、この奥にオークも出てくると聞いておる。そこまで進むのじゃ!」
「元よりそのつもりです」
怒号を飛ばされつつ、軽くいなして見せるベサイルだったが、内心はかなり波立っており、神経を擦り減らしながら歩みを進めていた。
ここでもし事を仕損じれば、荷馬車に詰められた【慣れ果て】と同じ末路が自分達にも待ち受けているのかと思えば、それもまた仕方のない話と言えるだろう。
だが彼らは目が眩んでしまったのだ、それをして余りある報酬の高さに。これさえ終われば自分達はこんな豚共のお守りから解放されるのだと自身に言い聞かせながら、ベサイルは周囲を警戒し続けていた。
そうして進み続け、やがて一行は五階層へと辿り着いた。




