【第七十一話】壊された女戦士act1
【灼熱慟哭のダンジョン 5F】
遂に催し事の予定日となった。
今回懸念する点は金持ち連中が【どこで諦めるか】と【隊長がとこまでやれるのか】という点に掛かっている。実際の所作戦の決行に際して、今回のメンバーはかなり豪華な物と言えるだろう。
ヤマナもフィオも俺やルクレティアに並ぶ実力者で、その他の面々も陰りが見えないレベル揃い。リーシャンとローメイがポイントでしか活躍出来ない様な面子が各所に散っている。こちらの思惑が上手く機能しないという事は無いだろう。
「全員、配置に着きました」
「助かったよヤマナ。準備も進んでいるのか?」
「既にほぼ完了と言って差し支えないレベルかと」
「成る程。ならば後は……」
「私とヤマナとアンタ達が隊長を救い出すだけって訳ね」
「そういう事だ」
フィオが俺に神妙な表情で頷き、俺がそれに応じる。
後ろを見るとルクレティア、リーシャン、ローメイがやはりそれぞれ頷いて準備の完了を告げていた。
ここまで来れば後は野となれ山となれだ。決して低い可能性の中の挑戦という程の事でもない。
隊長が早々に諦めたのなら此方としても手の打ちようが無い。だがもしも彼女が抵抗の意を見せたのであれば。恐らくそこからはなし崩し的に此方のリズムで事が進むだろう。
ダンジョンに入るまでの痕跡も丁寧に隠滅してきたし、ダンジョン内に関しては七階層以降にしか手を出していない。少しばかり趣き返しも用意してあるから、金持ち連中には是非愉しんで貰いたいものだ。
これに関しては入り口に細工をしているのだが、気付かれる事は万に一つ程の確率だろう。リーシャンローメイの様なスキル持ちでもない限り看破は難しい、バレる事は無いだろう。
さて、どう転ぶ事やら。
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「イヒヒヒヒ、愉しみが先行し過ぎて笑いが止まらんわい」
豚の如き姿形に高価な衣服を纏わせ、貴金属を全身に散らばせた様な醜悪な見た目の男が鼻息を荒しながらそう言葉を吐き散らした。
主催者であるマッケン・ハーキンスは異常性癖と権力を持ち合わせてしまった危険な男として界隈で知られていた。彼の一族が所有していた山から希少鉱石が出土する事が確認され、彼らはその権利を独占する事で富を築いた一族だった。
そこまでに留めるのであれば、それは国や近隣の街々を豊かにした大いなる功績として歴史に名を連ねたであろう。だが彼ら一族はその収益を身内のみで扱い、労働者達は雀の涙の様な賃金で使役されていたのだ。
では彼らはその金を何に使っていたのか。それは言うまでもなく私服を肥やす事に他ならない。貴重な素材や食品、過剰に贅沢な日々の食事。何に使うのか分からない貴金属の買いだめ。そして、美しい女を買収しては使い捨てる如く酷い扱いを繰り返していた。
特に女の扱いは酷いという事で表現し切れないレベルに達していた。
「これで何人目だろうか、のうベレスよ」
「実験目的を除くのであれば、五十人目でごさいます」
「おぉ! 数字が美しいな、今夜はパーティを開こう」
「元より、準備を進めております」
「うむうむ、宜しい」
媚薬の開発を目的とした実験は数え切れない程の試行回数を重ねており、死体の数は数え切れない程となっていた。この国での奴隷の扱いは他国に比べてもかなり酷い部類に属しており、死と同義に近いものがあった。故に奴隷となる場合は命に感じた止むを得ない事情や、何かしらの重い事情が無ければ進んでなりたいものなど一人もいないだろう。
だがその止むを得ない事情の中に【金】が関わってくるのであれば、その状況を生み出す事は難しい事ではなかった。
マッケンは奴隷の扱いの酷い奴隷商人と手を組み、金をチラつかせる事で人々をコントロールしていたのだ。
そして【そういう事】を好む金持ちは、悲しい事に少なくは無かった。
「もう間も無く到着致します」
「イヒヒ、涎が止まらんなぁ!」
彼ら一行を乗せた馬車群が土煙を舞い上げながら進み、その目的地はこの辺りでは有数の高レベルダンジョン、【灼熱慟哭のダンジョン】である。
「チッ、テメーら油断するなよ! 浅い層で引き返すとは言え【S】ランクのダンジョンだ。何が起こるとも分からねぇぞ!」
「「「うぇーぃ!!」」」
そんな金持ち連中の頼みの綱であるSランク冒険者ギルド【ダークスパイダー】、その頭であるベサイル。そして、
「闇蜘蛛が居て何故俺たちまで」
「ま、こういう仕事は稼げるッスからね」
同じくSランク冒険者ギルド【ツインウルフ】のロウガとゲンマの二人が同行していた。金に余裕のある彼らにとってSランクギルドを二つ雇う事など造作も無いのだ。
「とは言え」
ゲンマが視線を後方にやると、その先には檻が用意されており、中にはライリスが鎖で繋がれていた。彼女は下半身から体液を溢れ出させながらその場にへたり込み、誰かに触れて貰いたくて呼吸を荒くしている。
「アレ、ちょっと残念ッスね」
「確かにな」
双狼と黒鷹には当然面識があった。故にその隊長である彼女の末路にはやや同情の念を禁じ得なかったのだ。
「Sランクとは言え五階層であれば問題もあるまい」
「だと良いんスけどね」
「気は、抜けんがな」
「ッス」
一行は、灼熱慟哭のダンジョンを目指し進んでいた。




