【第六十八話】因縁のダンジョン
『あぁぁあぁぁあぁあぁあなんでもしますからおねがいですごほうびをくださいぃいいぃぃいもうがまんしすぎてこわれそうなんですおねがいしますうぅぅうぅう』『ハッ、ここまで来るといっそ芸術的だな』『あ゛ぁぁぁあぁぁあぁあぁあ』『剥製になされますか?』『だれがいれでぇぇぇぇぇぇぇ』『いや、折角じゃ。予定通り余興で使い潰そう、ガッハッハッハッ』『だじゅげでぇえぇええぇぇえぇぇ』
僅かに聞き覚えのある声。まさか、いやそんな馬鹿な。ここまでの変貌を? たった数日で? 何があったってんだ。
『もうだめですうううぅうぅぅなんでもいいからなにかくださいぃぃいいいぃぃいぃあばばばばばばばばぁあぁぁああぁぁぁああああぁぁあ』『鉄製の枷にしておいて良かったのぉ』『ですね、首と手首から血が出ていると言うのにまだ暴れている。ドルイドの生命力が無ければ死んでいてもおかしくないでしょうに』
首と、手首に……枷。そして先の男達のやりとり。これは少し拙い流れになってきたな。行為中でも無いとなると、クスリか何かをキメられてるのか? 現状、皆と合流しようとも、俺たちでは手の出し用が無い可能性が高い。
そも、助け出すのが困難だ。護衛が居て、その上で金持ち連中が集められると言っていた。そんな所に乱入でもすれば、それこそ全員【こう】されかねない。
何より、本人が【この状態】では助けた所で、その後どうすれば……! ん? いや待てよ。可能性はゼロでは無い……か。
さて、厄介な事になってしまった。
これは見事に不幸中の幸いの中の不幸な話だ。
彼らに、どう伝えたものか。
*
その後、俺はもう少しだけ粘って情報を集めたが、これと言った旨味のある話は得られなかった。よって来た道を戻り、例の隠し扉から静かに撤退した。因みに例の隠し扉は閉めた地面で施錠された様だ。俺が再び力任せに開けようとしても全く開く気配が無かった。罠は無いが単純に強固な扉、という感じなのだろう。
そして、俺は全員が待機する自宅へと帰還した。
「どうだったの!?」
「……落ち着け。順を追って話す」
扉を開けた瞬間玄関まで詰め寄るフィオに両肩を掴まれて情報をせがまれる。気持ちは分かるが、余り良い話はしてやれそうにないのが心苦しいな。
「何か分かったのね、今話して!!」
「落ち着けフィオ、それでは彼も話せまい」
「でも! ……うん、分かった」
「すみませんでした、落ち着いて聞かせて下さい」
「助かるよ」
リーシャンとローメイが俺の荷物を回収し、椅子を引いてくれた席に着く。そして、俺の前へとルクレティアが飲み物を置いてくれた。さて、どう話したものか。
「良い知らせと悪い知らせがある」
「良い知らせを教えて!!」
「それならまず、隊長は生きていると思われる」
「生きておられたのですね!!」
「隊長……良かった……」
机から身を乗り出して感情を露わにしたヤマナ、そして机に伏す様に喜びの涙を流すフィオ。悪い知らせが言い辛いな……。
「だが、無事では無かった。それが悪い知らせだ」
「……どういう事でしょうか?」
「た、隊長?」
「確定的な情報ではないが、彼女は恐らく隷属化されており、その上で依存性の高い薬物によって自我を奪われている様な状態にあると推察出来る雰囲気だった」
「隷属化……。奴隷にされた訳、ですか」
「薬物って、それじゃ隊長は……」
「まず以って無事では無い、という訳だ。推し計っている状態に過ぎないが、恐らく間違い無いと踏んでいる」
「そ、そんな……、何と悍ましい連中なのか……」
「そんなの酷過ぎる!! あんまりよ、どうして私たちの隊長がそんな目に遭わなきゃいけないのよ!!」
気持ちは分かるが、こうなるとも予想は出来ていた。嵌められた理由がそもそも隊長の身体目当てでの事だったなら、然もありなんと言った話。だが今はー
「ヤマナ、フィオ、すまないがそれは後にしてくれ」
「何よ!! アンタ平気だっていうの!?」
「良い加減にしろ」
「うっ」
少しだけ、殺気を込めて台詞を吐く。そしてー
「俺とて憤りは覚えている。だがそれは隊長の生還の阻害にしかならないと理解しているから、敢えて抑えているだけに過ぎない。これ以上邪魔をする様ならこの状況から外れて貰うぞ」
「ぁぅ……、あ、あの……ごめんなさい」
「いや、強い言葉は使ったが、フィオの気持ちも理解出来るんだ。だから落ち着いて話そう」
「……分かったわ」
落ち着いて話せるならば、今話すべきは明確だ。俺たちにはまだやるべき事が沢山あるからな。
「では良い話と悪い話を踏まえて、本題に入るぞ。どうやら近々、隊長を殺すイベントが執り行なわれるらしい」
「な!?」
「そんな!!?」
だがこれは、一方で良い話でもある。
「チャンスがあるとしたら、その日しかないだろう」
「え!?」
「は???」
奴らがあの場所に引き篭もっている限り、こちらに手出しする術はない。それこそ違法な手段にでも手を染めない限りは。だが、彼女が屋敷外で使役されるその時であればー
「考えてもみろ、厳重な警備の中、正当性さえ向こう側にある状況での犯罪行為しか出来ない俺たちに何が出来る?」
「出来る事はある……筈」
「確かに在るには在るだろうよ。だがそれをやったなら、隊長の行いが全て無に帰すと言っているんだ。ギルドや金持ち連中を全て敵に回して余生を過ごすつもりか?」
「隊長の為なら私は構わないわ! 私はどうなっても良いの、だから隊長をどうにか……」
「それを、隊士全員に強要出来るのだな?」
「うっ……、いや、わ、私だけで……」
「それこそ、そんな上手く立ち回れる可能性など塵芥のレベル」
「ぅぅ……」
「だからこそ、死地からの救出に賭けるんだ、上手く掻っ攫うにはここしか考えられない」
「た、確かにそうですが」
「でも隊長、殺されるって……」
「奴らは【余興】と言っていた。金持ち連中が集まり、何か催し事を行う中で、彼女を見せ物として利用するであろう状況が予想出来る」
「……成る程」
「すぐには殺されない、って事ね?」
「そうだ」
最低な話ではあるが、恐らくあの感じからして【魔物に殺させる】か、或いは【魔物に犯させる】か、はたまたその両方か。ある程度これらに近い催しには違いあるまい。だからこそ、付け入る隙が残されている。
「少なくとも【いつ】【何処で】【何を】やるかさえ分かれば、こちらも対策が立てられる」
「つまり、私たちのやるべき事は」
「そう、今暫くは引き続き情報収集だ。その情報が集まり次第、行動に移ろう」
隊長を回収する、それ自体は上手くやれば何とかなるだろう。そして、最大の問題はその後だ。
「仮に、隊長が隷属化されていたとして、その辺りはどうお考えでしょうか?」
「そうだ、隊長はもう……」
「救出後の話だな。それについては、俺も考えた」
だが、実の所手が無い訳でもない。
「策はある」
「え!?」
「ど、どんな策なの!?」
「今はまだ言えん」
「何でなのよ!!」
「聞き分けろ」
「……っ!!」
だが、確実という訳でも無い。これまでの話から想像するに、可能性が僅かにある、と言った程度の話。とは言え、現状これに代わる打開策も思い付かない。上手くいく可能性が在る、という程度の拙い策だ。
故に最悪の場合、
皆に恨まれる事になるだろうな。
*
あれから三日の時が過ぎた。
ブラックファルコンの団員総勢十名の協力の元、掻き集められた情報によると、どうやら例の件が決行されるのは二日後だと言う事が判明した。思っていたよりも時間が無さそうだ。
そして行われる催し事、それは【かつて一流の戦士であった女vs魔物による姦淫ショー】だそうだ。種族内に雌の存在しない【ゴブリン】や【オーク】といった、他種族の雌を孕ませる事で子を為す魔物と戦わせ、敗北させる。
無惨に散る女戦士が恥辱の姦淫ショーを演じてくれるという、そういった趣旨だそうだ。胸糞悪い。
残る問題は場所なのだが、恐らく間も無く……!
俺たちが根城にしている小屋の外が騒がしい、どうやら派遣していた隊士の一人が帰還した様だな。何やら慌てた声が聞こえているが、まさか?
扉を開き、息を切らした隊士がこちらに向けて強い視線を送る。そしてー
「つ、掴みました」
「良くやってくれた。それで、場所は?」
「決行される場所、それは……【灼熱慟哭のダンジョン】です」
彼によって告げられた場所は、よりにもよって俺たちにとっても縁深い場所で。
「あそこ……か」
いよいよ以って、一度下見に行かなければという状況に。遅かれ早かれではあるが、まさかこう繋がってくるとは。つくづく、例の女戦士の隊長さんとは縁がある様だ。




